真世紀エヴァンゲリオン Menthol Lesson7 Angel Killer -14




Truth Genesis
EVANGELION
M E N T H O L 
Lesson:7

Angel Killer





「おおっ!?そうだ、そうだ」
朝食も済んで出勤や登校を待つだけの時間、ダイニングのテーブルに座って新聞を黙って読んでいた男が、不意に声をあげて新聞を下ろした。
男の名前は『マックス・洞木』、その名字の通りヒカリの父であり、ネルフ本部総務部総務一課所属・総務一課課長を勤務で階級は一尉。
名前を聞いただけでは日本人ではない様な気がするが、黒目黒髪で容姿も日本人的顔立ちをしており、言葉づかいも完全に日本人。
だが、その実はクォーターの生まれも育ちもアメリカ人なのだが、今は亡き洞木夫人と出逢ったのをきっかけに現在は日本に帰化している。
「なに?どうしたの?」
「実は言い忘れていたんだが・・・。今日、午後から松代の方へ出張なんだ」
キッチンで洗い物をしているヒカリが振り返ると、マックスは頭を掻きながらバツの悪そうな表情を浮かべた。
「今日からって・・・。当日の朝になって言わないでよね」
「す、すいません」
突然の報告に驚いて目を見開いた後、ヒカリはやや苛立ちに眉を釣り上げ、怯んだマックスはすぐさま新聞を上げ戻してヒカリとの視線を遮断。
「・・・で、ちゃんと準備は出来ている訳?」
「そ、それが、全然・・・。」
「呆れた。全く、いつもそうなんだから・・・。自分の事くらい自分でちゃんとしてって、いつも言ってるでしょ?」
「・・・は、はい」
それでも、ヒカリの言葉の語尾が半音上がるお小言は尚も続き、マックスは精一杯に身を縮めて嵐が過ぎ去るのをジッと我慢。
「ヒカリお姉ちゃんっ!!修学旅行のお金を頂戴っ!!!今日が締め切り日なのっ!!!!」
「はぁぁ~~~~・・・。」
そこへノゾミが慌てた様子でダイニングへ駈け現れ、さっきの今の親子揃っての突然の報告に、ヒカリが肩をガックリと落として深い溜息をつく。
「・・・どうしたの?」
「ははははは・・・。どうしたんだろうな」
ノゾミはヒカリの反応が解らず、マックスへキョトンと不思議顔を向け、マックスが理由を説明する事が出来ず乾いた笑い声をあげた。
「どうしたのじゃないわよっ!!そういう事は前もって言えって、いつも言ってるでしょっ!!!ノゾミっ!!!!
 修学旅行の積み立ての集金なんて何日も前から言われていたはずよっ!!どうして、その日の朝になって言うのっ!!!」
2人の暢気な態度に耐えていた怒りが遂に爆発し、ヒカリが矢継ぎ早に捲し立ててノゾミを怒鳴りまくる。
「な、なによぉ~~・・・。」
「・・・そ、そんなに怒らなくても良いじゃないか。ヒ、ヒカリ・・・・・・。」
ノゾミはその猛烈な怒気にちょっぴり涙目になって口を尖らし、マックスは自分にも原因があるだけに怖ず怖ずとノゾミを援護して庇う。
「お父さんもそうよっ!!今日が出張だなんて前々から解っていたはずっ!!!
 そう、そうよっ!!大体、いつもそんなだからノゾミが真似するんじゃないっ!!!お父さん、解っているのっ!!!!」
「は、はい・・・。そ、その通りです・・・。わ、私が悪いんです・・・。ご、ごめんなさい・・・・・・。」
その途端、ヒカリの怒りは一気にマックスへと向かい、たちまちマックスは恐怖に身を縮め、再び身を隠した新聞をしきりにカサカサと揺らす。
「なに、なに、どうしたのよ?朝っぱらから、うるさいわねぇ~~・・・。」
するとこのダイニングの騒ぎを聞きつけ、Tシャツにショーツと言うあられもない恰好をしたポーニーテイルの少女が続いてダイニングヘ現れた。
少女の名前は『洞木コダマ』、洞木三姉妹が長女であり、隔世遺伝によって現れた茶髪が金髪へ生え代わっている最中の思春期真っ盛りの女の子。
また、洞木三姉妹は3人ともが年子である為、今年は全員が第壱中に在籍しており、それぞれがなかなかの成績優秀者。
特にコダマは勉強をしている素振りも全くみせないのに、入学以来ずっと学年トップの成績を常に誇る英才であった。
「お姉ちゃんっ!!また、そんなだらしない恰好でっ!!!」
「良いじゃない。家なんだからさぁ~~・・・。それに昨日の夜は暑くってパジャマなんて着てられないわよ・・・・・・。」
ヒカリはコダマの恰好に眉を顰めて怒鳴るが、コダマは堪えた様子もなく気怠そうに欠伸をしつつ、目覚めの牛乳を飲むべく冷蔵庫へと向かう。
ちなみに、ヒカリとノゾミは制服に、マックスは出勤時のスーツにと着替え、あとは登校、出勤を待つだけとなっている。
「だからって・・・。お父さんが居るでしょっ!!ねえ、お父さんっ!!!」
コダマの言い訳に昨夜は確かに寝苦しかったと思いながらも、ヒカリは持ち前の潔癖性を披露して洞木家唯一の男性へ意見の同意を求めた。
「・・・って、何処、見てるのよっ!!お父さんっ!!!」
「んっ!?おおっ!!?・・・そ、そうだなっ!!!!ヒ、ヒカリの言う通りだぞっ!!!!!コ、コダマっ!!!!!!」
しかし、そこにあった鼻の下をビロ~ンと伸ばしたスケベ顔に期待を見事に裏切られ、慌ててマックスは新聞を素早く上げ戻して己の視界を塞ぐ。
マックスの鼻の下がビロ~ンと伸びてスケベ顔になっていた理由。
それは冷蔵庫を探る為に上半身を屈め、マックスの方へ突き出す形となったピンクのショーツに包まれたコダマのお尻を凝視していたからである。
奥さんを亡くして早数年、奥さんへの深い愛情故に操を立てたマックスだが、マックスもまだまだ脂の乗った30代後半の元気溢れる男。
それ故、例え娘とは言えども、女の子から女性へと変わりゆく娘の姿態へついつい目が行ってしまうのも無理がない話。
「じゃあっ!!今日、週番だから先に行くねっ!!!ヒカリお姉ちゃん、あとで教室へお金を取りに行くからよろしくっ!!!!」
「ちょっと、ノゾミっ!!まだ話は終わってないわよっ!!!」
その隙を突き、再び怒りの矛先が戻ってくる前に用件だけを一方的に伝え、ノゾミがダイニングを駈け出て行く。
「行ってきまぁぁ~~~すっ!!」
ガチャンッ!!バタンッ!!!
「・・・って、もうっ!!」
すぐさまヒカリは呼び止めようとするも時既に遅く、玄関の扉が勢い良く開き閉まる音が聞こえ、逃げられた悔しさに怒りゲージを1段階上げた。
「さてと、シャワーでも浴びようかな?・・・ねえ、ヒカリ。あたしのブルーのブラを見かけなかった?ほら、パンツとお揃いの」
「知らないわよっ!!」
「あっそ・・・。何処にしまったんだっけな?」
ヒカリの怒りが増した事を機敏に感じ取り、コダマもダイニングからの撤退を決め込み、自分の部屋へ着替えを取りに向かう。
「全くっ!!お姉ちゃんも、ノゾミもっ!!!たまにはお父さんからきちんと叱ってよねっ!!!!
 そもそも、お父さんが日頃からちゃんと態度で示していれば、お姉ちゃんも、ノゾミも、ああはならないはずよっ!!」
「・・・そ、そうかな?(ず、ずるいぞ・・・。ふ、2人とも・・・・・・。)」
その結果、当然の事ながらヒカリの怒りはマックスのみへと向かい、取り残されたマックスは立ち回りの上手い娘達を心の中で恨む。
「はぁぁ~~~・・・。そうに決まっているでしょっ!!!お父さんが全部いけないのよっ!!!!
 さっきだって、いつもお父さんがしっかりしていないから、ノゾミへ強く叱れないんだしっ!!
 お姉ちゃんの事だって、そうっ!!あれはお父さんがお風呂上がりにパンツだけで歩き回っている真似じゃないっ!!!」
姉妹達への影響に自覚が足りないマックスに溜息をついた後、ヒカリはマックスに背を向けて洗い物を再開させながらマックスの悪癖を注意する。
「大体、お父さんは服を脱いだら脱ぎっぱなしっ!!誰が洗濯とアイロンをすると思っているのっ!!?私よっ!!!!私っ!!!!!
 それに部屋はゴミで散らかり放題だし、食事中におならはするし、足は臭いし、トイレは汚すっ!!・・・・・・ああ、もう最悪よっ!!!」
「す、すいません。こ、これからは気を付けます・・・。(な、何もそこまで言わなくても・・・・・・。)」
しかも、始まりは些細な事だったはずが、ヒカリのお小言は苛烈を極め、マックスが顔を引きつらせて大粒の汗をタラ~リと流したその時。
余談だが、ヒカリ達の母親が既に亡くなっている事は先ほど説明した通り。
それ以降、洞木邸にあってはコダマが小さなお母さん役を務めていたのだが、コダマはヒカリが中学へ入学するや否や受験を理由にその役を放棄。
それ以後、生来の性格もあって、ヒカリは小さなお母さん役を嫌がる事なく、洞木邸の何から何までの家計すら含む一切の家事を引き受けていた。
プルルルル・・・。プルルルル・・・。プルルルル・・・。プルルルル・・・。
「おっ!?ヒカリ、電話だぞ?」
「解ってるなら、自分で出たら良いじゃないっ!!お父さんと違って、私は暇じゃないのよっ!!!」
玄関先にある電話が鳴り、マックスは天の助けと言わんばかりに喜んで電話の着信を知らすが、返ってきたのはヒカリの怒鳴り声。
プルルルル・・・。プルルルル・・・。プルルルル・・・。プルルルル・・・。
「そ、それもそうだなっ!!よ、良し、父さんが出ようっ!!!」
「良いわよっ!!私が出れば良いんでしょっ!!!出るわよっ!!!!出ますともっ!!!!!お父さんは新聞でも読んでいたらっ!!!!!!」
藪蛇だったとマックスが慌てて椅子から腰を浮かすも、ヒカリは更に怒鳴ってマックスを制止させ、洗い物を中断して玄関へと向かう。
プルルルル・・・。プルルルル・・・。プルルルル・・・。プルルルル・・・。
「あ、ああ・・・。そ、そうだな。お、お言葉に甘えるとするかな(ヒ、ヒカリ・・・。きょ、今日は女の子の日なのか?)
目を三角に怒り肩で目の前を通過して行く支離滅裂なヒカリを見送りながら、マックスは珍しいヒカリのヒステリーの原因について考えを巡らす。
プルルルル・・・。プルルルル・・・。プルルルル・・・。プルルルル・・・。
「ねえ、さっき言ってたブルーのブラ。幾ら探しても見つからないんだけど・・・。ヒカリ、本当に知らない?」
「知らないって言ってるでしょっ!!」
「なに、そんなにイライラしてんのよ?・・・あんたのあの日、今日だったっけ?」
「違うわよっ!!」
ヒステリーの原因、それは昨日のトウジの間抜けぶりにあるのだが、まさかマックスもそのとばっちりを受けているなどとは知る由もなかった。


プルルルル・・・。プルルルル・・・。ガチャッ!!
「はい、もしもしっ!?」
受話器を引ったくる様に取り、電話の相手に罪はないと言うのに不機嫌を隠さず声を荒げて電話に出るヒカリ。
『はぁ・・・。      はぁ・・・。      はぁ・・・。      はぁ・・・。      はぁ・・・。
       はぁ・・・。      はぁ・・・。      はぁ・・・。      はぁ・・・。      はぁ・・・。』
すると電話の相手は名乗りもせず、不気味な荒い息使いだけを返してきた。
「・・・・・・っ!?(や、やだ・・・。こ、これって・・・。ふ、不潔・・・・・・。)」
一瞬だけ茫然するも束の間、驚愕に目を最大に見開きながら素早く受話器を耳から目一杯に離し、ヒカリが嫌悪感あらわに受話器を睨み付ける。
『はぁ・・・。      はぁ・・・。      はぁ・・・。      はぁ・・・。      はぁ・・・。
       はぁ・・・。      はぁ・・・。      はぁ・・・。      はぁ・・・。      はぁ・・・。』
受話器からは尚も無言の荒い息づかいだけが聞こえ、ヒカリは電話へ出る前の苛立ちを取り戻すと、深い一呼吸をついて受話器を引き戻した。
「白ですっ!!これで気が済みましたかっ!!!もう2度とかけて来ないで下さいっ!!!!それじゃあっ!!!!!」
そして、その言葉にどんな意味があるかは全くの謎だが、ヒカリが息継ぎなしに捲し立て、受話器を電話へ叩きつけ切ろうとしたその時。
『し、死ぬ・・・。た、助けて・・・・・・。』
「っ!?・・・もしもしっ!!?もしもしっ!!!?」
受話器から聞き覚えのある声が弱々しく息絶え絶えに聞こえ、ヒカリはその真に迫る訴えに驚き、慌てて電話を切る寸前で受話器を戻して叫ぶ。
『ガシャンッ!!プーーー・・・。プーーー・・・。プーーー・・・。プーーー・・・。プーーー・・・。』
「今の声って・・・。」
だが、ヒカリの呼びかけ虚しく、受話器から何かがぶつかる様な音が聞こえた後、電話の主からの返事はなく電子音だけが返ってきた。


「何なんだ・・・。一体・・・・・・。」
ネルフ本部内にある居住区画の一室、首の後ろで手を組んでベットの上に寝ころび、シンジは天井を見上げながら何やらふてくされていた。
何故ならば、半日ほど前に緊急の呼び出しを受け、ネルフへ来たと思ったらこの部屋へ通され、それ以来ずっと監禁状態になっていたからである。
しかも、出入口の扉は電子ロックによって固く閉ざされ、室内にある電話機は通じず、部屋へ入る前に携帯電話も没収されている始末の徹底ぶり。
唯一の救いは部屋に一通りの生活設備が整っている事だが、生憎と今は夕方前なのでテレビは興味のない番組ばかりで暇を持て余していた。
「ダメだ・・・。さっぱり解らない・・・・・・。」
シンジは半日と言う膨大な暇を費やしてみたが、己に関係する何かが動いている事は解るもその何かが全く解らない。
「はぁぁ~~~あ・・・。もう考えるのも億劫になってきたよ」
その上、膨大な暇が徐々にシンジの思考力を蝕み、考える事を止めたシンジは寝ころんだままベットサイドにある電話へ右手を伸ばした。
(やっぱり、ここは・・・。手っ取り早く、MAGIを探ってみるしかないかな?)
電話から電話線を抜いて握り締め、電話線口に親指の腹を置き、シンジが静かに目を瞑って精神を深く集中させた次の瞬間。
プシューー・・・。
「っ!?」
不意に出入口の扉が数時間ぶりに開き、シンジは驚いて反射的に目を開け、上半身を勢い良く起き上がらせた。
「えっ!?」
部屋へ現れたミサトも何やら驚いて部屋へ1歩踏み入れた体勢で固まり、茫然と何度も目をパチクリと瞬かせた上に何度も目を手で擦り始める。
「・・・・どうしたんですか?」
一拍の間の後、いち早く驚きから立ち直ったシンジが、ミサトの反応を不思議に思って尋ねた。
「いや・・・。今、一瞬だけシンジ君の目がレイみたいに紅く見えたから・・・・・・。」
プシューー・・・。
一瞬見えた今とは違う色彩を放っていたシンジの瞳の色に首を傾げ、ミサトが部屋へ歩を進めると、素早く背後で出入口の扉が自動的に閉まる。
「はぁ?・・・何を言ってるんです?」
「でも、今確かに紅く光って・・・。」
ミサトの言葉に内心ではドキッと驚きながらも表面上は冷静さを装い、シンジは失礼なと言わんばかりに苦笑して肩を竦めた。
「酷いですね。猫じゃあるまいし・・・。気のせいじゃないですか?」
「そう、そうよね。・・・疲れているのかしら」
ミサトはシンジの指摘にもっともだと頷いてシンジの正面に立ち、やけに疲れた感じがする深い溜息をつきながら背後の壁へ背を寄りかける。
「多分、そうでしょう。
 ・・・で、その疲れている原因は何ですか?今、少しだけ見えましたけど、部屋の前に見張りがいる様ですけど・・・。何があったんですか?」
ならばとシンジは胡座をかいてベットに座り直すと、ミサトへ真剣な眼差しを向け、単刀直入に自分の監禁理由について問いた。
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
だが、ミサトは口を堅く閉ざしたまま何も応えず、2人は見合ったまま部屋に沈黙だけが流れてゆく。
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
無音の果てしない時間の経過の末、ミサトが耐えきれなくなってシンジから視線を逸らしたその時。
「・・・何があったんです?」
「シンジ君がここへ来る前・・・。つまり、学校へ登校する時に洞木さんが誘拐されたわ」
シンジが間一髪を入れず再び問いて鋭い眼力を放ち、ミサトが視線を逸らしたまま己に与えられた任務である訪問理由を遂に告げた。
「っ!?」
「目的は・・・。シンジ君、あなたよ」
その途端、シンジの目が驚愕にこれ以上ないくらい見開き、ミサトは辛そうに視線をシンジへ戻して言葉を繋ぐ。
「相手は洞木さんと引き替えにチルドレンであるシンジ君を要求してきたわ。
 今、諜報部が相手の背後関係を洗っているけど、正直に言って今はまだ何も解っていないのが・・・。」
「・・・それで?」
「えっ!?」
しかし、目の前のシンジが顔を伏せ、凄まじい怒気を隠さず発してきた声に戦慄して背筋をゾクッと震わせ、ミサトが思わず言葉を止める。
「どうするつもりなのかと聞いているんですよ。ネルフとして・・・。」
「も、勿論っ!!ほ、洞木さんの救出には全力を尽くすわっ!!」
そして、顔を上げたシンジの形相に心を恐怖で鷲掴みにされ、ミサトはシンジから後ずさろうとするが、そこは既に壁際でミサトの退路はない。
「当たり前です・・・。もっと具体的な事を教えてくれと聞いているのが解らないんですか?」
「い、今、それを検討中よっ!!ぜ、絶対に洞木さんは助けるからっ!!!シ、シンジ君は私達を信頼してっ!!!!」
更にシンジの全身から発せられる強烈なプレッシャーに膝がガクガクと震え、ミサトは徐々に背を壁伝いにずり落ちてその場へ尻餅をついた。
「・・・解りました。では、ミサトさんを信じましょう」
「あ、ありがとう・・・。」
「でも、ミサトさんはともかく・・・。ネルフが、父さんが僕をもしも裏切ったら・・・。その時はどうなるか解りませんよ?」
シンジは数瞬ほど考え込んでミサトの言葉に頷きながらも、半ば核心的な言葉を放ってミサトへ釘を刺す。
「えっ!?え、ええ・・・。わ、解っているわ」
バフッ・・・。
ミサトはいまいち解らないなりにも取りあえず返事を返すと、シンジはミサトが居るにも関わらず後ろに倒れて再びベットへ寝転がった。
「そ、それじゃあ・・・。ま、また来るから・・・・・・。」
プシューー・・・。
その邪魔だと言わんばかりの横柄な態度に腹を立てる余裕もなく、ミサトは震え笑う膝を必死に堪えながら立ち上がって部屋を出て行く。
プシューー・・・。
(くっ・・・。珍しく数人にしぼった結果がやっぱりこれか・・・。十分、予想する事が出来たのに何をやっていたんだっ!!僕はっ!!!)
扉が閉まって再び1人だけになると、シンジは先ほど放り投げた電話線を右手に取って目を瞑り、眉間に深く皺を刻んで精神を深く集中させた。 


「その頃、私は根部川に住んでましてね・・・。」
名残惜しい寝床を出て、せっかく学校へ登校してきたと言うのに1時間目から老教師に昔話を聞かされ、正に春眠曉を覚えず状態の教室。
例によって誰一人としてまともに老教師の昔話など聞いてはおらず、生徒達は居眠りや読書など好き勝手な事をしている。
そんな中、老教師のトリップのおかげで遅れがちな数学の授業を取り戻すべく、普段は委員長として常に自ら予習、復習と余念がないヒカリ。
(あの電話・・・。やっぱり、碇君よね。学校にも来ていないし・・・。さっきから電話をかけているのに繋がらないし・・・・・・。)
そのヒカリも今日に限ってはある事に心を囚われ、老教師のトリップが始まると早々に想いを巡らせて予習、復習に手を付けていなかった。
もちろん、その原因は今朝に洞木邸へかかってきた正体不明の電話にある。
電話の後、ヒカリは電話の主が声からシンジだと半ば推察しながらも、シンジの電話番号を知らなかった為に電話をかけ直す事が出来なかった。
また、シンジの自宅住所も知らない為に駈けつける事も出来ず、ヒカリはもどかしさを感じながらも学校へ登校。
ズル休み的に早退、遅刻、欠席が常々多いシンジだが、今日ばかりは空席になっているシンジの席を見て、ヒカリは自分の推察を確信に変える。
洞木邸では小さなお母さん、学校ではクラス委員長、双方ともやや押し付けられた感はあるが、一度引き受けたら責任感の強いヒカリ。
こうなると今朝の電話が気になって気になって仕方がなく、ヒカリは登校時に感じたもどかしさをより一層に激しくさせていた。
もっとも、他の人に相談すると言う有効手段もあるのだが、もし全てが勘違いだとしたら相手が相手だけに大騒ぎとなりかねない。
それ故、ヒカリは己の胸だけに悩みを抱えたまま、今は焦りと不安ともどかしさなどを諸々に入り混ぜてジッと耐えていた。
(そろそろ、どうかしら?)
ヒカリは机の中で無音設定にした携帯電話のリダイアルボタンを押し、期待を込めて携帯電話を少しだけ机の中からゆっくりと覗かせる。
(・・・まだ話し中。もう2時間近くじゃない・・・・・・。)
しかし、葛城邸へ1分毎にかけているのにも関わらず、数十分前から『通話中』の表示しかさせない液晶モニターにますます不安を募らせてゆく。
余談だが、シンジはチルドレンである為、住所と電話番号は基本的に非公開とされ、学校の一般学生簿には掲載されていない。
実際、ヒカリは授業に使う端末から学校のサーバーへアクセスしたのだが、クラス委員長IDを持ってしても閲覧が出来ないレベル設定だった。
(おいおい、あの様子は尋常じゃないぞ・・・。トウジ、大丈夫なのか?)
そんなヒカリの様子を少し離れた席から眺め、ケンスケはヒカリとは違う不安を漠然と抱きながら、斜め後ろの席に座るトウジへ視線を移す。
手詰まり状態のヒカリが助けを求めた相手、それは学校のプロテクトなど物ともしない強者であり、同時にシンジと友達であるケンスケだった。
数十分前、いきなりヒカリに秘守チャットで呼びかけられ、脈絡もなくシンジの電話番号を教えてくれと頼まれたケンスケ。
ケンスケは戸惑いながらもシンジの電話番号と住所を教えてあげると、ヒカリは感謝の言葉を述べるや否や早々にチャットを切断。
そして、ケンスケはこのたった数行で終わったチャットに興味と疑問を抱き、それ以来ずっとヒカリの様子を眺めて観察していた。
その結果、空席となっているシンジの席と己の手元へしきりに視線を往復させているヒカリに、ケンスケはある種の結論を導き出したのである。
「くっくっくっくっくっくっくっくっくっくっ・・・。」
(ダメだ、こりゃ・・・。あれほど煽ったのに見込みなしか?)
だが、トウジはケンスケの不安を余所に笑いを噛み殺してマンガに読みふけっており、ケンスケが顔を引きつらせて大粒の汗をタラ~リと流す。
「なんや、読みたいんか?ほしたら、あと5分くらい待っとれや」
「いや、そんな事より・・・。また俺の家を逃げ場にしないでくれよな。頼むからさ・・・。」
「・・・何の事や?」
「意味が解らないならそれで良い。知らない方が幸せって事もあるからな・・・。でも、早ければ今日にでも意味が解ると思うぞ」
するとトウジがケンスケの視線に気付いてマンガから視線を上げ、ケンスケは過去の経験から容易く想像できるトウジの明日に深い溜息をついた。


「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
張りに張りつめた緊張感と底なしに重苦しい雰囲気が漂う会議室。
長机で長方形を描き、上座にはゲンドウポーズを取るゲンドウと瞑想するかの様に腕を組んで目を瞑っている冬月。
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
ゲンドウに対して右側の机には保安諜報部の幹部の面々が一堂に揃って陣取り、左側の机にはミサトと日向の2人。
そして、この面子の中、場違い的に事務職のマックスが下座に座り、机に肘をついて祈る様に組んだ手を額に当て、憔悴しきった顔を伏せていた。
ガチャッ・・・。
「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」
煮つまりを見せる会議室の静寂を打ち破って出入口の扉が開き、ゲンドウと冬月を除く全員が会議室に現れた青葉へ思わず視線を向ける。
「・・・どうだったね?」
「怪しい場所は3ヶ所までにしぼれましたが、残念ながら裏は取れませんでした。
 今も全力で洗っていますが・・・。恐らく、次の交渉の時間までには間に合わないでしょう」
一拍の間の後、冬月が腕を組んだまま目を開けて青葉へ視線を向け、青葉は縋る様な視線を向けているマックスへ済まなそうに目を伏せて応えた。
「そうか・・・。」
「司令っ!!やはり、ここは交渉の席だけでも設けるべきですっ!!!」
冬月が唯一の希望を失った事を知って深い溜息を漏らすと、ミサトが席を勢い良く立ち上がり、声を荒げてゲンドウへ提案を切に訴える。
「・・・それは出来ん。何度も言う様だが、我々は決して弱みを見せる訳にはいかんのだよ」
だが、ゲンドウはゲンドウポーズをとったまま無言を貫き、代わって冬月が表情を渋くさせて既に何度目となるか解らない同様の提案を退けた。
「ですが、交渉のテーブルを設ければ、相手側も必ず動きますっ!!
 その時こそ、付け入る隙を得る事もでき、人質を救い出す事も可能になるはずですっ!!」
それでも、ミサトは諦めようとはせずに尚も提案を訴え、隣に座る日向がミサトを後押しする様に無言で頷く。
「例え、そうだとしてもだ。1つを許せば、自ずと次の1つを許さなければならない。
 そうなれば、今回の事に味を占め、同様の事が再び起きる可能性は十分に考えられる。それ故、我々は1歩たりとも譲歩してはならないのだよ」
しかし、冬月はミサトの正論に対して反対の角度からの正論を返して、頑なに首を縦に振ろうとはせず話は何処までも平行線。
「なら・・・・・・。そのプライドの為に人質を見捨てるとでも言うんですかっ!!」
ならばとミサトは辛そうにマックスを一瞥した後、誰もが心で思っていながら、決して口に出そうとはしなかった言葉を放って良心に訴えかけた。
「・・・そうは言っておらん。こうして、現に今も保安部と諜報部の諸君等が相手の所在地を捜索して・・・。」
「洞木一尉・・・。」
「は、はいっ!!」
冬月は言葉に詰まって言葉を苦しそうに繋ぐが、ゲンドウが重々しい声で言葉を遮り、マックスが体をビクッと震わせ、伏せていた顔をあげる。
「・・・今のところ、チルドレンは3人しか発見されていない。
 そして、人類の為にも貴重なサードチルドレンを失う訳にはいかん。・・・・・・この意味が解るな?」
するとゲンドウはサングラスの奥から鋭い視線でマックスを射抜き、冬月も言うのを躊躇った究極のマキャベリズム的思想を放った。
「・・・・・・・・・はい、解ります」
その暗にヒカリの事は諦めろと言わんばかりの言葉に会議室が静まり返り、マックスが長い沈黙の果てに頭を抱えて返事を返したその時。
プルルルル・・・。プルルルル・・・。
「「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」」
ミサトの目の前に置かれた相手との交渉役を担う電話が鳴り、ゲンドウと冬月を除く全員が驚きに体をビクッと震わせ、会議室に緊張が走る。
「・・・予定より40分も早いですね」
「ええ・・・。」
カチャ・・・。
日向が腕時計を見て呟き、ミサトは対面に座る諜報部長へ目配せを送り、諜報部長が携帯電話で指示を出すのを確認してから受話器へ手を伸ばす。
「はい、もしもし」
『・・・ミサトさん』
「シ、シンジ君っ!?」
緊張の面もちで席に座り直しながら電話に出たミサトだったが、返ってきた予想外のシンジの声に驚き、すぐまた席を勢い良く立ち上がった。
何故ならば、シンジを監禁している部屋の電話は繋がらないはずであり、第一にシンジがこの電話回線の番号を知っているはずがないからである。
『残念ですが、僕の予想通りの結果になった様ですね。・・・なら、僕は僕で別の方法を取らせて貰います』
「えっ!?な、何を言ってるのっ!!?」
『それじゃあ・・・。』
「シンジ君、待ってっ!!シンジ君っ!!!シンジ君っ!!!!シンジ君っ!!!!!」
『・・・さよなら』
その上、まるで見ていたかの様な発言が飛び出し、ミサトが驚きに戸惑いを重ねて尋ねるが、シンジは用件だけを伝えると電話を一方的に切った。
『カチャ・・・。プーーー・・・。プーーー・・・。プーーー・・・。プーーー・・・。プーーー・・・。』
(さよならって・・・。シンジ君、あなた・・・・・・。)
ミサトは電話の不通音だけが残った受話器を耳から離して茫然と見つめ、最後にシンジが寂しそうに言い残した言葉を心の中で呟いた次の瞬間。
プルルルル・・・。プルルルル・・・。
「どうした・・・・・・って、なにっ!?サードが逃げ出しただとっ!!?」
代わって諜報部長の目の前に置かれた電話が鳴り、電話に出た諜報部長の口から最もあってはならない最悪の事態の言葉が放たれた。 


ミーーン、ミンミン、ミーーーーーン・・・。
蝉達がやかましいくらいに求愛を叫び、気温はうなぎ登ってアスファルトからは陽炎が立ち昇る炎天下の中。
「・・・碇君、遅い」
公園にある涼しそうな木陰にも入らず直射日光を浴び、レイは汗をダラダラと流しつつ昨日同様に公園前でシンジの到着を今か今かと待っていた。
余談だが、始業時間はとうに過ぎて2時間目の途中と言う時間なのだが、レイにとって大事なのはシンジと登校する事なので時間は全く問題なし。
ゴクッ・・・。
目の前の道路を数十分ぶりに人が通り過ぎ、その人物が缶ジュースを飲んでいる姿に、レイが思わず乾ききった喉へ音を立てて唾を飲み下した。
「あうっ・・・。」
たちまちレイの体内で水を欲する生理的欲求が凄まじいほどに沸き起こり、レイは公園内にある水飲み場へ惹かれる様に視線を移す。
「うぅぅ~~~・・・。うぅぅ~~~・・・。うぅぅ~~~・・・。うぅぅ~~~・・・。うぅぅ~~~・・・。」
だが、水を飲むには当然の事ながらこの場を離れる事を意味する為、レイは使命感と本能のせめぎ合いの葛藤に苦しんでうなり声をあげる。
もっとも、公園前から水飲み場まで十数メートルほどしか離れていないのだが、レイにとって大事なのはシンジと登校する事なのでこれは大問題。
「すぐ戻るのっ!!だから、許してっ!!!碇君っ!!!!」
視線を水飲み場と葛城邸方向の道路の先へ交互に何度も何度も向けた末、レイは本能に従う事を選択して水飲み場へ猛ダッシュ。
キュッ、キュキュ・・・。
「んぐっ・・・。美味しい。もう1口なの」
蛇口を捻って噴水の様に噴き出てきた水を飲み、レイは1口だけ飲んで帰るつもりが、あまりの美味しさに感動して更にもう1口。
ちなみに、この水道は一般家庭にある様な水道ではなく、公園などで良く見かける立てられた金属の棒状の先端に水道口がある物。
キュッ、キュキュ、キュゥゥ~~~・・・。
「んぐっ・・・。んぐっ・・・。んぐっ・・・。んぐっ・・・。んぐっ・・・。んぐっ・・・。んぐっ・・・。んぐっ・・・。んぐっ・・・。」
それどころか、少しずつチョロチョロとしか出ない水をもどかしく思い、レイが蛇口を思いっ切り全開に回して水流を最大にしたその時。
タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッ!!
「びぎゃりぎゅんっ!?」
背後で駈け足の音が遠くから近づいてくるのが聞こえ、使命を思い出して水分補給を即座に中断させ、すぐさまレイが公園前へ駈け急いだ途端。
「あ、あうぅぅ~~~・・・。」
バタッ・・・。
レイの視界内の世界がメリーゴーランドの様にグイングインと回り、レイは5歩とも駈けない内に地面へ横倒しに倒れてしまった。
何故ならば、アルビノで日光に対する強い抵抗力を持たないレイが、炎天下の中を朝から2時間も突っ立っていれば気分が悪くなるのは当然の事。
その上、急速に過剰な水分補給をした為に体温が急激に下がり、その結果として自律神経が狂ってしまうのは当たり前の事だった。
タッタッタッタッタッ・・・。
「はぁ・・・。はぁ・・・。い、今、変な声がした様な・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。」
同時に公園前を猛スピードで駈け通り過ぎたヒカリは、レイの悲鳴を聞きつけて立ち止まり、不思議そうに辺りをキョロキョロと見渡す。
「・・・気のせいかしら?」
タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッ!!
しかし、倒れたレイは公園の塀で見つからず、ヒカリは首を傾げると、再び葛城邸方面へ向かって駈け出した。
「・・・全く、うちのお姫様も無茶をするよ」
「だな・・・。でも、王子様の方はどうしたんだ?」
すると何処からともなく黒服にサングラスの男3人が公園に現れ、その内の2人が倒れているレイへ駈け寄って抱き起こす。
「どうせ、またサボりなんじゃないのか?・・・しっかし、こんなのを飲んだら喉へ当たって痛いだろうに」
キュッ、キュキュ、キュゥゥ~~~・・・。
残った1人はレイが水を飲んでいた水道へ行き、開けっ放しで3メートルほどの高さまで噴き出している水の勢いに茫然としながら蛇口を閉めた。


「何だ、これは・・・。」
髪を後ろで結わえ、だらしなく無精髭を生やした男は数時間ぶりに訪れた部屋へ入るなり、目の前の光景に愕然と目を最大に見開いた。
数年前に打ち捨てられ、雨風に晒されて廃墟と化した第三新東京市の郊外にあるカップルのみを来店に目的にした廃ホテルの一室。
壁紙は破け剥げてコンクリート地を所々見せる壁、埃とゴミだけが溜まり放置されている床。
かつては過剰な豪華さを放っていたらしき調度品、ブラウン管が割れて2度と映像を映す事のないテレビ、横倒しに倒れて扉が開いた冷蔵庫。
そして、無精髭の男を何よりも愕然とさせる理由が、部屋の半分を占めるシーツの着けられていない汚れきったキングサイズのベットにあった。
「・・・これは何だと聞いているんだ」
「何って・・・。見たままじゃないですか?」
無精髭の男は絶え間なく湧き出てくる怒りを必死に抑えて再び問うと、冷蔵庫に座って煙草を吸っている男がニヤニヤと笑いながら応える。
ベットの上には詳しく語るのも痛々しい姿でヒカリが着衣を乱して横たわり、生気のない濁りきった瞳をぼんやりと天井へ向けていた。
「・・・何故、こんな事をする必要があった」
「何故って・・・。ここはそういう場所でしょ?
 大体、危険な割に給料は安いんだから、これくらいの役得は当たり前ですよ。あなたもどうですか?」
ヒカリの身に何があったかを解っていながら、無精髭の男は敢えて尋ね、男が立ち上がって無精髭の男の肩へ手を置いた次の瞬間。
「下衆がっ!!」
ブォンッ!!
無精髭の男が振り向き様に固く握った拳の一撃を放つが、男はこれを予期していたかの様にニヤニヤ笑いを浮かべたままバックステップで避けた。
「おっと、危ない、危ない・・・。いきなり、何をするんですか?第一、彼女をここへ連れてきたのは他ならぬあなたでしょ?」
「くっ・・・。」
すぐさま距離を詰め、更に男へ殴りかかろうとするも、無精髭の男は男の言葉に振り上げた拳を放つ寸前で止め、肩を震わせながら拳を下ろす。
「そう、それで良いんですよ。
 ・・・って、おや?結局、あなたも本音はそれですか?でも、ズボンだけで事足りますよ?それとも服を脱がないと雰囲気が出ないのかな?」
「うるさいっ!!黙れっ!!!」
「やれやれ・・・。どうやら、嫌われてしまったようですね」
すると無精髭の男は男に背を向けて着ているシャツを脱ぎ始め、男はニヤニヤ笑いを深めるも返ってきた無精髭の男の怒鳴り声に肩を竦めた。
「・・・すまない」
制服のブラウスが強引に引き裂かれて開き、あらわに露出しているヒカリの肌と胸に、無精髭の男が脱いだシャツをかけようとしたその時。
「何だ、これは・・・。」
「シ、シンジ君っ!?」
突如、何もない空間から声がしたかと思ったら、無精髭の男のすぐ隣にシンジが現れ、無精髭の男が驚愕に目を見開きながら振り向く。
「・・・これは何ですかと聞いているんです」
「何を言っても言い訳になる。俺の落ち度だ・・・。すまない」
シンジは奇しくも無精髭の男と同様に同じ言葉を繰り返して問うと、無精髭の男は驚く以前に今は謝罪するのが先決だと悟って辛そうに応えた。
「あなたが今回の黒幕だと薄々は感づいていました・・・。
 でも、あなたがこんな非道をするはずない事を僕は知っていますし・・・。何よりも、僕はあなたを信じたい。なら、原因は・・・・・・。」
目を伏せて深い溜息をついた後、シンジはやや顔を上げ、天井を虚ろな瞳で見つめて言葉を溜める。
「貴様かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
一拍の間の後、シンジは感情を一気に爆発させながら振り返ると共に、シンジの登場で驚きに固まっている男へ強烈に紅く光輝く眼光を放った。 


(そ、そう言えば・・・。お、男の子の家へ来るのって何年ぶりかしら・・・・・・。)
意気込んで来たものの葛城邸の玄関をいざ前にして、ヒカリは己が女だと自覚して以来ずっと足を踏み入れようとしなかった異性宅に心が萎縮。
(・・・って、恥ずかしがっている場合じゃないわっ!!)
ピンポ~~ン♪
だが、ここで引き返してしまっては初めて学校をズル休みしたのが無駄となり、ヒカリは意を決してインターホンのボタンへ人差し指を伸ばした。
プシューーー・・・。
「わ、私っ!!い、碇君と同じクラスでクラス委員長をしている洞木ヒカリと言いますっ!!!」
ヒカリにとって緊張の長い長い十数秒の後、玄関の扉が開くと共に、ヒカリは勢い良く腰を90度に曲げて声を上擦らせながら自己紹介。
「け、今朝、碇君から電話を受けたんですけど、碇君は・・・。」
「クワッ!?」
「・・・って、クワッ?」
その途中、すぐ近くから奇妙な返事が聞こえ、ヒカリが思わず奇妙な返事を真似して腰を曲げたまま不思議顔だけを上げる。
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
ヒカリの体勢とペンペンの体長、双方の距離から数センチの距離でお互いを無言で見合うヒカリとペンペン。
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・クワッ?」
一体、どれほどの時が経過したのか、ふとペンペンが見慣れぬ人物に首を不思議そうに傾げた次の瞬間。
「キャァァァァァァァァァァ~~~~~~~~~~~~っ!!」
「クワァァァァァァァァァァ~~~~~~~~~~~~ッ!!」
それを間近で見ただけにペンギンだと解らず、我に帰ったヒカリが恐怖と驚きに尻餅をつき、ペンペンもヒカリの悲鳴に驚いて尻餅をつく。
「キャァァ~~~っ!!キャァァァ~~~~っ!!!キャァァァァ~~~~~っ!!!!」
「クワァァ~~~ッ!!クワァァァ~~~~ッ!!!クワァァァァ~~~~~ッ!!!!・・・クワワワワワワワワワッ!!!!!」
更にヒカリは尻餅をついたまま後ずさり、ペンペンもそれに習って後ずさるが、すぐに何やら切羽詰まった様子でヒカリの元へ駈けて来た。
「キャァァ~~~っ!!キャァァァ~~~~っ!!!キャァァァァ~~~~~っ!!!!」
「クワワッ!!クワワッ!!!クワワワワッ!!!!クワァァ~~~ッ!!!!!」
おかげで、ヒカリはますます恐怖に恐れ戦くも、己以上に感情を剥き出しにしているペンペンに気圧される。
「・・・って、ペンギン?」
「クワワワッ!!クワァァ~~~ッ!!!クワワワワッ!!!!」
そのせいか、ヒカリは少しだけ冷静さを取り戻し、立ち上がって恐怖の対象を改めて眺め、それがペンギンだと解ると完全に冷静さを取り戻した。
「どうして、ペンギンがこんな所に・・・。えっ!?付いて来いって言うの?」
「クワッ!!クワァァ~~~ッ!!!」
するとペンペンはしきりにヒカリのスカートの裾を引っ張り始め、その訴えがヒカリに通じるや否や、大いに頷いて葛城邸内へ急ぎ戻って行く。
「お、お邪魔しまぁ~~す・・・。」
1人残されたヒカリの心に再び数年ぶりに訪れる異性宅と言う意識が芽生え、ヒカリは怖々と顔だけを葛城邸内へ入れて中の様子を伺う。
「・・・い、碇君、居ないのぉ~~?」
ところが、家の構造から正面に壁、右に下駄箱、左に廊下の突き当たりしか見えず、ヒカリはもっと中の様子を伺おうと葛城邸へ一歩踏み入れた。
プシューーー・・・。
「ひぃっ!?」
その途端、背後で待っていましたと言わんばかりに玄関の扉が閉まり、ヒカリは過剰に驚いて思わず体をビクッと震わせる。
(・・・って、あ、当たり前じゃない。じ、自動ドアなんだから・・・・・・。)
閉ざされたその扉から既に引き返せない事を悟り、ヒカリは右足の靴を脱いで上がろうとするが、右足の踵を床に付ける寸前で動きを止めた。
何故ならば、ペンペンに招き入れられたとは言え、これは不法侵入ではと言うモラル感が急速にヒカリの心で湧き起こったからである。
「クワッ!!クワッ!!!クワワワワッ!!!!」
「わ、解った、解ったわよっ!!・・・あっ!!?ま、まだ靴がっ!!!?」
いつまで経っても来ないヒカリに焦れたのか、ペンペンが玄関へ駈け戻り、ヒカリのスカートの裾を掴んで離さず葛城邸内へ急かし誘う。
「クワワッ!!クワワワワッ!!!クワァァ~~~ッ!!!!」
「ま、待って、待ってってばっ!!そ、そんなに引っ張らないでよっ!!!」
意外と力強いペンペンの力に引っ張られ、ヒカリは右片足でピョンピョンと跳ねて進みつつ、まだ履いている左足の靴を脱いで玄関へ放り投げる。
「クワワワワッ!!」
そうこうしている内にキッチンへ到着し、ペンペンはそこでようやくスカートから手を離し、キッチンの床に倒れている人物へと駈け寄った。
「い、碇君っ!?」
ヒカリもその光景に嫌な予感が当たったと血相を変えて駈け寄るが、キッチンテーブルで隠れていたその人物の容姿を確認するなり動きを止める。
「・・・・・・い、碇君なの?」
「クワワワワッ!!」
額に珠の様な汗を幾つも浮かせ、制服のシャツを汗でビッショリと濡らし、表情に苦しさを満ちさせて途切れ途切れの荒い息をつく少年。
「そ、そうよねっ!!い、今はそんな場合じゃないわっ!!!え、えっと・・・。い、碇君の部屋は何処なのっ!!!?」
「クワッ!!クワッ!!!クワワワワッ!!!!」
その容姿はシンジと瓜二つながら、その髪は黒髪ではなく、主の苦境にあっても艶輝く美しい銀髪だった。


「・・・殺ったのか?」
数分前まで相棒だった男の無惨な姿を一瞥した後、無精髭の男は艶輝く美しい銀髪へと変わったシンジの背中を見つめながら尋ねた。
シンジの足下には、瞳を虚ろに濁らせた男が壁に背を寄りかかって床へ腰を下ろし、だらしなく口を半開きにして涎をたらしまくっている。
「いいえ、精神を汚染しただけです。自我を残したままね。・・・ええ、楽には殺しませんよ」
ゴリュッ!!
応えてシンジが爪先蹴りを男の口の中へ放つと、歯と骨が砕ける嫌な音が聞こえ、男は悲鳴も上げず涎の代わりに鮮血を流して横倒しに倒れた。
「この人には一生後悔して貰うつもりですから・・・。精神病院の中で流動食だけを食べながら、ゆっくりと死ぬまでね」
ゴキュッ!!ゴキュゴリュッ!!!
するとシンジは男を無表情に見下ろして男の顎へ踵を乗せ、全体重をかけて男の顎骨を完全に粉砕する。
「いや、その程度ではまだまだ生ぬるいな・・・。死ぬまでヒカリへ謝罪すると言う意味を込め、常に床へ這い蹲って頭を下げていて貰おうかな」
ドゴッ!!・・・バキバキバキバキッ!!!
シンジは立ったまま血の付いた靴を不愉快気に男の服で拭くと、男の横っ腹を蹴って背を向かせ、男の腰へ踵を勢い良く落として背骨も粉砕。
「それじゃあ・・・。ヒカリは返して貰いますよ」
一拍の間の後、振り向いてシンジの凄惨な仕打ちに茫然と固まっている無精髭の男の横を通り、シンジはベットに横たわるヒカリを抱き抱えた。
「ま、待ってくれっ!!」
「・・・何か?」
「お、俺は・・・。そ、その良いのかっ!?」
無精髭の男は慌てて我に帰り、煩わし気な視線を向けた自分へは何もしないシンジを不思議に思い、まるで自分を殺してくれと頼むように問う。
「ええ・・・。あなたにはその男を見せしめの為に内務省へ連れて帰る役目がありますから」
「な、何故、それをっ!?シ、シンジ君、君は一体っ!!?」
応えてシンジは首を横に振り、無精髭の男はシンジの言葉の中に出てきた己が所属する組織名とシンジが知っている事実に驚愕して改めて問いた。
「それに・・・。あなたは十分に罰を受けている。
 最早、あなたはミサトさんの前に2度と立つ事は出来ず、今日の事を一生悔やんで生きてゆくのでしょうから・・・。
 そして、後悔に苛まれ、あなたは死にたいと思いながらも、その性格故に自殺と言う逃げを選択する事が決して出来ない。
 ・・・・・・この永遠に続く苦痛を罰と言わず何と言うんです。
 ミサトさんの為に真実を得ようとしたはずが、焦ってその道を何処で間違えたのか・・・・・・。あなたは本当に馬鹿ですよ。加持さん」
だが、シンジはその問いに応えず、足下に描いた漆黒の闇の真円の中へヒカリと共に沈みながら、無精髭の男へ哀れみ視線を残して姿を消す。
「くっ・・・。うっうっ・・・。うっうっうっ・・・・・・。
 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
その途端、無精髭の男はシンジの言葉を実感して力無く膝を折り、肩を震わせつつ両手で顔をゆっくりと覆い、天を仰いで号泣をあげた。 


「お、重い・・・。き、君、襖を開けてくれる?」
自律歩行しないシンジの右腕を両肩へ回して担ぎ、ヒカリはペンペンの案内でシンジの部屋を目指していた。
「クワッ!!」
ガラッ・・・。
「・・・い、碇君、綺麗好きなんだね。こ、これなら、お姉ちゃんよりも・・・って、そ、そんな事を言っている場合じゃないんだったわ」
数年ぶりに入る父親以外の異性の部屋にドキドキと胸を高鳴らせながらも、ヒカリはシンジを寝かしつけようとベットへ歩み寄って行く。
「よし・・・しょっとっ!!ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛~゛~゛~゛っ!!!」
そして、右手を背中へ、左手を膝へ回してシンジを抱き抱え、ヒカリが力んで顔を真っ赤に染めながらシンジをベットへと置こうとした次の瞬間。
ボスンッ!!
「うっ・・・。うっうっ・・・。」
元々筋肉がないヒカリの腕が悲鳴をあげて力尽き、ベットへこぼれ落ちた衝撃でシンジの意識が半覚醒する。
「クワァァ~~~ッ!!」
「ご、ごめんなさいっ!!ど、何処か打ったっ!!?だ、大丈夫っ!!!?」
ペンペンはヒカリの仕打ちに酷いじゃないかと羽根をバタつかせ、慌ててヒカリは謝罪しながらシンジを心配そうに覗き込んだ。
「・・・ヒ、ヒカリ?」
「えっ!?」
するとシンジが徐々に瞼を開いて濁った瞳を見せ、ヒカリは名字ではなく名前で呼ばれた事もさる事ながら現れたシンジの瞳の色にビックリ仰天。
何故ならば、黒目だと思っていたシンジの左目が、レイと同じルビー色した紅い瞳だったからである。
「ヒ、ヒカリっ!?」
「キャっ!?」
その直後、シンジの目がクワッと見開いたかと思ったら、ヒカリはいきなり力強くシンジに抱き寄せられて2度ビックリ仰天。
「ヒカリっ!!ヒカリっ!!!ヒカリぃぃ~~~っ!!!!」
シンジは驚くヒカリの様子に気付いた様子もなく体勢を入れ替え、反対に己が上になるとヒカリの胸に顔を埋めて猛烈な頬ずりを始めた。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとっ!!い、い、い、い、い、碇くぅぅ~~~んっ!!?」
ヒカリは3度ビックリ仰天するも慌てて我に帰り、この乙女の緊急事態にシンジの両肩を掴み、火事場の力で慌ててシンジを押し退ける。
「ごめん・・・。ヒカリ、ごめん・・・。幾ら謝っても許される事じゃないけど・・・。ごめん・・・・・・。」
「う、ううん・・・。い、良いのよ。き、気にしないで・・・。い、碇君・・・・・・。」
その強い拒絶に顔を歪ませ、シンジは止めどなく涙をポロポロとこぼし始め、ヒカリは4度ビックリ仰天しながらも無礼なシンジを許した途端。
「ありがとうっ!!ヒカリっ!!!」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとぉぉ~~~っ!?」
シンジは舌の根も乾かない内に再びヒカリの胸に顔を埋め、ヒカリは5度ビックリ仰天して再びシンジの両肩を掴んで押し退けようとする。
「ありがとう・・・。ありがとう・・・。ヒカリ・・・。うっうっ・・・。うっ・・・。うっうっうっ・・・・・・。」
「・・・・・・い、碇君」
しかし、肩を震わせて嗚咽するシンジの姿に胸の奥で母性が疼き、ヒカリは押し退ける力を弱めた上、反対に胸へシンジの頭を抱き込んだその時。
「ク、クワァァ~~~・・・。」
「っ!?」
すっかり忘れられた存在のペンペンが茫然と鳴き、ヒカリは自分達以外の存在が居たのを思い出して我に帰り、羞恥心に顔を真っ赤っかに染めた。
「ほ、ほら、碇君っ!!わ、私はもう気にしていないからっ!!!ねっ!!!!?ねっ!!!!!?ねっ!!!!!!?」
ヒカリの願いに応え、シンジはヒカリの胸から顔を上げて上半身を起こし、ヒカリが安堵するのも束の間、6度目のビックリ仰天がヒカリを襲う。
「ヒカリ・・・。ヒカリ・・・。ヒカリぃぃ~~~・・・・・・。」
シンジはヒカリの上に乗ったまま退かず、あろう事かヒカリの制服のリボンを解いたかと思ったら、なんとブラウスのボタンを外し始めた。
「い、い、い、い、碇君っ!!な、な、な、な、な、何をする気っ!!?じょ、じょ、じょ、じょ、じょ、じょ、冗談なら止めてよっ!!!?」
「ヒカリぃぃ~~~・・・。」
慌ててヒカリはシンジの手を止めようと掴もうとするが、シンジに両手を反対に掴まれた上、両手を万歳状態でベットに押し付けられてしまう。
「き、君っ!?い、碇君が変なのっ!!!た、助けて・・・って、ど、何処へ行くのよぉぉ~~~っ!!!!」
「ク、クワワワワ・・・。」
ガラッ・・・。
ヒカリはこの場に居る自分達以外の存在に助けを求めるが、こういう時は席を外すようにとシンジに躾られているペンペンは部屋から出て行く。
「ちょ、ちょっとっ!!ね、ねえっ!!!ね、ねえってばっ!!!!お、お願いだから戻ってきてよぉぉ~~~っ!!!!!」
「ヒカリ・・・。ヒカリ・・・。ヒカリぃぃ~~~・・・・・・。」
「んんっ!?んんんんんっ!!?んんん~~~~~~~~~~っ!!!?」
それでも、ヒカリは尚もペンペンへ助けを求めて叫ぶも、シンジによって唇を唇で塞がれて声を封じられ、ファーストキスを奪われてしまった。


「なあ、トウジ・・・。」
「・・・なんや?」
午前中の授業も終わり、苦行の折り返し視点である昼休み。
「正直なところ、委員長の事をどう思っているんだ?・・・好きなのか?告白はしたのか?」
ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ~~~~~~~~~~~ッ!!
いきなり何の脈絡もなく尋ねられたケンスケの質問に、トウジは驚いて口に含んでいた食後の牛乳を一気に噴き出した。
「けっほっ!!かっほっ!!!・・・い、いきなり、何を言うんやっ!!!!ケ、ケンスケっ!!!!!」
「良いから教えろよ。俺にとっては重大な事なんだって・・・。なっ!?男として、トウジの本音を聞かせてくれよ」
トウジは咽せながらケンスケを怒鳴って非難するが、ケンスケはトウジの怒りなどに堪えず、更に尋ねて真剣な眼差しをトウジへ向ける。
「・・・お、男としてか?」
「ああ、男として嘘偽りなくだ」
「わ、解った・・・。」
その眼差しに戸惑い尋ね返すと、ケンスケはますます眼光を鋭くさせて頷き、トウジもケンスケの迫力に気圧されて頷いた。
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
だが、それっきりトウジは口を噤み、2人の間に沈黙だけが流れてゆく。
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
しばらくすると、ケンスケの眼光が更に強まり、トウジはその眼差しから視線を逸らせず、額から汗をダラダラと流して困り顔の百面相を始める。
「トウジっ!!」
「わ、わしは・・・。わ、わしはイインチョの事を何とも想ってへんでっ!!」
約3分ほどが過ぎ、焦れに焦れたケンスケが怒鳴ると、トウジは一瞬だけ躊躇った後、ケンスケから顔を背けて遂に己の心情を明らかにした。
「・・・本当なんだな?」
「あ、当たり前やっ!!お、男としての言葉やでっ!!!」
「なら、もし委員長に彼氏が出来ても、トウジは別に平気だよな?」
「と、当然やっ!!」
「その言葉に男として嘘偽りはないな?」
「し、しつこいやっちゃなっ!!う、嘘偽りはあらへんっ!!!」
「解った・・・。それを聞いて安心したよ」
するとケンスケはその応えの真偽を3度も繰り返し問い、トウジが3回頷くのを確認して安堵の溜息を漏らし、ようやく質問責めから解放する。
「そうか?・・・せやけど、どないしたんや?いきなり、そないな事を聞いたりして・・・・・・。」
しかし、トウジは質問に応えてはみたが、そもそも何故そんな恥ずかしい事を応えねばならないのかが解らず質問理由を尋ねた。
「んっ!?まあ・・・。ちょっとな」
応えてケンスケは何やら言葉を濁して多くは語らず、今さっきまであった心配事で喉が通らず先ほど残した昼食のパンをご機嫌に頬張る。
「なんや?・・・っ!?お前、まさかっ!!?」
「・・・何だよ?」
その誤魔化す様なケンスケの態度に首を傾げるが、トウジは一瞬後に目をハッと見開き、ケンスケが面倒臭そうな顔を向けた次の瞬間。
「イインチョの事を好きなんかっ!?そうなんかっ!!?そうなんやろっ!!!?好きなんやなっ!!!!?」
「違うって・・・。(やっぱり、ダメだ。こりゃ・・・。しばらく、旅行にでも行くか?夏休みも近いし・・・・・・。)」
トウジはケンスケの襟首を掴んで引き寄せ、嫉妬心を剥き出しに必死の形相で怒鳴り、ケンスケはトウジの問いに疲れたような深い溜息で応えた。


「んっ・・・。んんん~~~・・・・・・。」
意識の覚醒に瞼がゆっくりと開き、シンジは激しい気怠さを感じながら上半身を起こし、ベットから下りようとするが寝ぼけ頭で立ち上がれない。
「はぁぁぁぁぁ~~~~~~・・・・・・。」
そして、ベット際に座って力無く肘を膝に置き、やや項垂れ気味に体重を前方へかけ、眠そうな欠伸とも深い溜息とも言える深呼吸をするシンジ。
「・・・・・・何だ、これ?」
しばらく、そうやって微睡んでいたが、ふとシンジは床に脱ぎ捨てられ散乱している衣服に気付き、首を傾げてその内の1つを摘み拾い上げた。
「ミサトさん・・・。こんなの持っていたっけ?」
クンクン・・・。クンクン・・・。クンクン・・・。
目の前にぶら下げ、それが飾り気のない白いスポーツブラだと解り、シンジが何となくBカップと思しきカップ内へ鼻を埋めて鳴らしたその時。
「んんっ・・・。あっ・・・。起きて大丈夫なの?碇君」
クンクン・・・。クンフゴゴッ!!
「や、やだっ!!そ、そんな事しないでよっ!!!」
背後から予想もしなかった声が聞こえてシンジの嗅覚チェックの呼吸が乱れ、ヒカリがシンジの行為に顔を紅く染めてスポーツブラを奪い取った。
「っ!?」
その瞬間、シンジは意識を一気に覚醒させ、己が全裸だと知って驚愕に目を見開いた後、首をゆぅ~~っくりとヒカリの方へ振り向かせる。
「え、ええぇぇ~~~っと・・・。ほ、洞木さん?」
「えっ!?」
するとそこにはシンジの隣で寝ていたらしきヒカリがやはり何故か全裸で座って居り、シンジ以上に目をこれ以上ないくらいに見開かせていた。
「・・・どうしたの?」
「さっきみたいに・・・。ヒカリって、もう呼んでくれないの?」
シンジはその見開かれた瞳の中に悲しみを感じ取って尋ねると、ヒカリは布団を手繰り寄せて肌を隠し、悲しそうに顔を俯かせながら尋ね返す。
「そう・・・。そうだったね。ヒカリ・・・・・・。」
「・・・・・・うん」
応えてシンジがニッコリと微笑み、ヒカリは表情をパッと輝かせて顔を上げ、シンジへ上目づかいを向けて恥ずかしそうに目元まで布団で隠した。
(う、うわぁぁ~~~っ!!な、何があったって言うんだよっ!!!あ、あの洞木さんがこうまで変わるなんて・・・。
 ・・・いや、待てよ。洞木さんの口振りからすると、ヒカリって呼んだのは僕の方からなのか?
 いや、それ以前にまず・・・。どうして、洞木さんがここに居て、2人とも裸になっているのかが全く解らない。
 確か、家へ帰ってきて・・・。そう、そうだっ!!家へ帰ってきたら、ミサトさんがカレーを作って待っていたんだっ!!!
 そして、僕はミサトさんのカレーを食べて・・・。カレーを食べて・・・。カレーを食べて・・・。カレーを食べて・・・。
 う゛っ・・・。それっきりの記憶が途切れているっ!!大体、さっきまで夜だったはずが・・・。ああっ!!!もう何が何やらっ!!!!)
そんな恋人同士の様な語らいの中、依然とシンジは表面上では微笑みを装いながら、内心では記憶の逆行を行って現状の理解を必死に測る。
ちなみに、この数時間で何があったかは全くの謎だが、ヒカリの心のマンションにはシンジが住み着き、トウジは家賃滞納で追い出されていた。
(何てこったっ!!勿体なさすぎるぅぅ~~~っ!!!全然、覚えていないなんてぇぇぇ~~~~っ!!!!
 こんな時こそ、時間が戻るべきじゃないのかっ!!どうして、戻らないんだよぉぉ~~~っ!!!綾波ぃぃぃ~~~~っ!!!!)
だが、幾ら考えようとも昨夜ミサトのカレーを食べた以降の記憶が全く蘇らず、シンジは14歳の時に出逢ったレイに対して魂の咆哮を叫ぶ。
「・・・ねえ、碇君」
「なんだい?」
それでも、ヒカリに呼びかけられればこの通り、シンジはニッコリと微笑んで呼びかけに応えた。
「その髪と目・・・。どうしたの?」
しかし、ヒカリが葛城邸へ来て以来ずっと疑問に思っていた事を尋ねた次の瞬間。
「っ!?」
「ご、ごめんなさい・・・。わ、私、何かまずい事を言ったかしら?」
シンジは驚愕に目を最大に見開き、すぐさま机の上のミラースタンドへ顔を向け、ヒカリが思ってもみなかったシンジの激しい反応に驚く。
「(やれやれ、自己再生が起こるほど強烈だったのか・・・。今回のミサトさんのカレーは・・・・・・。)
 くっくっくっ・・・。はっはっはっはっはっ!!あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」
「・・・い、碇君?」
鏡に写っている姿を眺めて苦笑した後、シンジは笑いを隠せず声をあげて高笑いを始め、ヒカリは驚きを通り越して思わず茫然と目が点になった。


「やあ、お待たせ」
「ううん・・・。あっ!?」
リビングにラフな普段着姿で現れたシンジを見て一拍の間の後、ヒカリはその髪と瞳が普段通りへ戻っている事に気付いて軽い驚き声をあげる。
余談だが、今さっきほどシンジとヒカリは一緒にシャワーを浴び、その際にシンジは記憶の欠落を補うべくヒカリとの心の補完を果たしていた。
また、ヒカリは当然の事ながら着替えがなく制服姿であり、髪はまだ少し濡れ髪なので結わえられず、髪を下ろしてロングヘアーになっている。
「そう、目はカラーコンタクト、髪は染めているんだ。・・・でも、この事は秘密にしておいてくれないかな?」
「うん、良いけど・・・。どうして?そのままの方が綺麗なのに・・・。」
リビングは広いのにヒカリの隣へわざわざ座り、シンジは容姿の秘密を口外しないでくれと頼むが、ヒカリは秘密にする理由が解らず尋ね返す。
「ありがとう・・・。だけど、残念ながら全ての人がヒカリと同じ感想を抱くとは限らないんだよ」
「・・・そうかしら?」
嘘をつく事にちょっぴりだけ罪悪感を覚えつつ、シンジは嘘を塗り固める為にヒカリの問いにやるせない溜息をつきながら首を左右に振った。
「そうさ、基本的にヒトと言うのは異端を嫌う性質があるからね。特に日本人は・・・。身近な例を上げれば、綾波はどうかな?」
「そんなっ!!私は別にっ!!!」
ヒカリはシンジの言う理由がますます解らず首を傾げるが、その中に出てきたシンジの例えに声を荒げて反論する。
「うん、そうだね。解っているよ・・・。これでも、僕は今までヒカリをずっと見てきた。
 だから、ヒカリが綾波へ挨拶したり、綾波と何とかコミュニケーションを取ろうとしているのを何度も見た事がある」
「う、うん・・・。」
するとシンジはニッコリと微笑んで頷き、ヒカリはその微笑みもさる事ながらシンジの言葉にいつから自分を見ていたのだろうと顔を紅く染めた。
「でも、他の人はどうだろう?僕が転校してきて以来、少なくとも僕とヒカリ以外が綾波へ話しかけたのを見た事がない」
「そ、それは・・・。は、話しかけても、綾波さんが何も応えないから・・・・・・。」
それも束の間、シンジは眼差しを細めて真剣な物へと変え、ヒカリは豹変したシンジの雰囲気に驚き怯みつつも何とかクラスメイト達を弁護する。
「確かに原因は綾波にもあるだろう。・・・しかし、こうも考えられないかな?
 知らず知らずの内に話しかけるのをその容姿故に萎縮してしまい、最終的には話しかける事自体がなくなったと・・・。。
 その結果、綾波はコミュニケーションを取る術を育てる事が出来なくなったと・・・。
 そして、この悪循環が今の綾波を作り・・・。みんなの心の中で綾波は無口と言う認識が勝手に生まれてしまったと言うのは・・・。
 でも、僕と綾波を見ていれば解るだろ?心を開けば、綾波も応えてくれる・・・。つまり、みんなの心の根本にあるのは差別意識なんだよ」
しかし、シンジはヒカリの弁護をあっさりと論破して、口を挟む事の出来ない確固たる正論で畳みかけた。
「ねえ・・・。どうして、そんなに綾波さんを気にするの?」
ヒカリはすっかり感化されながらもレイへ対する嫉妬心に心がチクリと痛み、俯いた脳裏に昨日学校で流れていた噂が浮かび尋ねる。
「僕もこうだからね。どうしても、放っておけないし・・・。それに僕は弱虫で本当の姿を隠している。だから、綾波を応援したいのさ」
「・・・本当にそれだけ?」
応えてシンジは不甲斐ない自分に苦笑を浮かべるが、ヒカリはその応えに満足する事が出来ず、疑いの上目づかいをシンジへ向けた次の瞬間。
「フフ、嫉妬しているかい?可愛いね。ヒカリは・・・。」
「んくっ!?ダ、ダメ・・・。せっかく、シャワーを浴びたんだから・・・・・・。」
シンジはクスクスと笑いながら、ヒカリの肩を抱いてヒカリの首筋へ顔を埋め、ヒカリが何故か体をビクッと弓なりに反らす。
「・・・なら、またシャワーを浴びれば良い」
「ダ、ダメ・・・。や、やっぱり、ダメよ・・・。わ、私達、まだ中学生なんだし・・・。こ、こんな事・・・。ふ、不潔よ・・・・・・。」
その一瞬だけヒカリの全身の力が抜けた隙をつき、シンジはヒカリを床へゆっくりと押し倒してゆき、ヒカリがシンジの肩を掴んで押し退ける。
「・・・悲しいな。ヒカリは僕等の事が不潔だと言うのかい?」
「えっ!?ち、違うっ!!!ち、違うけど・・・。きゃうっ!!!?」
「フフ・・・。さあ、力を抜いて解放するんだ」
「・・・あふっ!?」
一体、シンジは何を解放しろと言うのかは全くの謎だが、ヒカリがとろける様な甘い囁きに脱力して、その身をシンジへ委ねようとしたその時。
プルルルル・・・。プルルルル・・・。プルルルル・・・。プルルルル・・・。
「っ!?」
テーブルに置かれたシンジの携帯電話が鳴り、ヒカリが過剰に反応して勢い良く上半身を起き上がらせ、シンジを一気に押し退けた。
プルルルル・・・。プルルルル・・・。プルルルル・・・。プルルルル・・・。
「はい、もしもし?・・・えっ!?」
まだ声を聞かぬ無粋な電話の主へやれやれと深い溜息をつき、シンジが不機嫌を隠そうとせず電話に出るが、すぐに表情を真剣な物へと変える。
「はい、解りました・・・。では、あと10分ほどでそちらへ向かいます。それじゃあ・・・・・・。」
ピッ!!
ヒカリは恥ずかしそうに顔を紅く染めてシンジの横顔を盗み見た後、そこにあった戦士の顔と電話の内容にたちまち顔を青ざめて表情を陰らせた。
「・・・ヒカリ」
「解ってる・・・。ネルフへ行くのね?」
「うん、緊急の呼び出しがかかったからね。だから、すまないんだけど・・・って、ヒカリっ!?」
「や、やだっ!!わ、私、泣いてる・・・。ど、どうしたんだろうっ!!!へ、変ねっ!!!!」
電話を切るや否や、シンジは腰を浮かそうとするが、寂しく辛そうに尋ねてきたヒカリの泣き顔に驚き、中腰体勢で動きを止める。
「・・・ありがとう。ヒカリ・・・。でも、大丈夫。僕は必ず帰ってくるよ。きっとね・・・・・・。」
「碇君・・・。」
その涙に言われずともヒカリの想いを悟り、シンジは片膝を付いてヒカリの両肩へ両手を置き、ヒカリのおでこへおでこを合わせて優しく囁いた。
「だから、心配しないで待っていてくれないかな?」
「・・・うん」
間近に迫るシンジの優しい眼差しに応え、ヒカリは静かに目をソッと瞑り、瞳に溜まった涙を頬へ流しこぼす。
「じゃあ・・・。行ってきます」
「・・・行ってらっしゃい」
シンジはヒカリの唇へ唇を重ねて短いキスを交わすと立ち上がり、ヒカリはリビングから出て行くシンジの背中を涙で滲んだ瞳で見送る。
「・・・っと、そうだ。その前に大事な事を言い忘れていたよ」
「な、なにっ!?」
しんみりと切ない雰囲気が流れるも、シンジはリビングを出る間際に笑顔で振り返り、ヒカリがシンジの豹変ぶりに驚いて思わず声を裏返す。
「ヒカリって、髪を下ろすと可愛いね。・・・でも、僕以外の男に見せちゃダメだよ?僕が嫉妬するからね」
「えっ!?あっ!!?う、うん・・・。わ、解った・・・・・・。」
そこへ間一髪を入れず、シンジはヒカリへウインクをしてクスリと笑い、ヒカリはいきなりの口説き文句に思わず茫然と目が点。
「じゃあ、今度こそ行ってきます」
「い、行ってらっしゃい」
シンジはヒカリの反応を満足そうに頷くと、クスクスと笑いながらリビングを出て行き、ヒカリは茫然から立ち直れないまま手を振って見送る。
プシューー・・・。プシューー・・・。
「も、もうっ・・・。い、碇君ったら・・・・・・。」
しばらくして、玄関の扉の開閉する音が聞こえると、シンジの口説き文句の効果が遅れて現れ、ヒカリは恥ずかしさに顔を真っ赤に染めた。
「で、でも、鈴原なんて髪を切っても気付かないくらいだし・・・って、あっ!?」
だが、ふとヒカリは1度目の別れの時よりも不安が格段に軽くなっている己の心に気付き、2度目の別れがシンジの優しさだと知って驚く。
「もしかして、わざと碇君は・・・・・・。」
同時にヒカリの心のマンション前では未だトウジがうろついていたのだが、通りがかった警官に挙動不審者として交番へ連行されて行った。


『サードチルドレン、零号機への搭乗を完了』
零号機の出撃準備と共に緊張感がにわかに増してゆく発令所。
「発進準備っ!!」
「了解っ!!エントリースタートっ!!!」
それもそのはず、作戦時の要であるミサトとリツコの2大巨頭が出張で不在の為、代わって現在の指揮を日向とマヤが行っているからである。
余談だが、日向とマヤは作戦時のミサトとリツコの立ち位置に立っており、本来の位置である2人の席では代理の人物がオペレーター中。
また、この事態に何を考えているのか、マヤはリツコ気分を本格的に味わうべく、白衣を着用して意味もなく伊達眼鏡をかけている。
「なあ、碇・・・。本当に良いのか?」
日向とマヤの指揮に対する不安は別にないが、司令席の脇に立つ冬月は別の不安を懸念し、司令席でゲンドウポーズをとるゲンドウに尋ねた。
ちなみに、今回の零号機出撃は使徒に対する物ではない。
本日、旧東京で行われた戦自と民間会社が提携して造った原子炉搭載の二足歩行型無人ロボット『JA』のお披露目会。
そして、そのお披露目会の最中に事もあろう事か、JAは制御不能に陥って暴走を始めた。
このままでは動力である原子炉がメルトダウンしてしまい、お披露目会に招かれていたミサトはJA停止の為にエヴァンゲリオンの出動を要請。
但し、ヤシマ作戦時に初号機は大破している上、シンジが病床にあると承知している為、ミサトが要請したのは零号機とレイだった。
だが、ゲンドウは現在レイが日射病で入院している事を理由にパイロットをシンジへ変更。
ミサトからシンジの状態を聞いていた日向は、この指示に1度は断ったのだが、ゲンドウの無言のプレッシャーに勝てず結局は指示に従った。
「・・・何がだ?」
「何がって・・・。シンジ君が乗るのは零号機なんだぞ?零号機では・・・。」
ゲンドウは多くを語らずニヤリとだけ笑い、冬月は言葉が足りなかったのかと思い、改めて言葉を補って尋ねる。
「ああ、暴走するだろうな。間違いなく・・・。いや、彼女の事だ。取り込む事も考えられる」
「な゛っ!?・・・お前、それが解っていながら指示を出したのかっ!!?」
応えてゲンドウは邪悪そうにニヤリ笑いを更に深め、冬月はゲンドウのシナリオを知って驚愕に目を最大に見開いた。
「くっくっくっ・・・。問題ない。あのポンコツはこちらが手を下さなくとも止まる」
「・・・碇、俺が聞いているのはそんな事じゃないぞ?」
「葛城三佐は上手い具合に動いてくれた・・・。チャンスだ。冬月」
「しかし、お前なぁ~~・・・。」
愉快で仕方がないのか、ゲンドウは笑い声を隠さず含み笑い、冬月は冷静さを取り戻して深い溜息をつき、ゲンドウの真意を悟って呆れ返る。
実を言うと、JAの暴走はゲンドウが立てたシナリオであり、ゲンドウの言う通りJAはメルトダウン寸前で活動が停止する手はずになっていた。
「時計の針は元には戻らない。しかし、自ら進める事は出来る」
「レイが黙っていないぞ?(・・・葛城三佐もな)」
「レイが日射病から回復する前に全て済まさなければならない。ならば、手の空いているパイロットが出撃するのは当然の事だ」
「(レイを起こせば良いだろが、起こせば・・・。軽い日射病だろ?)・・・かと言って、シンジ君を今失うのは大幅な戦力減だぞ?」
しかし、シンジがミサトのお気に入りと知っている冬月は、このままではミサトのご機嫌を損ねかねないと危惧してゲンドウを粘り強く説得する。
「理由は存在すれば良い・・・。それ以上の意味はない」
「理由?・・・お前が欲しいのは口実だろ?(そんなにシンジ君が邪魔なのか?一応、お前の息子じゃないか・・・。)」
その甲斐なく、ゲンドウは心変わりせずニヤリとだけ笑い、冬月がどうしたものかと深い溜息をついたその時。
『パルス逆流っ!!』
『第2、第3ステージに異常発生っ!!』
『中枢神経素子にも強い拒絶が起こっていますっ!!』
『ハーモニスク、反転っ!!シンクロ率だけが急上昇していますっ!!!140・・・。160・・・。190・・・。230っ!!!!』
ゲンドウのシナリオ通り、発令所に零号機暴走を知らす絶望的なアナウンス報告が矢次になされ始めた。


『アンビリカルブリッチ、大破っ!!拘束具が次々と外されてゆきますっ!!!』
『特殊ベイクライトを放出っ!!エントリープラグ、緊急射出っ!!!』
『ダメですっ!!信号が届きませんっ!!!』
『そ、そんな・・・。シ、シンジ君っ!!シ、シンジ君っ!!!シ、シンジくぅぅ~~~んっ!!!!』
アンビリカルブリッチを破壊して拘束具を力ずくでもぎ取り、零号機ケイジで暴れまくる零号機。
(大丈夫だよ。マヤさん・・・。しかし・・・・・・。フフ、やるじゃないか。ここまでするとは思ってもみなかったよ。
 今回は実に積極的で嬉しいね。僕も色々とやり甲斐があると言うものさ・・・。でも、父さんの浮気の尻拭いをするつもりは更々ないんだよ)
マヤの涙ながらの絶叫を聞きながら、シンジは不敵にクスクスと笑った後、表情を引き締めて静かに目を瞑る。
「・・・・・・静まれっ!!」
一拍の間の後、シンジは目を最大にクワッと見開き、爛々と輝く凄まじい紅い眼光を放ってエントリープラグ内を赤く照らした。


「零号機、制御不能っ!!・・・あっ!!?いえ、起動しましたっ!!!!シンクロ率、38.9%っ!!!!!」
「シ、シンジ君っ!?」
不意に暴れ狂っていた零号機が大人しくなり、発令所に希望の報告がなされ、マヤが泣き笑顔で喜び声をあげた次の瞬間。
「な、なにぃぃぃぃぃ~~~~~~っ!?」
ガタッ!!
このあり得ない事態にマヤの喜び声を打ち消して驚愕声を発令所に木霊させ、ゲンドウが席を蹴って勢い良く立ち上がった。
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
反射的に発令所の誰もが振り向き司令席を見上げ、誰もが口を噤んで発令所がシーンと静まり返る。
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
         「・・・・・・。」
しかも、零号機が無事起動して嬉しいはずが、ゲンドウは驚愕と憤怒を入り混ぜた表情をあらわにさせ、発令所の誰もが戸惑いを隠せない。
「何をしているっ!!急げっ!!!」
「は、はいっ!!ぜ、零号機、発進準備っ!!!」
冬月はゲンドウ同様に驚愕していたが、慌てて我に帰って怒鳴り、日向も慌てて我に帰って指示を飛ばし、発令所が再び騒がしくなってゆく。
ドスッ・・・。
「・・・おい、碇。シンジ君はチルドレンではなく・・・。適格者なのではないのか?
 これは老人達に感ずかれれば何かと面倒になるぞ。今回はもう仕方ないが・・・。これ以上、シンジ君を零号機に乗せるべきではないな」
しばらくして、ゲンドウが呆けた様に席へ力無く腰を下ろすと、冬月が神妙な表情を伴い、口をゲンドウの耳元へ寄せて小声で囁く。
人造人間エヴァンゲリオンの製造を司るE計画、当初その予定ではパイロットが子供などと言う非モラル的なシステムではなかった。
本来は訓練された『適格者』と誇称される者がパイロットとして乗り込むはずだったのだが、エヴァとの接触実験に悉く失敗。
そして、幾多の失敗と試行錯誤の末、近親者をエヴァに取り込ませ、その近親者を触媒とする現在の外道のシンクロ・システムが確立した。
このシステムによるパイロットこそが『チルドレン』と呼ばれ、本来のE計画とは有る意味でほど遠い苦肉の策なのである。
(無理もないか・・・。あれほど探して見つからなかった適格者が身近にいたのだからな。
 しかも、適格者として志願したユイ君は取り込まれ、その息子であるシンジ君が適格者とは・・・。全く運命とは皮肉なものだな)
だが、ゲンドウは口をポカンと開けたまま何も応えず、冬月はやるせない溜息をつきながらゲンドウの肩へ力無く手を置いた。


(変よ・・・。変・・・。絶対に変よ・・・。)
旧東京から第二東京へ向かうリニアの車中、窓側の席に座るミサトは窓の縁に肘を置き、不機嫌そうに親指の爪を噛んで物思いに耽っていた。
ミサトが不機嫌な理由、それは核防護服まで着込み、JAの制御室へ乗り込んだのにも関わらず、ゲンドウの掌の上で踊らされていたと言う事実。
しかし、それに加えてもう1つ、そんな事よりもミサトを不機嫌にさせる大きな理由が存在した。
(でも・・・。まあ、良いわ。シンジ君が何を考えていようとも日向君に留守番を頼んであるしね。
 これなら幾ら何でも家へ連れ込めないだろうし・・・。日向君には1時間毎の定時連絡も頼んであるし・・・・・・。完璧よっ!!)
JA暴走停止の作戦終了後、旧東京までわざわざ出向いて来たシンジを労おうと、ミサトはシンジに自分達の出張の同行を誘う。
何故ならば、これから行くネルフ松代実験場の近くには温泉があり、自分達の宿に温泉宿を指定していたからである。
何よりも、これならば合法的に家を留守にする事なくシンジを監視する事が出来る為、シンジの同行を猛烈に反対するリツコを押し切ったくらい。
その上、普段とは違う温泉場と言う環境で盛り上がり、シンジと色々な全くの謎の行為を楽しむのも良いかなと言う思惑がミサトにはあった。
ところが、シンジはミサトの誘いを二つ返事であっさりと断り、作戦が終了するや否や早々に第三新東京市へ急ぎ帰って行ったのである。
「・・・***。・・・**ト。・・・*サト。・・・ミサト。・・・ミサトっ!!ミサトっ!!!ミサトっ!!!!」
「あによっ!!」
激しく肩を揺すられて現世へ戻り、ミサトは不機嫌そのままに考えを中断させた通路側の席に座る青いスーツにタイトミニ姿のリツコを怒鳴る。
「あなたね。人が親切に教えてやっていると言うのに・・・。ほら、早くしないと発車するわよ。ここの駅弁を買うんじゃなかったの?」
「げっ!?もう中軽井沢なのっ!!?」
リツコは恩を仇で返すミサトへ溜息混じりにミサト指定の駅の到着を知らせ、驚き慌てたミサトが勢い良く席を立ち上がったその時。
「あっ!?探しましたよ・・・。でも、良かった。やっぱり、この時間だったんですね」
「へっ!?・・・ひゅ、日向君。ど、どうして、ここに居るの?」
車内をキョロキョロと見渡していた普段着姿の日向と目が合い、ミサトは第三新東京市に居るはずの日向が前方に居る事実にビックリ仰天。
「えっ!?どうしてって・・・。葛城さんに呼ばれて来たんですけど?」
「・・・はぁ?誰が呼んだって・・・。日向君には家の留守番を頼んだじゃない」
ミサト達の元へ歩み寄りながら、日向はミサトの問いを不思議そうに応えるが、ミサトは日向以上に訳が解らず驚きを通り越して茫然とする。
「でも、シンジ君が言ってましたよ?葛城さんだけでは手におえない事が出来たから、すぐに駈けつけてくれと伝言を頼まれたって・・・。」
「な゛っ!?」
日向はそんなミサトへここに居る理由を説明して語り、ミサトはシンジが何故に出張の同行を断ったのかを悟って驚愕に目を最大に見開く。
「どうやら、一杯食わされたらしいね・・・。ミサト」
「ぐぬぬぬぬ・・・。」
シンジにやり込められている同類を見つけ、リツコが安堵の笑みを漏らすと、ミサトが唸り声をあげながら再び席へ沈んでいった。
「あ、あのぉ~~・・・。も、もしかして、違うんですか?」
「まあ、良いわ。こうなったら、あなたも付いて来なさい・・・って、ミサト、車内で携帯を使うのはマナー違反よ」
所在なさ気にする日向を哀れんで溜息混じりに出張の同行を許可しつつ、リツコは隣で携帯電話を使おうとしているミサトへ白い視線を向ける。
「うっさいわねっ!!緊急事態よっ!!!緊急事態っ!!!!」
プルルルルルルルルルッ!!ウィィーーーン・・・・・・。
だが、ミサトはリツコの注意など聞かず何処かへ電話をかけ、そうこうしている内に駅構内でベルが鳴り、リニアは次の駅へ向けて発車し始めた。


「はい、解りました。はい、はい・・・。では・・・・・・。」
サードチルドレンガード班の司令室であるコーポ藤波の206号室。
カチャッ・・・。
「どうしたんだ?」
一見して大学生風の眼鏡をした男が電話の受話器を置くと、一見してサーファー風のピアスをした男が望遠鏡を覗いたまま電話の内容を尋ねる。
「いや、どういう風の吹き回しなんだか・・・。葛城三佐がサードの監視を強化しろとよ」
「ほう・・・。それは確かに不思議だな。いつもは出来るだけプライベートに干渉するなとか言ってるのに・・・。」
応えて眼鏡の男は首を傾げ、ピアスの男は意外そうな顔を眼鏡の男へ向け、普段は自分達をうざったく思って文句ばかり言うミサトをボヤいた。
「まあ、何にせよ。言われなくとも、俺達は俺達の仕事をするだけだ」
「・・・だな」
それも束の間、一時も気が抜けない任務にあって、眼鏡の男は監視カメラの調整作業に移り、ピアスの男が監視モニターへ真剣な眼差しを向ける。
「それにしても、サードって・・・。実際のところ、何人の彼女がいるんだ?」
「何人と言う表現はおかしいな。だって、考えてもみろよ?俺達が知る限りでも30人近くはいるぞ?・・・なら、正確には何十人だろう?」
そして、5つあるモニターの内の1つの映像が切り替わり、ベランダに対して正面の角度で葛城邸のリビングが望遠映像で映し出された途端。
「・・・羨ましい限りだ」
「全くだ・・・。俺達なんて、サードのおかげでデートをする暇もない超過勤務だって言うのに・・・。」
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~・・・。」」
シンジとヒカリのイチャイチャとイチャつく様子にやる気を萎えさせ、眼鏡の男とピアスの男が揃って深い深ぁ~~い溜息をついた。
「・・・ところでよ」
「なんだ?」
これ以上は任務に差し支えがあると判断して映像を元に戻しつつ、眼鏡の男は別のモニターを指さし、ピアスの男へ呆れた様子で尋ねる。
「いつもながら思うんだが・・・。こいつ等、何をやっているんだ?」
「・・・放っておけよ。いつも通り、その内に腹が空いて家へ帰るんじゃないか」
その指さす先にいる黒いジャージ姿の少年と眼鏡をかけた制服姿の少年を一瞥して、ピアスの男はこの映像は無駄だと別の映像に切り替えた。


「違う、違うとは思っていたが・・・。やっぱり、ただ者じゃあないな。シンジの奴・・・。あれはチェロか?」
ケンスケは双眼鏡で葛城邸のリビングを覗きながら、ここまで聞こえてくる素晴らしいチャロの音色に感嘆の溜息をついた。
ちなみに、ここは葛城邸があるコンフォートマンション17前の環状道路を挟んで斜め向かいにある8階建てマンションの屋上。
「なんやねんっ!!これくらいどないしたっちゅうねんっ!!!わしだって笛くらい吹けるっちゅうねんっ!!!!」
(笛って・・・。トウジが吹ける学校の縦笛で・・・。せいぜい、チャルメラくらいだろ?)
だが、隣で同様に双眼鏡を覗くトウジはシンジへの対抗意識に鼻息を荒くさせ、ケンスケが今度は呆れた意味での溜息をついて心の中で毒づいた。
余談だが、何故2人がこんな所に居るかと言えば、ケンスケが昼休みにトウジへ行った質問に原因が遡る。
あの一件の後、トウジはケンスケにヒカリへの想いを白状しろとしつこく迫り、ケンスケは困り果てて遂に『ヒカリ、シンジらぶ説』を説いた。
ところが、トウジはその説を鼻で笑って一笑して尚も迫り、ケンスケはトウジに現実を直視させるべく、ここへ連れて来たと言う訳である。
「んっ!?終わったみたいだな・・・って、おおっ!!?」
演奏が止むと、双眼鏡の中で床に座っていたヒカリが立ち上り、少し前屈みとなって椅子に座るシンジの顔へ後頭部を重ねてシンジの顔を隠した。
「のわぁぁ~~~っ!!何しとんねん、何しとんねんっ!!!イインチョ、離れるんやっ!!!!そいつはケダモノやでっ!!!!!」
「(こりゃ、終わったな。どう考えても、トウジに勝ち目はないよ・・・。)これで解っただろ?委員長は・・・・・・。」
シンジの左手がヒカリの首へ回り、明らかにキスをしていると思われる2人の体勢に、トウジが騒ぎ立て、ケンスケが双眼鏡を下ろしながら諭す。
「・・・って、何処へ行くんだ?トウジ」
「決まっとるやろっ!!イインチョを助けるんやっ!!!殴り込みやっ!!!!決闘やっ!!!!!漢の戦いやっ!!!!!!」
しかし、視線を向けた隣にはトウジの姿はなく、ケンスケが後ろを振り返ってみると、トウジが怒り肩のガニ股で屋上出入口を目指していた。
「まあまあ、待てって・・・。もしかしたら、ただ単に委員長の目にゴミが入って、それをシンジが取っているだけかも知れないだろ?」
このままでは面倒な事になるのは間違いないと確信し、ケンスケは慌ててトウジを追いかけ、トウジの肩を掴んで元の場所へ引き戻そうとする。
「ホンマかっ!?ホンマなんかっ!!?そうなんやなっ!!!?そうに決まっとるよなっ!!!!?」
「ああ、そうそう・・・。そうに決まっているよ」
「せやな、イインチョがそんな事するはずがあらへんっ!!せや、せやっ!!!」
するとトウジは意外にも自分で元の場所へ戻り、今の光景が目の錯覚に違いないと信じ込んで再び双眼鏡を葛城邸へ向けた。
(おいおい・・・。自分に言い聞かせているよ。
 誰がどう見ても、今のは2人がキスしているとしか見えないだろうに・・・。しかも、委員長からの・・・・・・。
 やっぱり、あれか?・・・結局のところ、潜在的に恐怖が染みついているから、口ではああは言っても行動には移せないんだろうな)
そんなトウジに顔を引きつらせて大粒の汗をタラ~リと流し、ケンスケはトウジの深層心理を読み取って同情の溜息をつく。
「何しとんねん、何しとんねんっ!!何しとんねぇぇ~~~んっ!!イインチョぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~~っ!!!!」
「興奮するのは良いけど・・・。ちょっとは静かにしろよ。そんなに離れていないんだから、シンジ達にバレるぞ?」
その後、この騒ぎを聞きつけてマンションの住人が警察を呼び、不法侵入罪でトウジとケンスケが交番へ連行されたのは言うまでもない。


「では、リクエストにお応えして・・・。」
パチパチパチパチパチッ!!
リビングの窓から射し込む夕陽を正面に受けながら椅子に座り、シンジがチェロを構えて微笑み、ヒカリとペンペンが嬉しそうに拍手で迎える。
パチパチパチパチパチッ・・・。
♪~~♪♪~♪~~~♪♪~~♪~♪♪~~♪~~・・・。
そして、拍手が鳴り止むと、シンジは目を静かに瞑り、それを合図にヒカリとペンペンも目を静かに瞑り、しばらくすると演奏が始まった。
♪♪~~♪~♪♪♪~~♪~♪~~♪♪~♪♪~~・・・。
(クワワワワ・・・。)
ペンペンですら聞き惚れる何処か悲しみと寂しさを感じさせるその音色に惹き込まれ、ヒカリは心を震わせて知らず知らずの内に涙をこぼす。
♪~♪~~♪♪~♪♪~~♪~~♪♪~♪~~~♪・・・。
(素敵・・・。碇君って、勉強が出来るだけじゃないなんて・・・。家事もするって言うから話も合うし・・・・・・。
 大体、不思議よね・・・。今、良く良く考えてみると・・・。どうして、私って鈴原が好きだったのかしら?・・・今はもう全然解らないわ)
多才な才能を見せるシンジにますます惹かれてゆきながら、ヒカリは改めて己の選択が正しかった事を知り、今朝までの感情が解らず首を傾げた。
その結果、ヒカリの心の世界では留置所に入れられたトウジが助けを求めていたが、ヒカリは無視してトウジを極寒の刑務所へと送ってしまう。
♪~♪♪~~♪~~♪♪♪~~♪♪~~♪♪~~♪・・・。
(やれやれ、何をやっているんだか・・・。
 でも、本当はもう少しだけトウジにチャンスの時間をあげようと思っていたんだけどね。・・・ま、世の中は弱肉強食って事で許してよ)
シンジはチラリと右目だけを開けると、斜め向かいのマンション屋上で夕陽にキラキラと光る双眼鏡の反射光にクスリと笑みを漏らした。


余談だが、翌日トウジは学校へ登校するや否や、ヒカリの前でチャルメラをリコーダーで演奏するが、ヒカリに笑われて激しく落ち込む事となる。
それでもめげず、トウジは休み時間毎にチャルメラを演奏した結果、ヒカリに気味悪がられた揚げ句、いい加減に嫌がらせは止めろと罵られた。




- 次回予告 -
やあ、アスカ・・・。久しぶり・・・・・・。            

・・・でも、ごめんよ。                      

本当なら去年のデートの続きをしたいんだけど、今日は先約があるんだ。

だから、これで許してよ。・・・ねっ!?              

・・・と言う事で、ようやく逢えましたね。             

フフ・・・。加持さん、あなたとの再会を楽しみに待っていましたよ。 

んっ!?ガギエル?・・・君は呼んでいないんだけどな。       


Next Lesson

「ア スカ、来日」

さぁ~~て、この次はアスカで大サービスっ!!

注意:この予告と実際のお話と内容が違う場合があります。


後書き

まず最初に誤解があるといけないので言っておきますが・・・。
Bパートでシンジはヒカリを無理矢理に・・・ではありませんよ?
いや、何となく誤解されるっぽい表現と構成かな?と思ったもので(^^;)
それにしても、第7話にして1話のサイズがこれほど大きいとは実に先が思いやられますね(大汗)
一応、これでも精一杯に不要なシーンをカットしているんですけどね。
例えば、Bパートのラストでトウジとケンスケが覗く双眼鏡の中でヒカリからシンジへキスをしているシーンがありますよね?
あれはシンジの部屋でチェロを見つけたヒカリがシンジへ演奏を頼み、シンジが演奏の報酬を求めた結果なんですよ(笑)

感想はこちらAnneまで、、、。

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