真世紀エヴァンゲリオン Menthol Lesson8 アスカ、来日 -15



ブルブルブルブルブルッ!!
第三新東京市を発したネルフ所属のヘリコプターは相模湾沿岸を抜け、前方に大海原しか広がっていないある地点を一路目指していた。
「おおっ!?おおっ!!?おおぉぉ~~~っ!!!?
 Mil-55D輸送ヘリっ!!こんな事でもなけりゃ、一生乗る機会ないよぉ~~っ!!!全く持つべき物は友達って感じだよなっ!!!!」
「そうだね・・・。で、何処へ行くんですか?ミサトさん」
狂喜乱舞するケンスケはビデオカメラを片手に狭い後部座席を所狭しと動き回り、隣に座るシンジが迷惑そうに溜息をつきつつミサトへ話を振る。
「毎日、同じ山の中じゃ息苦しいと思ってね♪
 夏休み最後の日って事もあるし、デートに誘ったんじゃない♪行き先は豪華なお船で太平洋をクルージングよん♪♪」
応えて悠々と広々な助手席に座るミサトは、不気味なくらいご機嫌なニコニコとした笑顔を後部座席へ振り向かせた。
ミサトがご機嫌な理由、それは最近のシンジの生活態度にある。
夏休みが始まった途端、シンジは毎日の如く昼頃に何処かへ出かけ、午前様の外泊が連日続き、ミサトは1人寂しい夕食と夜を過ごしていた。
だが、ここ1週間のシンジは遊びへ行くのも、外泊するのも止め、家で大人しく過ごすようになっていたのである。
無論、過去の歴史からシンジは今日の為に待機していたに過ぎないのだが、ミサトが知る由もなく今はシンジが家に居る事だけでご機嫌だった。
「ええっ!?それじゃあ、今日はほんまにミサトさんとデートですかっ!!?
 この帽子、どうでっしゃろっ!?今日のこの日の為に買うたんですっ!!!ミサトさぁぁ~~~んっ!!!?」
しかし、ミサトの笑顔に反応したのはシンジの隣に座るトウジであり、トウジはベースボールキャップを被り直してミサトの方へ身を乗り出す。
ちなみに、ミサトはネルフ制服姿、シンジは赤い半袖シャツに黒いズボン姿、トウジは相変わらずのジャージ姿、ケンスケは何故か迷彩服姿。
「そんな事よりもさ・・・。トウジも、ケンスケも夏休みの宿題は良いの?」
「「う゛っ・・・。」」
当然、更に席が窮屈になり、シンジがますます迷惑そうに溜息混じりの嫌味を飛ばすと、トウジとケンスケは興奮を冷ましてピタリと固まった。
シンジと同様ながら、違う意味で夏休みの全てを遊び呆けていたトウジとケンスケ。
おかげで、夏休みの宿題は手つかずのまま今日と言う日を迎え、トウジとケンスケはシンジに夏休みの宿題を写させて貰うと朝一で葛城邸へ訪問。
シンジは苦笑しながらも2人のお願いを承諾し、つつがなく夏休みの宿題の複写作業が進み、トウジとケンスケが複写作業に飽き始めたお昼前頃。
ミサトが葛城邸に現れ、シンジと共にトウジとケンスケを誘い、現在に至っている始末。
余談だが、夏休み前に色々あって亀裂が入ったシンジとトウジの仲だが、ケンスケの粘り強い尽力によって今では元通りに修復されていた。
「ま、まあまあ・・・。そ、そんな嫌な事をパァ~~っと忘れて、今日は楽しくいきましょ?・・・ね、ねっ!?」
「パァ~~っと忘れて、どうするんですか?明日になって泣く事になるのは目に見えているんですよ?」
万能なシンジとは違い、2人の苦労を良く知るミサトがフォローするも、シンジの鋭いツッコみが入り、トウジとケンスケは固まったまま。
「(やれやれ、今日は変な客を乗せちまったな・・・。)これから、上昇するんで席にちゃんと座って下さい。良いですか?」
ブルブルブルブルブルッ!!
ヘリの運転手は和気藹々とする背後の会話に顔を引きつらせながら操縦桿を引き、ヘリコプターに上昇をかけて積乱雲へ突っ込ませた。


「ああ、そうだ。その問題は既に委員会へ話はつけてある。荷物は昨日佐世保を出向し・・・。今は太平洋上だ」
相変わらず重苦しい雰囲気が漂う司令公務室、相変わらず重苦しい声を響かすゲンドウ。
「では、よろしく頼む」
カチャ・・・。
何処からかかかってきた電話の受話器を置き、ゲンドウは司令席に座り直してゲンドウポーズを取った。
「ふっ・・・。シンジ、お前はもう用済みだ」
そして、ゲンドウは何やら来るべき未来を想像して、ついつい想像の端を言葉に漏らし、ゲンドウポーズで隠された口元に歪んだ笑みを浮かべる。
パチーーーンッ!!
(・・・やれやれ、今度はどうなる事か)
一方、その隣のソファーで相変わらず詰め将棋を興じている冬月が、これまた来るべき未来を想像して深い深ぁ~~い溜息をついていた。


ブルブルブルブルブルッ!!
不意にヘリコプターが緩やかに下降を始めて低空に広がった雲海と雲間を抜け、徐々に視界が白から青に変わって目の前に大海原が広がる。
「おおうっ!!空母が5、戦艦4っ!!!大艦隊だっ!!!!
 正にゴぉぉ~~~ジャスっ!!さすが国連軍が誇る正規空母オーバー・ザ・レインボーっ!!!」
「・・・こ、これが豪華なお船なんか?」
そして、眼下には国連軍所属の太平洋艦隊が列をなして連なり、ケンスケは生で見る大艦隊に感動するが、トウジは拍子抜けして肩を落とす。
「こんな老朽艦が良く浮いていられるものねぇ~~」
「いやいやぁ~~、セカンドインパクト前のビンテージ物じゃないっスか?」
ミサトは艦隊中央に座する空母を見下ろしながら鼻で笑い、ケンスケがミサトの馬鹿にしたような口調にある意味で同調する。
(フフ、あそこに居るのか・・・。やっと逢えるね。アスカ・・・・・・。)
ブルブルブルブルブルッ!!
シンジもまたその空母を見下ろして高まる期待に思わず胸を押さえ、ヘリがその空母から放たれている誘導灯に従って急下降を始めた。


「いい気なもんだっ!!おもちゃのソケットを運んできおったぞっ!!!・・・ガキの使いがっ!!!!」
馬鹿にされた空母のブリッチでは、奇しくも艦長席に座る人物がお返しと言わんばかりに双眼鏡で降りてくるヘリコプターを覗き見て毒づく。
「ふんっ!!ようやく来たわねっ!!!噂のサードチルドレンがっ!!!!」
そして、ブリッチ外のタラップでも、ロングヘアーの赤い髪とレモン色のワンピースの裾を風に靡かせ、とある碧眼の少女が毒づいていた。


「おおっ!!凄いっ!!!凄いっ!!!凄いっ!!!!凄いっ!!!!!凄いっ!!!!!!凄いっ!!!!!!!凄いっ!!!!!!!!
 凄すぎるっ!!男なら涙を流すべき状況だねっ!!!これはっ!!!!
 はぁぁ~~~・・・。凄いっ!!凄いっ!!!凄いっ!!!!凄いっ!!!!!凄いっ!!!!!!凄ぉぉぉぉ~~~~~いっ!!!!!!!」
空母の甲板上に降りるや否や、ケンスケはビデオカメラを彼方此方へ向けて狂喜乱舞。
「おら、退かんかい。ケンスケ」
立ち塞がるケンスケが邪魔でヘリコプターから降りられず、続くトウジが強引にケンスケを横へ退け、甲板へ足を一歩踏み出した次の瞬間。
ピュゥゥ~~~・・・。
「ああっ!?待てっ!!!待たんかいっ!!!!」
少し強めの波風が吹いてトウジの帽子が飛ばされ、慌ててトウジが帽子の後を追って駈け出す。
「はぁ~~あ・・・。やっと着いたわね」
「全く・・・。これだから軍用機は嫌いなんです。シートは堅いし・・・。もっと居住性を考えて欲しいよな」
続いて現れたミサトとシンジは、狭い空間から解放された喜びに欠伸と背伸びをしながらヘリコプターから降りてきた。


ピュゥゥ~~~・・・。ピュゥゥ~~~・・・。ピュゥゥ~~~・・・。
「きしょっ!!止まれっ!!!止まらんかいっ!!!!」
遮蔽物が全くない甲板上を風に煽られ、やや前傾姿勢で必死に手を伸ばして追いかけるトウジをあざ笑う様に一歩先を転がり続けてゆく帽子。
「んっ!?・・・おおっ!!?」
そして、帽子は赤い靴を履いた人物のスラリと伸びた細い足の足下で止まり、トウジが安堵に胸をホッと撫で下ろして喜び沸くも束の間。
「・・・んがっ!?」
何を思ったのか、その細い足の持ち主は足を少し上げた後、ご丁寧に帽子を靴で踏みつけ、トウジがまさかの行動に愕然と目を見開いて固まる。
「ヘロぉ~~♪ミサト、元気してた♪♪」
「まっねぇ~~。あなたも背が伸びたんじゃない?」
トウジが帽子を凝視したまま拳を握って憤怒の表情を浮かべるも、その細い足の持ち主である少女はトウジを無視して前方のミサトへ話しかけた。
「ぬぐぐぐぐっ!!」
「そっ!!他の所もちゃぁ~~んと女らしくなってるわよ?」
その上、トウジが帽子を足下から引き抜き取ろうと力を入れるが、少女はますます踵に体重をかけて足を退かしてくれない。
「紹介するわ。エヴァンゲリオン弐号機専属パイロット、セカンドチルドレン。惣流・アスカ・ラングレーよ。
 そして、こっちがアスカも聞いているとは思うけど・・・。エヴァンゲリオン初号機専属パイロット、サードチルドレン。碇シン・・・。」
トウジへの仕打ちに苦笑を浮かべながら、ミサトが皆へ少女を、少女へシンジを紹介し、ケンスケが少女へビデオカメラを向けたその時。
改めて少女の名前は『惣流・アスカ・ラングレー』、日独米のクォータであり、抜群の容姿とスタイルを持つ掛け値なしの美少女。
また、その頭には己の立場を主張しているのか、エヴァ搭乗時に着ける赤いヘッドセットが髪飾り代わりに装着されている。
ピュゥゥ~~~・・・。
強い波風が皆の間を吹き抜け、アスカが着るワンピースの裾が風に煽られて見事なくらい捲れ上がった。
「「うひょぉぉ~~~っ!?」」
たっぷりと5秒間ほどワンピースの色に合わせたレモン色のショーツがご披露され、トウジとケンスケが大歓声を上げた一拍の間の後。


パンッ!!パンッ!!!・・・パシッ!!!!




真世紀エヴァンゲリオン
M E N T H O L

Lesson:8 アスカ、来日




「痛っ!?・・・な、何すんのよっ!!?」
トウジ、ケンスケと続き、シンジにもビンタを喰らわそうとしたアスカだったが、その寸前でビンタする右手をシンジに力強く掴まれて驚く。
4歳の時にセカンドチルドレンとして登録され、幼少の頃から軍事訓練に明け暮れてきたアスカ。
それ故、ただのビンタとは言え、アスカのは凶器と言って良いほどの破壊力を持ち、そのスピード、その切れ、その威力は計り知れない物がある。
実際、ビンタを喰らったトウジとケンスケは吹き飛ばされ、甲板上に轟沈して白目を剥いていた。
それにも関わらず、やや不意を突いた攻撃に動ずる事も、避ける事もなく、寸前でビンタするアスカの右手を的確に掴んだシンジ。
しかも、そこいらの男の子以上の腕力を持つアスカが、押しても引いても掴まれた右腕はピクリとも動かないのだから、驚くのも無理がない話。
「シ、シンジ君・・・。お、落ち着いて・・・。ねっ!?ねっ!!?ねっ!!!?・・・ほ、ほら、アスカも早く謝ってっ!!!!!」
「あたしが何で謝んなきゃいけない訳っ!!見物料よっ!!!安いもんじゃないっ!!!!」
ミサトは表情を消したシンジに恐れ戦き、アスカへ謝るように強要するが、アスカは怒鳴って理不尽な強要に反発する。
「見物料か・・・。それなら仕方がないね。
 でも、トウジとケンスケを見る限り、お釣りが来た上に慰謝料が貰えそうだね。・・・なら、僕は最初にそれを貰っておこうかな?」
するとシンジは無惨な姿で横たわるトウジとケンスケを一瞥してクスリと笑みを漏らし、不意にアスカの右手を掴んでいた力を緩めた。
「あっ!?」
その際、右手を引っ張り抜こうとしていた為にバランスを後ろへ崩し、アスカが慌てて前方へ体重をかけたその時。
「・・・えっ!?」
シンジが改めてアスカの右手を掴み直して引き寄せ、アスカはシンジの策略にはまって顔をシンジの胸へ埋める。
「フフ・・・。可愛いパンツだったよ」
「な゛っ!?」
思わず茫然と目が点になるが、耳元で囁いたシンジの言葉で我に帰り、アスカが羞恥心に紅く染めた顔を勢い良く上げた次の瞬間。
「な、なに言って・・・。んんっ!?んんんんんっ!!?んん~~~~~っ!!!?
シンジは怒り開いたアスカの口へ唇を重ねた上、すぐさま制圧部隊をアスカの口内へと送り込み、突然の宣戦布告にアスカが驚愕に目を見開いた。


「ほほう・・・。やるじゃないか」
ブリッチ外のタラップで葛城御一行様を眺めていた髪が尻尾の男は、予想外の展開に驚きながらも無精髭の顎をさすって愉快そうにニヤリと笑う。
男の名前は『加持リョウジ』、この男こそが過去のシンジが師匠であり、有る意味で今のシンジの全てを作った男。
「しかも、あの若さで、あのテクニック・・・。これは面白くなってきたぞ」
暴れるアスカがシンジに押さえ込まれてゆく様子にますます口の端を歪め、加持はシンジに自分と同種の匂いを感じて目をキラリーンと光らせた。


「なにすんねんっ!!」
「ひ、酷いじゃないかぁ~~・・・。」
アスカから有無を言わさず強烈なビンタを喰らって轟沈し、ちょっぴりの間だけ記憶をなくしてしまったトウジとケンスケ。
「ぬおっ!?」
「おおっ!?」
鮮やかな紅葉を頬に張り付け、怒りもあらわに体を起き上がらせる途中、トウジとケンスケは視線の先にあった光景にビックリ仰天して固まった。
「んっ・・・。んんっ・・・。んはっ・・・・・・。」
何故ならば、キス自体の経験がない2人とって目の毒とも言える超熱烈なキスをシンジとアスカが目の前で交わしていたからである。
「んっ・・・んっ・。」
           「・・・んっ・・・。」
「・んっ・・んっ・。」
           「・・んんっ・・・。」
「ん・・んんっ・・。」
           「・・・んっ・・んっ」
最初こそ、大事にしていたファーストキスをシンジに奪われて怒り、キスから逃れるべく激しく抵抗したアスカ。
だが、所詮は何人もの女性を虜にしたシンジのキスに勝てるはずもなく、アスカはあれよあれよと大人しくなって遂に脱力して屈服。
それどころか、今では目をトロ~ンと潤ませ、アスカはぎこちないながらもシンジへキスし返している有り様。
もっとも、シンジはアスカを抱いて体を密着させ、やや前傾姿勢で右足アスカの股間へ差し入れている為、アスカが抵抗しようにも限りがあった。
「・・んっ・んんっ。」
           「んっ・・んんっ・。」
「・んんんっ・・・。」
           「んんっ・・んんんっ」
「・・んっ・んんっ。」
           「・んっ・んっ・・。」
次第にアスカの呼吸が荒くなってきたのを見計らい、シンジはアスカの唇から唇を離し、アスカの首筋へ顔を埋めてゆく。
「あんっ!?」
「はっ!?」
その途端、アスカが何故か体をビクッと弓なりに反らして悲鳴をあげ、その悲鳴にいきなりの展開に思わず茫然としていたミサトが我に帰った。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと、2人ともっ!!な、な、な、な、な、何やってんのよっ!!!」
すぐさまミサトは強引に2人の間へ身を割り込ませ、主にアスカを突き飛ばして2人を引き離す。
「あっ・・・。」
(フフ・・・。さすが、アスカ。感度良好だね)
何故か腰砕け状態のアスカは成すすべなく後方へ倒れて尻餅をつき、シンジが尻餅で覗くアスカのスカートの中身に何やらニヤリ笑いを浮かべる。
「シ、シンジ君っ!!あ、あなたねぇ~~っ!!!こ、ここを何処だと思っているのっ!!!!」
だが、ミサトが素早くシンジの視界を遮って憤怒の顔を割り込ませ、シンジが表情をニヤリ笑いからクスリ笑いへ変えた次の瞬間。
「フフ、嫉妬かい?ミサト」
「んんっ!?」
シンジはミサトの首へ両手を回してミサトの顔を引き寄せ、いきなり前触れもなしに唇を重ねられたミサトが驚きに目を見開いた。
「んっ・・んんっ・。」
           「・・・んんっ・・。」
「・・んっ・・んんっ」
           「んんっ・・んっ・。」
「・・んんっ・・・。」
           「・・・んっ・・んっ」
一拍の間の後、見開かれたミサトの目が次第に緩み始め、今さっきまで表情にあった険も緩み消えてゆく。
「んんっ・んっ・・。」
           「んんっ・・んんんっ」
「・・んっ・んんっ。」
           「・んんんっ・・・。」
「・んっ・んっ・・。」
           「・・んっ・んんっ。」
更に一拍の間の後、ミサトは立っているのが堪えきれなくなり、やや腰を落として己もシンジの首を両手を回し、シンジのキスに応え始めた。
「「あわわわわわわわわわ・・・。」」
この先ほど以上に濃厚なキスに、トウジとケンスケは勿論の事、周囲の海兵隊の皆さんも揃って何やらやや腰を引き、茫然と大口を開けて固まる。
(ミサトさんったら、みんなが居るのに・・・って、おや?
 フフ、加持さん・・・。さてさて、今回はどんなシナリオを僕に見せてくれるのかな?・・・期待していますよ?)
そんな中、1人冷静なシンジは数十メートル先のタラップに加持がいるのを見つけ、やはり大口を開けて固まっている加持へニヤリと笑った。


「おやおや、何処かの御令嬢が愛人連れでクルージング船を降り間違えたのかと思っていたが・・・。
 どうやら、それはこちらの勘違いだった様だな。いやいや、これは失敬、失敬。あともう少しで保安員を君へ差し向けるところだったよ」
数多の一悶着の末、ブリッチへやってきたミサトから身分証明を渡され、艦長は貼られた不機嫌そうな顔写真を一瞥してミサトを嫌味で歓迎する。
「ご理解頂けて幸いですわ。艦長」
「いやいや・・・。私の方こそ、久しぶりに子供達のお守りが出来て幸せだよ」
しかし、ミサトは全く動ぜずに涼しい顔を浮かべ、艦長は負けじと尚も嫌みでミサトを突っつく。
ちなみに、2人の間に漂う険悪な雰囲気を余所に、ケンスケは『凄いっ!!』を喜び連発してブリッチ内の撮影に大忙し。
また、ミサトの脇に立つシンジは、シンジを警戒して3メートルほど離れて立つアスカへ熱い視線を送っていた。
そして、シンジの背後には憤怒の表情を浮かべたトウジが立っており、シンジへ射殺さんばかりの殺気の籠もった睨みをシンジへ向けている。
「この度はエヴァ弐号機の輸送援助をありがとうございます。こちらが非常用電源ソケットの仕様書です」
「はんっ!!大体、この海の上であの人形を動かす要請なんぞ聞いちゃおらんっ!!!」
それでも、ミサトは堪えて脇に抱えていた書類を差し出し、とうとう艦長が嫌味合戦に負けて怒鳴り声をあげた。
「万一の事態に対する備えと理解して頂けますか?」
「その万一に備えて、我々太平洋艦隊が護衛しておるっ!!副長、思うんだが・・・。いつから国連軍は宅配屋に転職したのかな?」
しかも、ミサトが差し出した書類を受け取りながらも、艦長は一瞥もせず隣に控える副長へ渡し、副長を嫌味合戦へ引き込む。
「某組織が結成された後だと記憶しておりますが?・・・実際、おもちゃ1つを運ぶのに大層な護衛ですよ。我々、太平洋艦隊勢揃いですからね」
「エヴァの重要度を考えると足りないくらいですが・・・。では、その書類にサインをお願いします」
副長は面白いとニヤリ笑いを浮かべて話に乗るが、ミサトは表情を崩す事なく渡した書類へのサインを求める。
「まだだっ!!エヴァ弐号機及び、同操縦者はドイツの第三支部より本艦隊が預かっているっ!!!君等の勝手は許さんっ!!!!」
「・・・では、いつ引き渡しを?」
だが、艦長は最後のカードである縄張りを主張して要求を突っぱね、ミサトは遂に堪えきれなくなって鉄仮面を崩すと顔を盛大に引くつかせた。
「ふんっ!!新横須賀に陸上げしてからだっ!!海の上は我々の管轄っ!!!黙って従って貰おうっ!!!!」
「解りました・・・。但し、有事の際は我々ネルフの指揮権が最優先である事をお忘れなく」
艦長はこの顔が見たかったと言わんばかりにニヤリと笑い、ミサトが深呼吸をして冷静さを取り戻して再びクールさを身に纏ったその時。
「相変わらず、凛々しいなぁ~~」
「加持さん、助けてっ!!あの変態が私の事を厭らしい目でジロジロと見るのっ!!!」
張りつめた緊張感を一変させる軽い声がブリッチに響き、アスカはその声の主である加持へ駈け寄り、加持の後ろに隠れてシンジを指さす。
「な゛っ!?」
「加持君、君をブリッチに招待した覚えはないぞっ!!」
ミサトは数年ぶりの再会となる加持に驚愕して目を最大に見開き、艦長は許可もなしにブリッチへ現れた加持に憤慨して怒鳴り声をあげた。
「ねえ、聞いた?彼女、トウジの事を変態だってさ。酷いよねぇ~~」
「お前やっ!!お前っ!!!お前の事やっ!!!!」
一方、シンジはアスカに向けられた変態疑惑をトウジに振るが、トウジは今まで耐えていた怒りを爆発させて怒鳴り、シンジをビシッと指さす。
「・・・お前?ああ、ケンスケの事ね。確かにあれはちょっと変態っぽいかも・・・。」
「凄いっ!!凄いっ!!!凄すぎるぅぅ~~~っ!!!!」
「ま、まあ・・・。そ、それについては否定せえへんけどな」
するとシンジは何食わぬ顔でその指先を修正して、ブリッチを叫び撮影するケンスケへ向け、さすがのトウジもこれには同意せざるおえなかった。


「ふんっ!!あんな子供が世界を救うと言うのかっ!!?」
ドンッ!!
ミサト達がブリッチを出ていった途端、艦長は不機嫌を隠そうともせず艦長席の肘置きを拳で叩いて不満を漏らす。
余談だが、当初の予定ではエヴァ弐号機の輸送任務は1ヶ月も前に終わっているはずだった。
しかし、急遽エヴァ弐号機の再調整を目的にアメリカ・ネルフ第二支部へ寄り、艦隊の全てが3週間ほどの足止めを喰らったのである。
この腫れ物を扱う様なエヴァの扱いに対し、自分等を蔑ろにする扱いに、艦長が腹を立てるのも無理がない話。
だがその実、これらはJAへの工作などで何かと忙しい加持のスケジュール調整の為だったのだが、当然の事ながら艦長がそれを知る由もない。
「時代が変わったのでしょう・・・。議会もあのロボットに期待していると聞いています」
「あんなオモチャにかっ!?・・・馬鹿共めっ!!!そんな金があるなら、こっちに回せば良いんだっ!!!!」
応えて副長は振り返って斜め背後へ視線を向け、艦長も釣られて振り返り、窓の外に見える弐号機が積まれた輸送艦を忌々し気に睨み付けた。


「なんで、あんたがここにいるのよっ!!」
分けて乗れば良いのに2人乗りのエレベーターを総勢6人で乗り込むお馬鹿な葛城御一行。
「彼女の随伴でね。ドイツから出張さ」
「迂闊だったわ・・・。十分、考えられる事態だったのに」
必然的にエレベーター内はミサトと加持が会話するだけでお互いの体が触れ合ってしまうギュ~ギュ~のスシ詰め状態。
「・・・は、離れなさいよ」
「仕方がないだろ?狭いんだから・・・。それより、大きな声を出すとみんなにバレるよ?」
身動きの取れないアスカは何やら顔を紅く染め、向かい合うシンジにか細い声で抗議するが、シンジはアスカの耳元で囁いてクスリと笑うだけ。
「つれないなぁ~~・・・。久々の再会じゃないか、もっと嬉しそうにしろよ」
「だぁ~~れがあんたとの再会なんか・・・。んっ!?アスカ、どうしたの?具合でも悪いの?」
馴れ馴れしく話しかけてくる加持へ吐き捨てる途中、ミサトはアスカの異変に気付いて不思議そうに尋ねる。
「な、何でも・・・な・・・い・・・。んっ!?」
「・・・・・・っ!?シンジ君、何やってるのっ!!?」
応えてアスカは苦し気に顎を反らし、ミサトはますます不思議に思うが、アスカと向かい合うのがシンジと知るなり、シンジを強引に引き寄せた。
「おっと・・・。」
「「のわっ!?」」
その結果、エレベーター内でシェイクが起こり、シンジはミサトの元へ、ケンスケはトウジがいた位置へ、トウジはシンジがいた位置へと移動。
「はぁぁ~~~・・・。ちょっとっ!!くっつかないでよっ!!!」
「す、すんまへん」
ファーストコンタクトの失敗で苦手意識を持つシンジが離れ、アスカが胸をホッと撫で下ろすも束の間。
「・・・って、嫌ぁぁ~~~っ!!お腹に変なのが当たってるぅぅぅ~~~~っ!!!」
「「のわぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!!」」
下腹部に全くの謎の感触を感じて顔を真っ赤に染め、アスカはトウジを思いっ切り突き飛ばし、その余波を喰らってケンスケも吹き飛ばされる。
余談だが、トウジはヒカリに愛想を尽かされて以来、女の子と触れ合う機会は皆無と言って良いほど等しくなった。
夏休み中もケンスケに誘われて海へ何度も出かけ、ケンスケと共に嫌々ながらもナンパをするが、声をかけた時点でことごとく轟沈したトウジ。
そんなトウジがアイドル顔負けの美少女であるアスカに密着して、若さを暴走させるなと言うのは酷な話。
もっとも、この余談自体が全くの謎であり、強いた説明の必要があるのかさえも解らない。
「キャァァ~~~っ!!」
            「「のわぁぁ~~~っ!!」」
「キャァァ~~~っ!!」
            「「のわぁぁ~~~っ!!」」
「キャァァ~~~っ!!」
            「「のわぁぁ~~~っ!!」」
だが、先に説明した通り、ここは狭いエレベーター内、すぐに壁へ叩きつけられたケンスケは反動で戻り、トウジがアスカの元へ逆戻り。
「キャァァ~~~っ!!」
            「「のわぁぁ~~~っ!!」」
「キャァァ~~~っ!!」
            「「のわぁぁ~~~っ!!」」
「キャァァ~~~っ!!」
            「「のわぁぁ~~~っ!!」」
当然、アスカは再び戻ってきたトウジを悲鳴をあげて突き飛ばすを繰り返し、何とも間抜けな悪循環を繰り返す3人。
「お、おい、お前等っ!!せ、狭いんだから騒ぐなってっ!!!」
チィィ~~~ン♪
加持がてんやわんやの大騒ぎにたまらず非難の声をあげると、タイミング良くエレベーターが到着のチャイムを鳴らした。
ちなみに、加持とミサトはエレベーター後部にいる為、シンジはミサトに抱きしめられている為、大騒ぎの3人の被害を余りこうむっていない。
ウィィーーーン・・・。ドサドサドサッ!!
「「「むきゅぅぅ~~~・・・。」」」
そして、扉が開いた途端、エレベーター前部にいる3人はケンスケ、トウジ、アスカの順で外へ吐き出され、俯せに折り重なって倒れていった。
その際、アスカのスカートが豪快に背中まで捲れ上がり、アスカは何故かショーツを半分ほど下ろした状態の白い半尻をご披露。
「だ、大丈夫か?・・・ア、アスカ?」
何故に半尻なのだろうと疑問に思いながらも、このままにしておくのは不憫だと思い、加持がアスカのスカートの裾を直してあげた次の瞬間。
「んはっ!!ダ、ダメ・・・。そ、そんな所・・・・・・。」
「・・・な、何、やってるんだ?か、葛城・・・・・・。」
背後で色っぽいミサトの悲鳴が聞こえ、加持が錆び付いたブリキのオモチャの様に首をギギギッと断続的にゆっくりと振り向かせた。
「えっ!?あっ!!?・・・シ、シンジ君、着いたわよっ!!!!」
ドンッ!!
加持のその声で我に帰り、シンジを胸にギュッと力強く抱きしめていたミサトは、慌ててシンジを突き飛ばし離す。
「やあ、アスカ。ただいま・・・。僕達、やっぱり縁があるみたいだね」
「キァァァァァ~~~~~~っ!!Hっ!!!バカっ!!!!変態ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!」
アスカの上へ倒れたシンジがアスカの首筋へ吐息を吹きかけると、アスカは鳥肌を立てて勢い良く身を起こし、その場から一目散に逃げて行った。


同時刻、紅い光点を表面に幾つも輝かす巨大な生物が、シンジ達のいるオーバー・ザ・レインボーを目指して太平洋深海を突き進んでいた。


『第三小隊は予定通りに発艦。到着第七小隊は第七デッキに上がって下さい』
一仕事も終え、交流を深める意味で忙しなく艦内放送が流れる士官食堂でお茶を楽しむ葛城御一行。
テーブルの左側には手前から加持、アスカ、ケンスケが座り、右側には手前からミサト、シンジ、トウジが座っている。
「今・・・。つき合っている奴いるの?」「君・・・。どんなタイプが好き?」
「・・・それが、あなたに関係ある訳?」「・・・あんたじゃない事は確かね」
そして、テーブルの下では加持がミサトへ、シンジがアスカへ足によるちょっかいを出して激しい攻防戦が行われていた。
「「あれ?つれないなぁ~~」」
「「ふんっ!!」」
加持とシンジはコーヒーを口に含みながらお互いの相手へ熱い流し目を送るが、ミサトとアスカは腕を組んで明らかに不機嫌顔。
「そう言えば・・・。君は葛城と同居しているんだって?」
「ええ、そうですけど」
「彼女の寝相の悪さ・・・。直ってる?」
ならばと加持が話の矛先をシンジへと向け、いきなり爆弾を投下した途端。
「「「ええぇぇぇぇぇ~~~~~~っ!!」」」
その言葉の意味を理解したアスカとトウジとケンスケが、左腕を胸の前で折って、右手を掲げて頭の上で折る不思議なポーズで驚きを揃って表現。
「な、な、な、な、な・・・。な、何、言ってるのよっ!!」
バンッ!!
ミサトは体を仰け反らせて絶句した後、顔を紅く染めて体を一気に引き戻しながら、机を叩いて怒鳴り立ち上がった。
「相変わらずか?碇シンジ君」
加持はミサトの反応にニンマリと笑って視線をシンジへ改めて向け、ミサトが目をハッと見開かせて首をゆっくりと恐る恐るシンジの方へ向ける。
「そうですね。でも、そうならない様に縛っていますから大丈夫ですよ」
「・・・はっ!?縛って?」
応えてシンジは澄まし顔で香りを楽しんでコーヒーを口に含むが、シンジの応えが意味不明で解らず、加持が怪訝そうに首を傾げた次の瞬間。
「シ、シンジ様っ!?」
「何ですか?・・・ミ・サ・ト・さ・ん」
顔を真っ赤に染めたミサトが先ほど以上の大声で叫び、シンジはクスクスと笑いながら横目だけを向けて殊更ミサトの名前を強調して呼んだ。
「えっ!?あっ!!?な、何でもないわ・・・。え、ええ、何でもないの・・・・・・。」
すぐさまミサトはこの場が何処かを理解すると、真っ赤っかに染めた顔を俯かせ、恥ずかしそうに体を目一杯に縮めて席へ沈んで行く。
「んっ!?・・・・・・っ!!?な、なにぃぃぃぃぃ~~~~~~っ!!!?」
その恋する乙女の様な仕草をますます怪訝に思うが、今の会話からシンジとミサトの関係を推察するや否や、加持も不思議なポーズで驚きを表現。
どうやら、ドイツ育ちのアスカと数年間ドイツにいた加持が、この不思議なポーズを知っている事から世界的に流行っているポーズらしい。
「ところで・・・。どうして、僕の名前を知っているんですか?」
「そ、そりゃ知っているさ。な、何の訓練もなしにエヴァを実戦で動かしたサードチルドレン・・・。こ、この世界じゃ君は有名だからね。」
だが、シンジは加持に驚く暇など与えず問い返し、加持が何とか精神を再構成させながら不思議なポーズを解いて応える。
「フフ、偶然ですよ。偶然・・・。
 僕が第三へ来た日に使徒が現れたのも、訓練なしに初号機が起動したのも、使徒に難なく勝てたのも・・・。そう、全ては偶然ですよ」
するとシンジはニヤリと笑って値踏みする様な視線を加持へ向け、アスカはシンジの言い草が気に入らず、無言でシンジを鋭く睨み付けた。
「偶然も運命の一部さ。才能なんだよ、君の・・・。」
しかし、アスカとは違った意味でシンジの言葉を受け取った加持は、眉をピクリと跳ねさせて目を細め、お返しに同様の視線をシンジへ向ける。
「運命の一部ですか・・・。なら、それは偶然ではなく必然ですね」
「・・・そうとも言えるな。じゃ、また後で・・・・・・。」
シンジはますます歪んだ口を手で覆い隠して目だけを笑わせ、加持はシンジの瞳の奥に底知れぬ物を感じながら逃げる様に席を立ち上がった。


(性格は内気で控えめ。人見知りが激しく非社交的か・・・。本部のデーターも当てに出来ないな・・・・・・。)
艦外のタラップの柵に体をもたれ、煙草の煙を潮風に流しながら何処か遠い目で海の彼方を見つめ、何やら黄昏ている加持。
(か、葛城ぃぃ~~~っ!!う、嘘だよなぁぁぁ~~~~っ!!!
 う、嘘だと言ってくれぇぇ~~~っ!!そ、そうでないと俺はっ!!!俺はっ!!!!俺はっ!!!!!俺は何の為にっ!!!!!!)
その心中は知ってしまったシンジとミサトの関係で渦巻き、煙草の煙が目に滲みるのか、加持は先ほどから止めどなく涙をルルルーと流していた。
実を言うと、ミサトと加持は同じ大学に通い、大学時代を共に過ごした2人の関係は恋人。
そして、ミサトからの一方的な別れ話によって、2人は大学卒業後に他人と言う関係になり、それぞれの道を別々に歩んで行く。
その別れた道は決して交わる事はなく7年間の月日が流れたのだが、加持の心には常にずっとミサトが住み着いていた。
だからと言って、座右の銘に『それはそれ、これはこれ』を持ち、シンジの師匠である加持。
今回ドイツを旅立つ際に置いてきた恋人的な関係の女性は、両手と両足の指では足りないくらいの人数が密かに存在していたりする。
一方、ミサトもつい最近までは加持の事が忘れられないでいたのだが、シンジの出現で加持の事は先ほど再会するまですっかりと忘れていた。
「わっ♪」
「・・・んっ!?なんだ、アスカか?」
突然、アスカが不意を突いて背後へ抱きつき、加持が鼻を啜って涙を止め、覇気のない顔を振り向かせる。
「もうっ!!何だとは何よぉ~~っ!!!」
艦内を散々探し回ったのにも関わらず、加持につれない言葉を返され、アスカは加持の背中で不機嫌そうに頬をプクゥ~~ッと膨らませた。
「すまん、すまん・・・。それより、どうだ?碇シンジ君は?」
「変態よっ!!変態っ!!!あんなのが選ばれたサードチルドレンだなんて幻滅っ!!!!」
加持がやれやれと苦笑しながらシンジの第一印象を求めると、アスカは明らかに別種の不機嫌顔になってシンジの第一印象を吐き捨てる。
「しかし、いきなりの実戦で彼はシンクロ率100%をマークしているぞ?」
「う、嘘っ!?」
しかし、加持がチルドレンにも極秘扱いになっている情報を教えた途端、アスカは加持から離れて驚愕に目を最大に見開いた。
「本当さ。俺がアスカに嘘を言った事があるか・・・って、何処へ行くんだ?アスカ」
「加持さん、ごめんっ!!ちょっと用事を思い出したのっ!!!」
そうかと思ったら、アスカは驚愕顔を怒り顔に変えて加持へ背を向け、加持はアスカの反応に上手くいったとほくそ笑む。
(すまん。アスカ・・・。今は・・・。今だけは1人にさせてくれ・・・。うっ・・・。うっうっうっ・・・・・・。
 葛城ぃぃぃぃぃ~~~~~~っ!!カンバぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ックっ!!!)
アスカが居なくなると、加持は再び止めどなく涙をルルルーと流し、両掌をメガホンにして声には出さず、大海原に向かって魂の咆哮をあげた。


「おおう、Yak-38っ!!凄いっ!!!凄いっ!!!!凄ぉぉ~~~いっ!!!!!
 いや、尾翼が違うっ!!ジェネレーターもコンパクトっ!!!おまけにお肌もスっベスベぇぇ~~~っ!!!!」
嫌がるトウジを連れ立って甲板へ見学にきたケンスケは、居並ぶ戦闘機の数々に大興奮し、戦闘機に抱きついて頬ずりする有り様。
(・・・一生、やっとれ。
 んっ!?・・・間違いあらへん。あれは・・・。うっしっしっしっしっしっしっしっしっしっ・・・・・・。)
その様子を呆れた目で眺めた後、トウジは退屈そうに甲板上を見渡して有る物を見つけると、そこに視線を固定してニヤリと口の端を歪めた。
「おい、ケンスケ・・・。ケンスケ・・・。ケンスケ・・・・・・。」
「ああっ!!この水平板に匠の技を感じるぅぅ~~~・・・って、何だよ。代わって欲しいのか?」
トウジはケンスケの元へ近寄って小声で呼びかけ、良いところを邪魔されたケンスケが不機嫌顔を振り向かせる。
「ちゃうわい。あれ、見てみ。あれ・・・。」
「・・・あれ?」
するとトウジは先ほど視線を固定した位置へ人差し指を向け、ケンスケが面倒臭そうにその指先へ視線を向けた。
「あれ・・・。シンジやろ?」
「・・・だろ?あんな目立つシャツを着こなす奴なんて、そうそう居ないだろうからな・・・。で、それがどうしたんだ?」
その数百メートルほど先にあるのは、ズボンのポケットに両手を入れて甲板縁に立ち、海の彼方を見つめているらしきシンジの後ろ姿。
「シンジの奴、泳げんかったよな?」
「ああ、シンジにしては意外だよな。体育の時、やけにプールへ入りたがろうとしなかったら・・・って、トウジっ!?お前、まさかっ!!?」
トウジの脈絡のない質問的な確認に応えながら、ケンスケはふと猛烈に嫌な予感を感じ、驚きに目を見開いた顔をトウジへ向けて尋ね返した。
「せや、チャンスやっ!!天佑やっ!!!蒼天、既に死すやっ!!!!今日こそ、殺れるっ!!!!!」
「や、止めろっ!!ト、トウジ、止めろっ!!!や、止めろってっ!!!!」
応えてトウジはニヤリと笑って頷き、嫌な予感が見事に的中したケンスケは、トウジを止めるべく慌ててタックルをかましてトウジの腰を掴む。
「うがぁぁ~~~っ!!アキを誑かし、イインチョを誑かしっ!!!その上、ミサトさんのちゅ~~を奪った不届き者めっ!!!!
 例え、天が許しても、このわしは許さへんっ!!ならば、これは天誅ではなく人誅っ!!!漢、鈴原トウジっ!!!!いざ、参るっ!!!!!」
「ト、トウジぃぃぃぃぃ~~~~~~っ!!か、帰って来ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~っいっ!!!」
だが、トウジは怒りの超パワーでケンスケを振り解くと、甲板に倒れて叫び手を伸ばすケンスケの制止も聞かず、シンジへ向かって駈け出した。


(この海は残酷だ・・・。アスカといるだけで、あの海を僕に思い出させる。
 でも、今度こそは誰もあの海へは連れて行かない・・・。そう、絶対にだ・・・・・・。)
水平線の彼方を見つめながら過去を思い起こし、シンジが胸の前に持ってきた右拳をギュッと握り締めて決意を新たにしたその時。
「サ、サードチルドレンっ!!」
「人誅ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
件のアスカから躊躇い上擦った呼び声がかかり、シンジが振り向いて横へ一歩下がると共に、トウジがシンジを突き飛ばすべく突っ込んで来た。
「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
ドッポォォォォォーーーーーーンッ!!
その結果、戦闘機が発着する空母の甲板縁に柵があるはずもなく、目標を見失ってしまったトウジは素晴らしい助走をつけて大海原へダイブ決行。
「ト、トウジぃぃぃぃぃ~~~~~~っ!!」
「のわっぷっ!!た、助けてくれぇぇ~~~っ!!!ヘ、ヘルプ・ミぃぃぃ~~~~っ!!!!」
トウジを止めようと追いかけてきたケンスケは、船が作る船波で後方へ流されて行くトウジをそのまま追って甲板後部へ猛ダッシュを駈ける。
「Ohっ!!HARAKIRIっ!!!BUSHIっ!!!」
「Noっ!!It’s Japnese NINJAっ!!!」
「Coolっ!!He is NINJA Magic Doingっ!!?」
「Yaaっ!!SUITON NO JYUTUっ!!!」
この前代未聞の事態に、甲板作業中の海兵隊も慌ててトウジを追って駈けて行き、ブリッチには緊急事態が伝えられて辺りに警報が鳴り響く。
ブーーー、ブーーー、ブーーーッ!!
「おやおや、これは大変だ・・・。あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!」
「あ、あたしのせいじゃないわよっ!!そ、そうよっ!!!あ、あんたが悪いのよっ!!!!」
シンジはその様子にお腹を抱えて笑い始め、アスカは予想外すぎる大事に顔面蒼白となり、冷や汗をダラダラと流しまくりながら茫然と固まった。


「へぇぇ~~~、赤いんだ。弐号機って・・・。」
「違うのはカラーリングだけじゃないわっ!!」
オーバー・ザ・レインボーの騒ぎから逃げ出す様にやって来た弐号機を積む輸送艦。
その後、トウジは後続の巡洋艦に拾われ、今はオーバー・ザ・レインボーへ戻って、ミサトから大目玉を喰らっている最中なのは言うまでもない。
「所詮、零号機と初号機は開発過程のプロトタイプとテストタイプ。
 訓練なしのあなたなんかに、いきなりシンクロするのがその良い証拠よっ!!
 だけど、この弐号機は違うわっ!!これこそ、実戦用に造られた世界初の本物のエヴァンゲリオンなのよっ!!!制式タイプのねっ!!!!」
LCLに俯せで横たわる弐号機のエントリープラグ挿入口、つまり一番高い場所に立ち、アスカは身振り手振りを交えて弐号機の凄さを大演説。
一方、シンジはズボンのポケットへ両手を入れて、ドラム缶で作られた弐号機への橋桁の上に立ち、高みに立つアスカを見上げていた。
「制式タイプねぇぇ~~~・・・。」
「なによっ!?本当の事でしょっ!!?」
シンジは上半身をやや屈めて目の前にある弐号機の顔をジロジロと眺め始め、アスカがその馬鹿にした様な態度に苛立って怒鳴り声をあげる。
「制式タイプって・・・。量産型と言う意味だろ?
 ・・・と言う事はだよ?テスト・タイプにあった色々な我を抑えて取り除き、コストパフォーマンスを下げたって事でしょ?
 言い換えれば、制式タイプは有る意味で誰にでも動かせるが、テストタイプは乗り手を選ぶ・・・。つまり、そう言う事じゃないかな?」
「う゛っ・・・。そ、そんな事ないわよっ!!」
だが、シンジから返ってきたもっともな意見についつい納得しそうになって言葉詰まり、アスカは誤魔化す様に尚も怒鳴り返す。
なにせ、シンジが初起動させるまで、初号機はゼロが9つも列ぶO9システムと言われる奇跡の起動率だっただけに説得力がかなりあった。
「それにさ・・・。」
「なによっ!?」
「これ、色は赤いのに角がないじゃないか?」
「・・・はぁ?」
するとシンジは右手だけをポケットから出して弐号機の額を指さし、アスカはシンジの指摘の意味が全く解らず、怪訝顔で思わず茫然と目が点。
「それに比べて、僕の初号機には角があるし・・・。うんうん、いかにも指揮官機って感じだよね」
「あんた、馬鹿っ!!角があるからって、どうして指揮官機なのよっ!!?」
「あれ、知らないの?初号機の角には広範囲の索敵機能と通信機能が備わっているんだよ?」
「そ、そんなの・・・。弐号機だって、どっかに付いているわよっ!!」
それでも、シンジから何となく馬鹿にされている感じだけは解り、アスカは対抗して弐号機にも初号機と同スペックがある事を願って主張する。
余談だが、後日アスカはリツコへ弐号機にも角を付けろと頼み込むが、リツコに二つ返事で断られた上、深い溜息をつかれて馬鹿にされた。
「あとさ・・・。」
「なによっ!?まだあるってぇ~~のっ!!?」
ならばとシンジは尚も言葉を続け、アスカが今度はどんなケチを付ける気だと怒鳴り尋ねる。
「いつの間にパンツを履き替えたの?・・・と言うか、どうして履き替える必要があったのかな?」
「キャっ!?ど、何処、見てるのよっ!!!ス、スケベっ!!!!」
応えてシンジは再びアスカを見上げてクスリと笑い、2人の位置関係から丸見えになっているアスカの履いている赤いショーツを指摘した。
ちなみに、アスカがショーツを履き替えた理由は全くの謎だが、履き替えたタイミングはエレベーターから降りた後だと一応明記しておく。
「何を言うんだい。さっきから見せていたのは君の方じゃないか・・・。フフ、君には赤が良く似合うね」
「う、うっさいっ!!」
シンジの指摘に今までずっとパンツ丸見え状態だったと知り、アスカが顔を紅く染めて内股になり、スカートの上から股間を押さえたその時。
ドォォーーーンッ!!
「えっ!?あっ!!?キャァァァァァ~~~~~~っ!!!!」
遠くで爆発音が聞こえたかと思ったら、輸送艦が衝撃に揺さぶられ、変な体勢だったアスカがバランスを崩して弐号機から落っこちる。
「ァァァァァ~~~~~~・・・・・・。あ、あれ?」
「危なかったね・・・。怪我はなかったかい?」
訓練の賜物なのか、即座にアスカは受け身の体勢を取るが、思ったより軽い衝撃に怖ず怖ずと目を開けると、目の前にシンジの微笑みがあった。
「う、うん、ありがと・・・って、ちょっとっ!!どさくさに紛れて何処を触ってんのよっ!!!」
アスカはその微笑みに思わず胸をドキッと高鳴らせるが、己を抱き上げているシンジの左手が胸へ触れている事に気付いて怒鳴り声をあげる。
「フフ、不可抗力と言う奴さ・・・。それにこれくらいの役得はあってしかるべきだよ」
「キァァァァァ~~~~~~っ!!Hっ!!!バカっ!!!!変態っ!!!!!下ろせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~~っ!!!!!!」
しかし、シンジは手を離すどころか、胸をモミモミと揉み始め、アスカはシンジの頭をポカポカと殴りながら必死に両脚を上下にバタつかせた。
「いやぁ~~、君は本当に元気だねぇぇ~~~」
「キャァァ~~~っ!!キャァァァ~~~~っ!!!キャァァァァ~~~~~っ!!!!」
ドォォォォォーーーーーーンッ!!
「おわっ!?」
アスカの攻撃を余裕の笑顔で耐えていたが、先ほどよりも大きな衝撃が襲って輸送艦が揺れ、さすがのシンジもバランスを崩して後ろへ倒れる。
「水中衝撃波っ!?」
タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッ!!
その際、シンジの力が一瞬だけ緩み、アスカはその隙を突いて身を起こすと、何が起こっているのかを確認するべく素早く外へ駈けて行く。
「やれやれ・・・。相変わらず、せっかちさんだね。アスカは・・・・・・。」
シンジもズボンの埃を払いながら身を起こし、再び両手をズボンのポケットに入れ、アスカの後を追って悠々と外へ歩き向かった。


ドォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーンッ!!
アスカが甲板上へ上がると同時に、百数十メートルほど前方にいた駆逐艦が爆発炎上。
「あれはっ!?」
ザパンッ!!ザパンッ!!!ザパンッ!!!!ザパァァーーーンッ!!!!!
そして、その側に艦隊が作る船波とは別の大きな掻き波が海面にはっきりと現れ、アスカは思わず甲板縁の手摺りから身を乗り出して目を凝らす。
「やあ・・・。どうやら、使徒の様だね」
「あれがっ!?・・・本物のっ!!?」
すると背後から全く緊張感のないシンジの暢気な声が聞こえ、アスカが掻き波の正体を知って驚きに目を見開く。
その全長は600メートル強にも及び、細長いエイを思わす様な体躯を持つ第六使徒『ガギエル』である。
「さて、どうしよっか?ミサトさんの所へ戻る?」
(・・・チャぁぁ~~~ンス)
だがそれも束の間、アスカはシンジの提案に可愛い顔を台無しにしてニヤリと笑う。
(まっ・・・。アスカの考えている事は解っているけどね)
ドォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーンッ!!
その背後でも、シンジがアスカの背中を見つめてニヤリと笑い、前方では使徒の体当たりを受けて新たに巡洋艦が爆発炎上を起こしていた。



感想はこちらAnneまで、、、。

0 件のコメント:

コメントを投稿