真世紀エヴァンゲリオン Menthol Lesson3 transform -6






Truth Genesis
EVANGELION
M      L 
Lesson:3

transform





『目標を光学で補足。領海内に侵入しました』
「総員、第一種戦闘配置」
発令所へ使徒襲来の報が届くや否や、発令所最上段の司令席に立つ冬月より戦闘態勢が発令される。
ちなみに、現在ゲンドウはドイツへ出張の為、今は冬月がネルフ本部における最高責任者。
「了解。対空迎撃戦用意」
「第三新東京市、戦闘形態に移行します」
『中央ブロック収容開始』
それを受けて作戦部長であるミサトから指示が出されて日向を通り、発令所最下段のオペレーター席に座る作戦部の面々へ命令が伝わってゆく。
『中央ブロック、及び第1管区から第7管区までの収容完了』
『政府及び関係各省への通達終了』
『現在、対空迎撃システムの稼働率48%』
同時に第三新東京市中央部のビル群が次々と地下へ沈み、代わって兵装ビルが浮かび上がり、次期首都の街並みから要塞都市の姿へと変貌させる。
「非戦闘員、民間人の避難は?」
「既に待避完了との報告が入っています」
迎撃完了を知らせる報告が届く中、腕を組んで立つミサトが青葉へ視線だけを向けると、青葉は現在の作業をこなしながら振り向かず応えた。


『小中学生は各クラス、住民の方々は各ブロック毎にお集まり下さい』
第三新東京市に幾つもある避難所の1つ『第334地下避難所』、ここにはシンジのクラスメイト達が避難をしていた。
だが、これから地上では激しい戦闘が繰り広げられると言うのに、誰もがお喋りをして和気藹々としており、緊迫した雰囲気は全く見られない。
「まただっ!!」
ビデオカメラのアンテナを伸ばし、TVとしてレンズを覗き食い入るように見ていたケンスケが、レンズから目を離して吐き捨てた。
そのレンズの向こう側に映っているのは、美しい日本アルプスの静止風景をバックにした政府発表によるメッセージの文字のみ。
「なんや・・・。また文字なんか?」
ケンスケの隣に座り、己のギプスをはめた右腕を不思議そうに見ていたトウジは、ケンスケへ興味なさ気に覇気のない声で相づちを打つ。
ちなみに、あの後でアキより『お兄ちゃんなんて、大嫌いっ!!絶交なんだからっ!!!』宣言を受け、トウジは落ちに落ち込んでいた。
それと同時に、未だコンクリートを打ち破った己の腕力が信じ切れず、先ほどからずっと右腕を見つめては何度も何度も首を傾げていたりもする。
「報道管制って奴だよ。僕ら民間人には見せてくれないんだ・・・。こんなビックイベントだって言うのに」
「ほぉ~~・・・。さよけ」
それでもケンスケは同意を求めようとトウジへビデオカメラを差し出すが、やはりトウジは右腕をボケェ~ッと見つめているだけだった。


「碇司令の居ぬ間に第4の使徒襲来。・・・意外と早かったわね」
「前は15年のブランク。今回はたったの2週間ですからね」
「こっちの都合はお構いなしか・・・。女性に嫌われるタイプね」
発令所モニターに映る紫色したイカの様な第四使徒『シャムシェル』を見ながら、日向とミサトが何処か他人事の様にボヤいた。
『戦自航空隊の攻撃効果なし』
『自走砲車両隊の撤退を確認』
それもそのはず、今のところの戦闘指揮権は戦自にあり、まだネルフへの戦闘権限が移っていないからである。
「税金の無駄使いだな・・・。」
だが、それも時間の問題で、使徒に対する現代兵器による攻撃にはまるで効果がなく、冬月がその様に半ば呆れながら馬鹿にした口調で呟いた。
「委員会から、再びエヴァンゲリオンの出動要請が来ています」
「うるさい奴らね。言われなくても出撃させるわよ」
青葉の報告に、ミサトは顔だけ向けてやれやれと溜息混じりに応えながらも、やっと自分の出番かと乾いた唇を舌で舐める。
「しかし、まだサードが到着していません」
「な゛っ!?・・・保安部は何をやってるのよっ!!?もう命令が出てから何分が経っていると思っているのっ!!!?」
しかし、その直後に信じられない報告が青葉から届き、ミサトは驚愕に目を見開き、今度は体も向けて青葉へ怒鳴りまくり。
「そ、それが・・・。サ、サードが逃げているそうです。ファ、ファーストと一緒に・・・。あ、愛の逃避行とか叫んで・・・・・・。」
「何よ、それぇぇ~~~っ!!あのガキ、この一大事になに考えてんのよぉぉぉ~~~~っ!!!」
「い、いや、自分にもサッパリ何が何だか解らないっスぅぅ~~~っ!!」
更にミサトは訳の解らない報告する青葉の襟首を掴んで前後にガクガクと揺すり、青葉は目を回して悲鳴をあげる。
「か、葛城さんっ!!あ、あれ、見て下さいよっ!!!」
「あによっ!!」
ガゴッ!!
「ぶべらっ!!」
親友の危機を悟り、日向がミサトを呼ぶと、ミサトは憤怒の表情で振り返って青葉を打ち捨て、青葉はコンソールに頭を強かにぶつけて沈黙。
「・・・な、何か、あの使徒ってイカに似てません?」
ミサトの仕打ちに大粒の汗をタラ~リと流し、日向は親友を助けた代償は大きかったかもと後悔しながら、使徒を指さして怖ず怖ず告げる。
「ぷっ!!・・・た、確かに似てるわね。イ、イカに・・・。」
「でしょ?イカに良く似てますよね」
するとミサトはこれから戦う恐ろしい相手をイカと称した日向の言葉がおかしくて吹き出し、日向は機嫌を取り戻したミサトにホッと一安心。
「・・・って、イカ?イカ、イカ、イカ、タコ、タコ、タコ、タコ、タコ、タコ・・・。」
「タコがどうかしたんですか?葛城さん」
それも束の間、不意にミサトは瞳を虚ろにさせて何やらブツブツと呟き始め、不思議に思った日向が尋ねた次の瞬間。
「嫌ぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!!タコは嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!」
バキッ!!
「ぶべらっ!!」
突如、ミサトの黄金の右が日向の鼻っ面を襲い、その勢いに日向は椅子から崩れ落ち、鼻血をダラダラと流しながら床へ轟沈。
「先輩・・・。葛城さん、どうしたんでしょう?」
「さあ、どうしたのかしらね?」
いきなりご乱心したミサトを不思議そうに首を傾げ、マヤがリツコへ尋ねると、リツコはコーヒーを飲みながら我関与せずと言った感じに応える。
(どうしたと言うのだ?葛城一尉は・・・。タコを食べて腹でも壊したトラウマでもあるのか?)
その光景はもちろん司令席からも見えていたが、冬月は仕事の和を乱しているミサトを怒ろうともせず、かなり場違いな事を考えていた。
(ふむ、タコと言ったら刺身だな・・・。今晩はそれをつまみに・・・って、はっ!?ま、まさかっ!!?)
更に今晩の晩酌にタコの刺身をと考えていた冬月だったが、不意に今晩の晩酌を思い描いて緩んでいた眉がピクリと跳ねる。
(さ、最近、良く届くこの怪文書は葛城一尉が・・・。ば、馬鹿なっ!!い、碇でさえも気付かず、10年間も隠し通してきたんだぞっ!!!)
そして、冬月は右手で懐から『お前の秘密を知っている』と書かれた紙を取り出し、震える左手で頭を必死に押さえ、驚愕に目を最大に見開く。
「タコは嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
(ま、間違いない。あ、あれは無視し続けた私へのアピールなのだな。タ、タコ頭と言う・・・。
 お、おのれ、人の弱みにつけ込むとは見下げ・・・・・・。い、いや、今のは失言だっ!!か、葛城一尉、何が望みなんだっ!!?)
1階下で未だ叫び声をあげ続けるミサトへ視線を向け、何やら勝手に被害妄想を働かせた冬月も心の中で魂の咆哮をあげていた。


ドゴォォーーーン・・・。
地上の戦闘の激しさはシェルターへ揺れとなって伝わり、さすがに避難している者達の口数は少なくなったが、雰囲気は変わっていない。
「なあ、ちょっと2人で話があるんだけど」
「・・・なんや?」
ふと天井を見上げていたケンスケがトウジの肩を揺すって呼び、右腕をぼんやりと見つめていたトウジがケンスケへ顔を向ける。
「ちょっと・・・。なっ?」
「しゃあないのぉ~~・・・。イインチョっ!!」
何やら言い辛そうに言うケンスケの態度を悟り、トウジは溜息をつくと、少し離れた位置に座っているヒカリへ大声で呼びかけた。
「・・・なに?」
「わし等、2人で便所や」
「も、もうっ!!ちゃ、ちゃんと済ませておきなさいよっ!!!」
友達との談笑を中断させられたヒカリは、不機嫌そうに振り向くが、トウジから告げられた内容に、顔を紅く染めてますます不機嫌そうに怒鳴る。
「・・・な、なんやねん。そ、そない怒らんでもええやないか・・・。な、なあ、ケンスケ」
「はぁ~~・・・。全く、トウジときたらお子様だねぇぇ~~~。俺、委員長に同情しちゃうよ」
トウジはヒカリの剣幕に文句を言うが、腰が引けている上に小声でボソボソと呟き、同意を求められたケンスケは深い深ぁ~~い溜息をついた。


「・・・で、なんや?」
「死ぬまでに1度だけでも見ておきたいんだよ」
「上のドンパチをか?」
ケンスケを先導に予定通り目的地だったはずのトイレを通り過ぎ、トウジが話しかけると予想通りの応えが返ってきた。
「今度、いつまた敵が来てくれるかどうかも解らないしね」
「ケンスケ・・・。お前なぁ~~」
戦場へ向かうと言うのにピクニックでも行くかの様なケンスケの軽い口調に、トウジが呆れて立ち止まる。
「この時を逃しては、あるいは永久にっ!!・・・なっ!!?頼むよ。ロック、外すのを手伝ってくれよ」
「上に出たら死んでまうで?」
するとケンスケは勢い良く回れ右をして敬礼しながら軍隊口調で言った後、ここまで付いて来ていながら渋るトウジへ掌を合わせて拝み倒す。
「ここに居たって解らないよ。どうせ死ぬなら見てからが良い」
「アホ・・・。何の為にネルフがおるんじゃ。わしは帰るで・・・。」
「そのネルフの決戦兵器って何だよ?あの転校生のロボットだよ。この前もあいつが俺達を守ったんだ。それをあんな大怪我を負わせて・・・。」
「う゛っ!?」
しかし、トウジは溜息混じりに応え、踵を返して元いたシェルターへ戻ろうとするが、背中へかかったケンスケの言葉に歩みを止める。
「もし、あいつがあの怪我でロボットに乗れなかったら、俺達は確実に死ぬぞ?
 俺はトウジが何に怒っているのかは知らないし、話したくないなら無理には聞かない。
 でも、これだけは解るぞ・・・。トウジにはあいつの戦いを見守る義務があるんじゃないかな?それが男ってものだと俺は思うぞ?」
「・・・せ、せやな」
すかさずケンスケは意味不明な義務を持ち出し、シンジを怪我させてしまった事に罪悪感を感じていたトウジは、躊躇いがちに曲がれ右をした。


「全くっ!!あんた、なに考えてるのよっ!!!ちゃんと真面目に戦う気あるのっ!!!!」
『やだなぁ~~・・・。焼き餅ですか?ミサトさん』
「な゛っ!?」
ようやく初号機に搭乗したシンジへ猛烈な勢いで怒鳴りまくるミサトだったが、シンジにクスリと笑われて絶句してしまう。
ちなみに、シンジはエヴァのパイロット服であるシンジ専用の青いプラグスーツを着ていた。
補足だが、シンジはただ単にレイを抱き抱えたかっただけであり、ちょっと遠回りしたがネルフ本部へしっかりと向かっていたのである。
「良くって?敵のATフィールドを中和しつつ、パレットの一斉射。練習通り、大丈夫ね?」
『ええ、任せて下さいよ』
するとリツコはミサトを横に退けて指示を出し、シンジは自信満々の表情で親指をニュッと立てて突き出した。
しかも、どういう原理かは解らないが、微笑むシンジの口元から覗いた白い歯がキラリーンと輝く。
『今日の勝利・・・。マヤさんに捧げます』
「や、やだっ!!シ、シンジ君ったらっ!!!」
しかし、シンジが親指を突き出した先はリツコではなくマヤであり、マヤは紅く染まった頬を両手で押さえて俯いた。
「日向君・・・。良いから、さっさと打ち出しなさい」
「えっ!?で、でも・・・。」
リツコがこめかみに人差し指を置いて溜息混じりに日向へ指示を出すが、その権限を持たない日向は救いを求めてミサトへ視線を向ける。
余談だが、既に日向は鼻にテッシュを詰めて復活しており、青葉も額に湿布を付けて復活していた。
「そ、そんな事ない・・・。そ、そんな事ない・・・。そ、そんな事ない・・・。」
「この通り、ミサトは当分戻ってこないわ。だから、現時点でミサトの副官であるあなたの仕事よ」
「そ、それもそうですね。そ、それじゃあ・・・。発進っ!!」
だが、ミサトは虚ろな瞳で涙をルルルーと流して虚空を見つめて逝っちゃっており、リツコの指摘に顔を引きつらせて頷き、日向が号令を出す。
『うわっ!!ちょっとっ!!!ちょっとっ!!!!また、いきなりですかっ!!!!!』
突然、凄まじいスピードで射出口固定台ごと初号機は地上に打ち上げられ、強烈なGに耐えながらシンジが悲鳴をあげる。
(フフ、偶然は2度も続かないわよ・・・。)
リツコはその悲鳴を愉快そうにニヤリと笑い、シンジに向かって心の中で呪詛を呟いた。


「凄いっ!!これぞ、苦労の甲斐もあったというものっ!!!」
ケンスケはビデオカメラを回しながら、街中まで侵攻してきた使徒が直立体勢になって戦闘形態へ変わる様子に大興奮。
「・・・な、なんや、あれ?」
その隣ではトウジが使徒の姿に唖然と大口を開けて固まっている。
トウジとケンスケはシェルターからの脱出に見事成功し、シェルター上にあった見晴らしの良い神社の境内へ来ていた。
ブーーー、ブーーー、ブーーー、ブーーーッ!!
「おっ!?待ってましたっ!!!」
突然、街中に警報が鳴り響き、ケンスケはすかさず警報の鳴る方へカメラを向ける。
ウィィーーーン・・・。ガッシャンッ!!
「出たっ!!」
「あれが転校生のロボットかいな」
すると使徒の死角の位置にあるビルのシャッターが開き、初号機がビルの中から現れた。


「ATフィールド展開っ!!」
ギュィンッ!!
シンジの気合い一発と共に、初号機前方の空間に歪みが一瞬だけ生じ、薄いオレンジ色の壁が出来る。
『シンジ君、良いかいっ!?作戦通り頼むよっ!!!』
「了解っ!!」
どうして作戦指揮を日向が執っているんだろうと思いつつ、シンジが威勢の良い返事を返すと共に、初号機がビルの影から飛び出す。
「目標をセンターに入れて、スイッチっ!!」
ガガガガガガガガガガッ!!
劣化ウラニウムを弾装とするマシガンライフル『パレットガン』が火を噴き、路地を3つ挟んだ向こう側にいる使徒を狙う。
「ちっ!!」
ガガガガガガガガガガッ!!
だが、使徒はそれを予期してたかの様に、リツコが予想していたATフィールドより厚いATフィールドで防いでしまい、シンジが思わず舌打つ。
『まずいっ!!爆煙で敵が見えないっ!!!シンジ君、一旦は後退して間合いを取るんだっ!!!!』
ガガガガガガガガガガッ!!
しかも、劣化ウラニウムを弾装としている性能上、爆煙が巻き起こって使徒の姿が爆煙の中に消えてしまい、慌てて日向が後退の指示を出す。
「いいえ、条件は向こうも一緒っ!!突撃しますっ!!!」
『シンジ君っ!!止せっ!!!』
しかし、シンジは日向の指示を逆らい、パレットガンを投げ捨てて爆煙の中へ初号機を突撃させ、日向は驚愕に目を見開いて制止を叫ぶ。
(シャムシェルの武器は厄介だ・・・。でも、あいつには機動力がない。そう、これはチャンスなんだっ!!)
そのあまりにも無謀とも言えるシンジの行動ではあるが、実は誰よりも相手を知っているシンジなりの経験に裏付けられた物だった。


バシッ!!バシッ!!!バシッ!!!!
                  シュインッ!!シュインッ!!!
バシッ!!バシッ!!!バシッ!!!!
                  シュインッ!!シュインッ!!!
バシッ!!バシッ!!!バシッ!!!!
                  シュインッ!!シュインッ!!!
爆煙の中から絶え間なく聞こえてくる炸裂音と爆煙の中から時折現れる2本の光る鞭の様な物。
バシッ!!バシッ!!!バシッ!!!!
                  シュインッ!!シュインッ!!!
バシッ!!バシッ!!!バシッ!!!!
                  シュインッ!!シュインッ!!!
バシッ!!バシッ!!!バシッ!!!!
                  シュインッ!!シュインッ!!!
光の鞭は何処か無作為に振り回されていると言った感じが見受けられ、周囲に立ち並ぶビル群が次々と綺麗に切断されてゆく。
「な、なんやっ!?だ、大丈夫なんかっ!!?」
「大丈夫。あの鞭の様な武器はロボットが持っていなかった武器だから、多分は怪獣の方の武器って事だよ。
 なら、あの煙の中から聞こえてくる打撃音の方がロボットの攻撃の音だと思うから、転校生の方が有利なんじゃないのか?」
見えない戦いにトウジは不安がるが、ビデオカメラを回すケンスケはなかなか冷静に的確な分析をしていた。


バシッ!!バシッ!!!バシッ!!!!
「まただと言うの?・・・青葉君、熱感知であの爆煙の中を表示してっ!!」
「ダメですっ!!目標と近すぎて、どちらがどっちなのかが解りませんっ!!!」
前回の戦い同様に音はすれども姿は見えず、あまりに情報が不足している事に苛立つリツコが指示を出すが、青葉から情けない報告が返される。
バシッ!!バシッ!!!バシッ!!!!
「くっ・・・。今度は誤魔化されないわよ」
リツコが悔しそうに拳をギュッと握り締め、鋭い視線でモニターを睨んだその時。
ちなみに、前回の戦いで高すぎる戦闘力を見せた初号機について、リツコは何度も何度もシンジへ詰問した。
だが、シンジはのらりくらりと得意の話術でリツコの詰問を避け、リツコは全くと言って良いほどシンジから情報を引き出す事が出来なかった。
それどころか、シンジは自分がピンチとなるや否や全くの謎の口撃や行撃を行い、済し崩し的に何度も何度も誤魔化されてもいる。
『てやっ!!』
ドガッ!!
シンジの気合いがスピーカーを震わすと共に、爆煙上方から使徒が体を『く』の字に曲げて現れた。
『てやっ!!』
       ドガッ!!
『てやっ!!』
       ドガッ!!
『てやっ!!』
       ドガッ!!
続いて初号機も真上へ蹴りを放った天地逆の体勢で現れ、跳ねた勢いを殺さず、使徒が離れるのも許さず、使徒へ両脚で交互に蹴りを叩き込む。
『てやっ!!』
       ドガッ!!
『てやっ!!』
       ドガッ!!
『てやっ!!』
       ドガッ!!
初号機は跳躍限界頂点に達する寸前、強烈な一撃を放って使徒を高度数千メートルへ叩き上げ、己は華麗にムーンサルトしながら大地へ着地。
『はぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!!』
バチバチバチバチバチッ!!
そして、シンジが長い気合いを吐き出すと、初号機は前方へ両掌を突き出して手首を合わせ、両掌の前の空間に幾本もの凄まじい放電を走らせた。
「初号機、前方にATフィールドを発生っ!!凝縮、集束されてゆきますっ!!!」
「初号機前方に発生したプラズマ化現象の為、パイロットとの通信途絶っ!!」
「目標、落下を開始っ!!現在、高度6000っ!!!」
今までが割と暇だっただけ、急に発令所は蜂の巣を叩いた様に騒がしくなり、マヤと日向と青葉もその例に漏れず、矢次に報告の声を叫ぶ。
(こんな事まで・・・。こんな事まで出来てしまうの。彼は?・・・・・・異常すぎる)
バチバチバチバチバチッ!!
初号機前方に現れたオレンジ色の光が次第に球形を作ってゆく様を茫然と見つめながら、リツコはシンジに対して言い知れぬ恐怖心を抱く。
(・・・知りたい。何故、私達ですら良く解らないATフィールドの使い方をそこまで知っているのかを・・・。
 そうよ。その為なら・・・。そうね。幸いにして、彼はその手の事には目がなさそうだし、マヤも彼の事を気に入っているみたいだし・・・。)
それと同時に、科学者の血が成せる業か、知的好奇心に駆られたリツコは、マヤをチラリと横目に入れて謎のマッドな思考の渦に捕らわれる。
「目標、初号機の真上に落ちてきますっ!!」
「っ!?」
しかし、青葉から報告がなされると、リツコは思考の渦から帰り、一瞬たりとも見逃してなるものかとモニターへ視線を向けた直後。
チュドドドドドドドドドドォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーンッ!!
初号機の作った光の球体の上へ落下した使徒が、球体の外壁を通り抜けて中へ入った瞬間、球体内部だけで凄まじい爆発が連鎖的に巻き起こる。
「な、なにっ!?な、何なのっ!!?・・・って、およ?いつの間に戦いが・・・・・・。」
その凄まじい爆発音にあっちの世界から帰ってきたミサトは、空白の時間を感じて不思議そうに首を傾げた。


チュドォォーーーン・・・。シュパァァァーーーーンッ!!
ドゴォォーーーンッ!!
球体内部での爆発が止むと、球を形作っていた光は霧散して周囲に広がって消え、同時にそれを待ち構えていた初号機が使徒へ右拳の一撃を放つ。
ヒュゥゥゥゥゥーーーーーーン・・・。
「お、おい、ケンスケっ!!?」
「こ、こっちに来るっ!?」
そして、その一撃で使徒が吹き飛んだ先には、トウジとケンスケがいる神社の境内があった。
余談だが、後日2人はその当時の事を思い出し、丸焦げになった怪獣はイカ臭かったと語っているのがネルフ保安部報告書に残っている。
「「イ、イカイカイカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」」
確実に、急加速的に自分達がいる場所へドンドンと迫り来る使徒の圧倒的な巨大さに、トウジとケンスケは立ち竦んで意味不明な大絶叫をあげた。


「リツコさんっ!!」
『どうしたのっ!?』
シンジが真剣な表情で呼びかけ、何かあったのかとリツコがすぐさま初号機のエントリープラグ内の通信ウィンドウに現れた。
「今の技の名前、何にしましょう?」
『・・・はぁ?』
だが、いきなり訳の解らない事を言い出したシンジに、リツコの顔が間抜け顔に変わる。
「いやね。今日、クラスメイトに必殺技はないのかと聞かれて、1つくらい作っておこうかなぁ~~っと思って」
『・・・・・・。』
するとシンジは腕を組んでウンウンと頷き始め、リツコは青筋を浮かばせて肩をブルブルと震わせ、見た目にも明らかに怒気をあらわにした。
『ひ、必殺技の名前は後で付けると言う事にして・・・。い、今がチャンスよ。こ、攻撃して・・・。』
「それもそうですね。了解っ!!」
怒りに二の句が継げないリツコに代わり、顔を引きつらせるミサトが現れ、シンジはミサトの意見に頷き、初号機を使徒の元へ駈けさせる。
ガシッ、ガシッ、ガシッ、ガシッ、ガシッ!!、ガシッ・・・。
『どうしたのっ!?』
それも束の間、初号機は使徒との距離を中程まで詰めた辺りで立ち止まり、今度こそ何かあったのかとミサトが問う。
「いや・・・。あれを見て下さいよ」
『日向君っ!!初号機の指先の映像を出してっ!!!』
応えてシンジと初号機は右掌で目線を覆って天を仰ぎ、左手で使徒が倒れている横辺りをチョイチョイッと指さした。


「シンジ君のクラスメイトっ!?」
「何故、こんな所にっ!?」
発令所のモニターに初号機の指先が映ると共に、そこで大口を開けて尻餅をついている人物が検索され、ミサトとリツコが現れたデーターに驚く。
「使徒の様子はっ!!?」
「依然、健在っ!!いつ動き出してもおかしくありませんっ!!!」
「ちっ・・・。」
ミサトはすぐさま状況を求め、返ってきた青葉の報告に舌打つ。
「どうするの?ミサト」
「・・・シンジ君」
決断を迫るリツコに応え、ミサトは頷くとシンジへ呼びかけた。
『はい、何ですか?』
「シンジ君はどうしたいかしら?」
「ミサトっ!?」
そして、ミサトから告げられた決断に驚いてリツコが叫ぶが、ミサトはリツコを無視してシンジへ視線を向けたまま。
『そうですね・・・。見殺しってのも後味が悪いですよね』
「なら、頼めるかしら?」
『フフ、ご期待に添えてみせましょう』
発令所が静まり返る中、シンジはクスリと笑い、ミサトも期待通りのシンジの応えに笑みを漏らし、初号機がトウジとケンスケの元へ駈け始めた。
「シンジ君、あの2人を操縦席へっ!!2人を回収した後、一時退却、出直すわよっ!!!」
『了解っ!!』
「許可のない民間人をエントリープラグに乗せられると思っているのっ!!」
ミサトの更なる決断に一瞬だけ絶句した後、既に作戦は開始されたと言うのに、リツコが猛烈に反発する。
「・・・私が許可します」
「越権行為よっ!!葛城一尉っ!!!」
応えて腕を組むミサトは眉間に皺を刻んで強引な言葉を言い放ち、リツコは階級でミサトを呼ぶ事で技術部からの正式な反論を述べた。
「リツコ・・・。エヴァの性能はパイロットのメンタルに深く関わるんでしょ?
 なら、そのメンタルを最高の状態にしてあげるのが、シンジ君を気持ち良く戦わせてあげるのが指揮官の仕事・・・。違うかしら?」
「「「葛城さん・・・。」」」
するとミサトは初号機の姿を見つめて表情を穏やかにさせ、日向と青葉とマヤがミサトの考えに感動してミサトへ尊敬の眼差しを注ぐ。
「副司令っ!?」
「うむっ!!私も葛城一尉の意見に大賛成だっ!!!問題ないっ!!!!やりたまえ、葛城一尉っ!!!!!」
形勢不利と悟ったリツコは最高位の冬月へ同意を求めるが、間一髪入れず何故か頭を両手で押さえている冬月からミサトの後押しが入る。
「了解っ!!エヴァは現行命令でホールドっ!!!初号機が到着次第、エントリープラグ排出を急いでっ!!!!」
ミサトは冬月へ敬礼した後、改めて指示を飛ばし、リツコは信じられない冬月の決断に茫然と言葉を失っていた。


「「はわわわわわわわわわ・・・。」」
目の前、十数メートルの位置に横たわる使徒に恐怖して腰を抜かし、逃げたくても動く事が出来ないトウジとケンスケ。
ガシッ、ガシッ、ガシッ、ガシッ、ガシッ!!
「「ひいっ!!」」
そこへ更に使徒と同等の巨大さを持つ初号機が駈けてきたものだから、たまらずトウジとケンスケは後ずさろうとするがやはり動けない。
「な、なんやっ!?」
「も、もしかしてっ!?」
だが、トウジとケンスケの予想に反して初号機は近くまで来ると走る速度を緩め、すぐ近くでわざわざ俯せて寝そべる体勢をとった。
プシューー・・・。
『そこの2人っ!!早く乗ってっ!!!』
すると初号機首筋のハッチが開き、エントリープラグが半分だけ排出され、シンジの声が外部スピーカーを通して辺りに響く。
「て、転校生なんかっ!?」
「ト、トウジ、行くぞっ!!」
見知った声にトウジとケンスケは安堵感を覚えて解凍し、慌てて初号機の肩口に脚を引っかけてよじ登り、エントリープラグへと向かう。
「な、なんやっ!?み、水やないかっ!!?」
「は、早くしろっ!!こ、これ以上、転校生を困らせるなっ!!!」
ボチャーーンッ!!ボチャーーンッ!!!
トウジはエントリープラグ内のLCLに戸惑って入るのを躊躇うが、ケンスケに背中を押され、続いてケンスケもエントリープラグへ入り込む。
「うおっ!?真っ暗やでっ!!?」
「ああっ!!そうだっ!!!カメラ、カメラっ!!!!」
その途端、完全に安心を取り戻したのか、トウジはエントリープラグの暗さに驚き、ケンスケはLCLに浸かったビデオカメラの心配。
「ミサトさんっ!!早くっ!!!」
『了解っ!!シンクロ再開っ!!!』
しかし、シンジとミサトの切羽詰まった声が狭いエントリープラグ内に響き、トウジとケンスケが押し黙るのも束の間。
「「なん(や、だ)っ!?」」
「くうっ!!・・・さすがの僕もこれはきついね」
エントリープラグ内が七色に輝き出した途端、再びトウジとケンスケは騒ぎ出し、シンジは頭の中を蛇がのたうつ様な感覚に歯を食いしばった。


「神経系統に異常発生っ!!シンクロ率が下がる一方ですっ!!!50%を切りましたっ!!!!」
「異物を2つもプラグに挿入したから、神経パルスにノイズが混じっているんだわ」
ディスブレイに次々と現れてゆく異常に、マヤが悲鳴に近い叫び声をあげ、リツコはマヤの後ろからディスプレイを覗き込んで顔を顰めた。


『今よっ!!後退してっ!!!』
ミサトに言われるまでもなく、シンジは初号機を立たせるが、その動きにはいつもの俊敏さがない。
『回収ルートは36番、山の東側へ後退してっ!!』
「くっ!!」
『シンジ君、しっかりしてっ!!シンジ君っ!!!』
それどころか、初号機は数歩も歩かない内に片膝付いてしまい、シンジは酷い頭痛に額を手で押さえる。
「転校生っ!!逃げろ言うとるでっ!!!転校生っ!!!!」
「うわっ!?来る、来るぞぉぉ~~~っ!!!転校生っ!!!!」
しかも、動きを止めていた使徒が活動を再開し、トウジとケンスケがパニックになり始めた為、シンジの頭痛がますます酷くなってゆく。
「うるさいっ!!黙れっ!!!」
「「ひいっ!?」」
たまらずシンジが一喝し、トウジとケンスケはその迫力に怯えて言葉を失い、多少は頭痛が収まって初号機を立ち上げようとしたその時。
ちなみに、シンジが頭痛に悩まされているのは、先ほどリツコが説明した通り、トウジとケンスケの思考がシンジへ混ざっている為である。
更に戦闘前の校舎裏での喧嘩にも原因があり、トウジは敵意、ケンスケは恐怖心をシンジへ向けているのだから、思考が反発しあうのが当然の事。
もっとも、シンジはやろうと思えば強引に思考の主導権を握れるのだが、それをしたら力の強大さあまりにトウジとケンスケの心は砕けてしまう。
その結果、間違いなくトウジとケンスケは廃人同然になってしまい、それはシンジの望むところではない。
シュインッ!!
「ふぐっ!!」
「「うわぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!!」」
使徒の鞭が初号機の横っ面を襲い、まずシンジが痛みに悲鳴をあげ、続いて初号機が横倒しに倒れた衝撃にトウジとケンスケが悲鳴をあげる。
「やってくれるじゃないか・・・。っ!?」
「「っ!?」」
初号機を起き上がらせ、シンジは使徒を睨もうとして驚きに目を見開き、トウジとケンスケもシンジの口元から流れる出血に驚いて目を見開く。
「ちっ・・・。自己進化したのか」
それぞれの厚みと太さはなくなったが、使徒の左右にうねる6本になった光の鞭に舌打ち、シンジが忌々しそうに呟いた。


『ちっ・・・。自己進化したのか』
「っ!?」
初号機の緊急事態で忙しく騒がしい中、誰もシンジの呟きに気付かなかったが、リツコだけが体をビクッと震わせて過敏な反応を見せた。
(今、何て・・・。何て言ったの?彼・・・・・・。)
驚愕に見開く目で使徒を睨んでいるシンジを見つめるリツコ。
「先輩っ!!41から58の神経接続を解除しましたっ!!!」
「了解っ!!では、27番から再接続開始っ!!!(まあ、良いわ・・・。今は目の前の事が先決ね)」
だが、マヤより作業終了の報告が入り、気持ちを切り替えてリツコは戦闘に意識を集中させた。


ビシッ!!ビシッ!!!ビシッ!!!!ビシッ!!!!!
両手をクロスさせてガードし、使徒の猛攻を必死に耐える初号機。
「転校生っ!!なにしとるんやっ!!!早う、逃げえっ!!!!」
「トウジの言う通りだっ!!このままじゃ、明らかにやられるだけだぞっ!!!転校生っ!!!!」
まさか初号機の痛みがシンジへ直結しているとは知らず、エヴァが単なるロボットだと思っているトウジとケンスケが一方的な攻防に焦りまくる。
「黙れと言ったはずだっ!!そんなに言うなら、僕と代わってみるかっ!!!」
「「ひいっ!?」」
おかげで、シンジの頭痛はまたもや酷くなり、シンジは苛立ちあらわに一喝し、トウジとケンスケが恐怖に慌てて押し黙った。
(・・・とは言え、このままだとケンスケの言う通り、やられるだけだ。
 仕方がない・・・。かなり予定より早いけど、シナリオを繰り上げるとするか・・・・・・。
 でも、こんな早い段階で父さんやゼーレに気取られるのはまずいし・・・。あぁ~~あ、痛いのは嫌なんだけどなぁぁ~~~・・・・・・。)
しかし、それ以上の恐怖がその直後にトウジとケンスケを襲う。
「「・・・て、転校生っ!?」」
なんと初号機はクロスしていた両腕を下ろしてノーガードになり、トウジとケンスケは驚愕して最大に見開いた目をシンジへ向けた。
「フッフッフッフッフッ・・・・・・。」
「「・・・て、転校生?」」
だが、そこにあった禍々しいほどにニヤリと笑うシンジに、トウジとケンスケは更なる恐怖を感じて再び言葉を失う。
シュインッ!!ザクッ!!!
「ふぐっ!!」
もちろん、使徒はそのチャンスを逃さず、6本の鞭を1本に絡め纏めて初号機の腹部へ突き刺し、同時にシンジの体が弓なりにビクンッと震えた。


シュインッ!!ザクッ!!!
凄まじいスピードで迫った光の鞭によって初号機の腹部は貫かれ、初号機の背中で6本の鞭がうようよとのたうつ。
ドスッ・・・。ブシュューーーッ!!
そして、光の鞭が抜かれると共に、初号機はその場へ両膝を折ってしまい、同時に貫通した腹部から血の様な赤い液体が勢い良く吹き出す。
『腹部装甲板、大破っ!!損害不明っ!!!』
『活動維持に問題発生っ!!』
発令所に警報が鳴り響いて、絶望的な報告だけが飛び交い、あらゆるディスプレイが『EMERGENCY』の赤い文字で次々と埋まってゆく。
「状況はっ!?」
「シンクログラフ反転っ!!パルスが逆流していますっ!!!」
ミサトの切迫した叫び声に、マヤが涙声で報告しつつ必死にキーボードを叩くが、ディスプレイの赤い文字は増えてゆくばかり。
「回路遮断っ!!せき止めてっ!!!」
「ダメですっ!!信号拒絶、受信しませんっ!!!」
慌ててリツコがマヤへ指示を出すが、それすらも受け付けず、神経回路が次々と断線してゆくのが表示される。
「シンジ君はっ!?」
「モニター、反応無しっ!!生死不明っ!!!」
「初号機、完全に沈黙っ!!」
ミサトが最後の頼みの綱に期待を込めて尋ねるが、返ってきた日向と青葉の報告にその綱も切れてしまう。
「リツコっ!!」
ならばとミサトはラストチャンスに賭け、リツコへ視線を向けるも、リツコは力無く首を左右に振った。
「作戦中止っ!!パイロット保護を最優先っ!!!プラグを強制射出してっ!!!!」
こうなってはする事が1つしかなく、すぐさまミサトは作戦中止を決断して指示を出す。
「ダメですっ!!完全に制御不能ですっ!!!」
「なんですってっ!?」
だが、その指示すらもマヤの報告によって遮られ、驚愕したミサトはあらん限りの声で叫んだ。


「「あわわわわわわわわわ・・・。」」
初めて間近でみる人の死に酷い恐慌を起こし、トウジとケンスケはシンジから離れようと精一杯エントリープラグを後ずさっていた。
ビシッ!!ビシッ!!!
           ビシッ!!ビシッ!!!
ビシッ!!ビシッ!!!
           ビシッ!!ビシッ!!!
ビシッ!!ビシッ!!!
           ビシッ!!ビシッ!!!
しかも、使徒の絶え間ない猛攻は今も尚続いており、間違いなく自分達の死も時間の問題なのだから無理もない話。
ビシッ!!ビシッ!!!
           ビシッ!!ビシッ!!!
ビシッ!!ビシッ!!!
           ビシッ!!ビシッ!!!
ビシッ!!ビシッ!!!
           ビシッ!!ビシッ!!!
特に初号機頭部への攻撃は凄まじく、今正に初号機頭部の装甲板が砕け散ろうかと思われた次の瞬間。
シュインッ!!バシッ!!!
ジュウゥゥ~~~・・・。
突如、初号機の右手が持ち上がったかと思ったら、放たれた光の鞭をわし掴み、初号機の右掌から煙が上がって肉が焼ける様な音が響く。
「フッフッフッフッフッ・・・・・・。」
「「て、転校生っ!?」」
更には死んだと思われたシンジの含み笑い声がエントリープラグ内に響き、トウジとケンスケが喜びあらわにシートへ縋り付いた。
「「・・・って、お前、誰(や、だ)っ!?」」
だが、そこに座っていた人物に、トウジとケンスケが驚きに目を見開く。
何故ならば、そこに座っていたのはシンジに良く似た銀髪紅眼の少年。
「嫌だな・・・。自己紹介ならしただろう?僕はシンジ、碇シンジ。君が殴った碇シンジだよ」
応えて銀髪紅眼の少年であるシンジは2人の様子がおかしくてたまらないと言った感じにクスクスと声に出して笑う。
「ええっと・・・。さてさて・・・。どうなったかな?」
笑いが止まると、シンジはシート横に設置されているカスタマイズ・キーボードを出し、軽やかにキーをタイピングしてゆく。
「・・・うん、予定通りだね」
そして、全ての計器、通信機が使用不可になっているのを確認すると、シンジは満足そうに頷き、キーボードを戻して正面へ向き直る。
また、腹部を貫かれた際、アンビリカルケーブルも切断されたのに、内部電源の残り時間は『8:88:88』からカウントが全く減っていない。
「フフ、君達に珍しい世界を見せてあげるよ・・・。そう、時すらも止まるゼロの世界をね」
ブシュッ!!ブシュブシュッ!!!
初号機は立ち上がりながら力任せに掴んでいた光の鞭を握り潰し、同時に淡くオレンジ色に光る輝きがシンジとトウジとケンスケの体を包んだ。
「さあ、誰に喧嘩を売ったのか、教えてやろうじゃないか」
「「っ!?」」
シンジは使徒を睨んでニヤリと笑うが、トウジとケンスケは意味を取り違え、トウジは自分を、ケンスケはトウジを指さして固まる。
「まずは200%っ!!」
『ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!』
シンジの瞳から爛々としてた紅い輝きが放たれると共に、消えていた初号機の両眼に輝きが灯り、聞く者の心をわし掴む様な咆哮をあげた。


『ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!』
地上に設置されているマイクで音を拾わずとも、発令所まで聞こえてくる初号機の咆哮。
『エヴァ再起動っ!!』
『そんなっ!!動けるはずがないっ!!!』
その信じられない光景と恐ろしい咆哮に発令所がざわめき、報告アナウンスにも私的感想の声が混ざる。
「・・・まさかっ!?」
「暴走っ!?」
瞬きするのも忘れて目を見開いたまま、初号機を凝視しするミサトとリツコの脳裏に『最悪』の2文字が浮かぶ。
「少しシナリオには遅れたが・・・。勝ったな」
だが、司令席に立つ冬月の脳裏には『勝利』の2文字が浮かび、その2文字を離さない為なのか必死に頭を両手で押さえていた。
ブクブクブクブクブクッ!!
突如、貫通して穴が空いていた初号機の腹部の周辺から肉が寄り集まり、みるみる内に穴が塞がれてゆく。
「腹部復元っ!!」
「す、凄いっ!?」
終いには装甲板こそないが、穴は完全に塞がれた事が青葉から報告され、ミサトが乾いた喉へゴクリと生唾を飲み込む。
『ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!』
そ して、初号機は再び咆哮をあげながら使徒へ突撃して行った。


ガシッ、ガシッ、ガシッ、ガシッ、ガシッ!!ドゴッ!!!
使徒とすれ違い様に飛び膝蹴りを放ち、初号機が使徒の後方へ着地する。
「おっと、まだまだぁぁ~~~っ!!」
ガシッ、ガシッ、ガシッ、ガシッ、ガシッ!!ドゴッ!!!
その結果、当然の事ながら使徒は後方へ倒れそうになるが、すかさず舞い戻ってきた初号機の飛び膝蹴りが使徒の背中へ放たれた。
ドゴッ!!ドゴッ!!!ドゴッ!!!!ドゴッ!!!!!
「ほらほら、休む暇はないよっ!!」
そんな単純だか絶え間ない攻撃を初号機は何度も何度も繰り返し、倒れられない使徒は起きあがりこぼしの様に何度も何度も前後に揺れる。
「「あわわわわわわわわわ・・・。」」
人類の敵とは言え、あまりにも圧倒的に容赦なく陰湿な攻撃を繰り返すシンジに、トウジとケンスケは恐ろしさのあまりブルブルと震えまくり。
シュッ!!シュッ!!!シュッ!!!!シュッ!!!!!
「んっ!?なかなか、やるじゃないかっ!!!」
これはたまらないと使徒は6本の光の鞭を己の周囲へしならせて結界の様に張り巡らし、シンジが面白そうにニヤリと笑う。
「なら、400%っ!!!!」
ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ!!ドゴッ!!!
ところが、オレンジ色の光で輝き始めた初号機が駈ける速度を一段と増し、使徒はあっさりと結界内部へ初号機の侵入を許してしまう。
シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュッ!!
「良いねぇ~~っ!!そのチャレンジ精神っ!!!そう思わないっ!!!?」
ならばと使徒は光の鞭を更に枝分かれさせて12本にするが、シンジは興奮してクスクスと笑いながら後ろの2人へ同意を求める。
「せ、せやなっ!!て、転校生の言う通りやっ!!!」
「そ、そうだよなっ!!チャ、チャレンジ精神は大事だよなっ!!!」
もし首を横に振ったら殺されるかも知れないという恐怖に駆られたトウジとケンスケは、必死に勢い良く何度もウンウンと首を縦に振りまくり。
「という事で、君に敬意を表して・・・。800%っ!!」
ガガガガガガガガガガッ!!ドゴッ!!
すると初号機の駈ける速度が更に一段と増し、遂には初号機の走る姿が目では見えなくなり、代わりにオレンジ色の光の直線が大地に描かれる。
ガガガガガガガガガガッ!!
             ドゴッ!!
ガガガガガガガガガガッ!!
             ドゴッ!!
ガガガガガガガガガガッ!!
             ドゴッ!!
一応、初号機がある一定間隔を往復して走っている音は聞こえるのだが、文字通り絶え間なく飛び膝蹴りを喰らう使徒。
ガガガガガガガガガガッ!!
             ドゴッ!!
ガガガガガガガガガガッ!!
             ドゴッ!!
ガガガガガガガガガガッ!!
             ドゴッ!!
これではさすがに何もする事が出来ず、ただただ一方的にやられ始めた使徒は、己の武器である鞭の数を増やす暇もない。
ドゴッ!!ドゴッ!!!ドゴッ!!!!ドゴッ!!!!!
「なんだ、もう終わりなのかい?つまらないね・・・。」
成すすべなく無抵抗主義万歳になった使徒に、シンジが面白くなさそうに溜息をついた途端。
「それじゃあ、そろそろ逝こうか?・・・1600%っ!!」
キィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーンッ!!
初号機の駈ける速度が更に更に一段と増し、既に駈け足の音は完全に消え、スニックウェーブが渦巻く音だけが聞こえてくる。
その亜音速を軽く凌駕する早さの世界、まるで自分達だけが動いている様な世界、シンジが言う時すらも止まるゼロの世界。
「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!やっぱり、君は僕の敵じゃなかったねっ!!!」
そんな人が絶対に体験出来ない世界の中、シンジは興奮を抑えきれず高笑いをあげ、ケンスケはその様子に恐怖しながら思った。
(こ、こいつだけは敵に回しちゃダメだ・・・。ト、トウジ、せめて安らかに眠れ・・・・・・。)
時同じくして、トウジも思い悟ってしまう。
(わ、わしはとんでもない奴に喧嘩を売ったんやな・・・。す、すまん。ア、アキ・・・。お、お父、お爺、先立つ不幸を許してや・・・。)
そして、戦場上空の真上から見下ろし、使徒を中心に綺麗な光の五芒星が描かれた次の瞬間。
「さあ、堕ちろっ!!」
五芒星頂点にそれぞれ初号機が現れ、頂点同士を繋ぐ光の円が描かれて光のカーテンが天へ伸び、一斉に5体の初号機が中心にいる使徒を目指す。
チュドドドドドドドドドドォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
その直後、カーテン内部で凄まじい爆発が連鎖的に巻き起こり、炎の柱が衛星軌道上まで立ち上った。


チュドドドドドドドドドドォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
想像を絶する光景に誰もが手を止め、言葉を失い、発令所がシーンと静まり返る。
ドォォォォォーーーーーーン・・・。
しばらくすると、衛星軌道上まで達していた炎の柱が下がり始め、完全に地上まで戻って来ると、オレンジ色の光のカーテンも消えた。
ドッスゥゥーーーンッ・・・。
一拍の間の後、クレーター中心部に佇んでいた2つの巨人の片方が大地へ倒れ、もう片方の巨人がその場へ片膝付く。
大地へ倒れた方はこんがりと黒こげになった使徒であり、片膝付いた方が表面部の装甲板をドロドロに溶かした初号機。
ちなみに、使徒の胸にあった赤い球『コア』の部分は見事にえぐり取られ、その残骸がわずかに初号機の右手に握られていた。
「・・・じょ、状況はっ!?」
いち早く我に返ったミサトが震える声で状況を求める。
「も、目標は完全に沈黙。セ、センサー、オールグリーン」
「シ、システム回復。グ、グラフ正常位置」
「パ、パイロットの生存を確認」
応えて青葉とマヤと日向が報告の声をあげるが、その指先は震えてなかなか作業がはかどらない。
「機体回収班急いで・・・。パイロットの保護を最優先」
唯一、シンジから何が聞けるのかか楽しみで仕方がないリツコは、声を弾ませながら戦後処理の指示を出した。


『シンジ君っ!!シンジ君っ!!!シンジ君っ!!!!』
内部電源を使い果たし、薄暗いエントリープラグのシートにグッタリと横たわるシンジ。
その髪色と瞑られた瞼の奧にある瞳色は、銀髪紅眼ではなく、元の黒髪黒眼へ戻っている。
「んっ・・・。んんっ・・・・・・。」
『シンジ君、大丈夫っ!!大丈夫なのっ!!?』
シンジが自分の名前を呼ぶ声にうっすらと目を開けると、涙ぐんで心配そうな表情を浮かべるミサトが映る通信ウィンドウが目の前に開いていた。
どうやら、常日頃はあれほどシンジの居ない所でシンジの悪口を言っているミサトだが、2週間も一緒に住んでいると情も沸いてくる様である。
または、その真相はミサト自身にしか解らないが、リツコの評した『タコのジレンマ』もあながち間違っていないのかも知れない。
「ええ・・・。かなり疲れましたけど・・・。」
『そう、良かった・・・。それで2人は?』
「どうやら、気絶しているみたいです・・・。」
ミサトの問いかけに、シンジは後方を振り向き、恐怖に強ばった顔で気絶しているトウジとケンスケを確認。
『シンジ君、どうしたのっ!?大丈夫っ!!?』
そして、正面へ振り向き戻ろうとするも、途中でシートからこぼれ落ちて横倒しに倒れ、ミサトは驚いて再び叫んで呼びかける。
「大丈夫・・・。ただ眠いだけですから・・・・・・。」
『・・・そう、お疲れさま。シンジ君、今はゆっくりと休みなさい』
「はい・・・。おや・・・すみ・・・な・・・さ・・・い・・・・・・。」
だが、シンジの応えを聞いて胸をホッと撫で下ろし、ミサトは優しく微笑んで通信を切り、シンジはすぐさま深い眠りへと入っていった。


ザーーーーー・・・。
翌日の夕方、窓の外はトウジの心の様に雨が降りしきっていた。
「今日、来いへんかったな・・・。転校生・・・・・・。」
「・・・ああ、そうだな」
何となく家へ帰りづらいトウジは、相田邸のご厄介になっていた。
何故ならば、帰ったらアキにどんな事を言われるかが解らず、何よりもシンジがもし待ち伏せしていたら死が確実だと確信しているからである。
また、本日シンジが学校を欠席すると委員長のヒカリから聞いた時は、心底に胸をホッと撫で下ろしたくらい。
だが、それはそれで問題を先送りしただけの様な感じがし、常にトウジはシンジの影に怯え、教室の扉が開く度に驚いて生きた心地がしなかった。
おかげで、トウジは精神的な疲労で疲れ果ててしまい、何処か急に先行き短い老人の様なオーラを漂わせている。
「やっぱり、怒っとるやろか?・・・そんな事、あらへんよな?もし怒っとても、話し合いで解決できるわな?」
「・・・さあな、どうだろうな」
別に気温は寒くもないのにガタガタと震え、部屋の隅で毛布を被るトウジは縋る様な視線を向けるが、マンガを読むケンスケは生返事を返すだけ。
それもそのはず、トウジは口を開けば同じ質問を何度も繰り返し、朝から何百回も同じ質問を聞かされ、さすがのケンスケもうんざり。
しかも、例えシンジが怒っているとしても、その対象はトウジだけであり、ケンスケにとって所詮は他人事というのも少しある。
「わし、思うんやけど・・・。やっぱり暴力はいかんと思うのや。ケンスケもそう思わんか?」
「でも、先に暴力を振るったのはトウジだぞ?しかも、理由も言わずに問答無用でさ」
「う゛っ・・・。」
それでも、トウジは少しでも安心を得ようと話しかけるが、ケンスケから返ってきた応えにより一層不安を募らせて自爆。
余談だが、トウジとケンスケの昨日の戦闘についての記憶は、シンジが銀髪紅眼に変貌した直前辺りから綺麗さっぱりと消えていた。
ただ有るのはシンジへの凄まじい恐怖心だけであり、無理に思い出そうとすると激しい頭痛に襲われてしまうくらいである。
どうやら、恐怖心のキャパシティーが越えた為、心が記憶を封印してしまったらしい。
しかし、それはあの戦いを間近で見た生き証人の記憶であり、当然興味を持ったリツコはあらゆる手段を用いて記憶を引き出そうと試みた。
簡単な誘導尋問から始まり、精神カウンセリング、最後には催眠術などまで及んだが、その全ては失敗に終わってしまう。
どうしても、ある一定以上の記憶まで辿ると、先に述べた通り頭痛に襲われ、催眠術の時などは泡を吹いて気絶してしまう始末だった。
「はぁぁ~~~・・・。仕方ないな。ほら、これ・・・。」
「・・・なんや?」
部屋に置くインテリアにしては鬱陶しすぎ、ケンスケは溜息混じりにマンガを閉じると、学校鞄に入っていたメモをトウジへ渡す。
「転校生の家の電話番号だよ。面と向かって言えない事も、電話なら言える事があるだろ?
 謝るにしろ、何にしろ。1回、お互いに話し合ってスッキリしたらどうだ?そうすれば、少しは安心できるだろ?」
「ケ、ケンスケ・・・。」
「感謝しろよ?あいつ、パイロットだから学級名簿にも電話番号が載っていなくて苦労したんだぞ」
「おおきにっ!!おおきに、ケンスケっ!!!やっぱり、お前はわしの親友やっ!!!!」
ケンスケの計らいに、トウジはジーンと感動しまくりつつ、メモを握り締めて部屋を駈け出て行く。
ドガドガドガッ!!ドン、ドンッ!!!ドタァァーーーンッ!!!!
「さてさて、どうなる事やら?」
開けっ放しになったドアの向こう側より、階段から転げ落ちる様な音が聞こえ、ケンスケは苦笑しながら読みかけのマンガを再び開いた。


「・・・良し」
電話の前で葛藤する事30分、ようやくトウジは受話器を手に取った。
ピッ、ポッ、パッ、ポッ、ピッ・・・。
右手に受話器を持ち、左手に持つメモを細心の注意を払ってナンバーを確認しつつ、震える人差し指でプシュボタンを押してゆく。
『プルルル・・・。』
その結果、当然の事ながら呼び出しコールがかかり、トウジは解っていながら間抜けにも体をビクッと震わす。
『カチャッ・・・。』
すると1コールで相手側の受話器が持ち上がり、電話が繋がった音が聞こえ、トウジはまたもや間抜けにも体をビクッと震わせた。
『はい、鈴原です』
「・・・・・・。」
そして、電話に出た女の子の声に、しばし茫然となるトウジ。
『・・・もしもし?・・・もしもし?鈴原ですけど?』
「おおっ!!わしや、わし。すまん、すまん。間違えたわ」
一拍の間の後、無言電話に苛立ったアキの声が聞こえ、慌ててトウジが反応した次の瞬間。
『あっ!?・・・ガチャッ!!プーーー・・・。プーーー・・・。プーーー・・・。』
「なんや・・・。アキの奴?」
アキの短い驚き声と共に電話が慌てた様に叩き切られ、トウジは不思議顔と不機嫌顔を混ぜて受話器を見つめる。
「・・・って、何で、アキが転校生の家におるねんっ!!」
その直後、トウジはシンジの家に電話をかけたはずが、自分の家に繋がった事の矛盾と言う勘違いに気付き、すぐさまリダイアルボタンを押した。


ジャーーー・・・。カチャッ・・・。
「こらこら、人の家の電話に出ちゃダメじゃないか。アキちゃん」
トイレで水の流れる音が聞こえ、トイレから苦笑するシンジが出てくる。
「ご、ごめんなさい・・・。で、電話の前を通りがかった時に鳴ったんで、つい・・・。」
「まあ、良いけどね。それで誰からだった?」
シンジのお叱りを受け、アキは俯いてしまい、シンジはわざと軽い口調で電話の相手を尋ねた。
「・・・ま、間違い電話でした」
「ふぅぅ~~~ん・・・。」
だが、アキはますます俯いてしまい、シンジが不思議そうに首を傾げる。
良く見ると、アキは抜いた電話の元栓を何気なく足で蹴り、シンジから見えない様に物陰へ必死に隠していた。
「そ、それより、碇さんっ!!ど、何処か外へ出かけませんかっ!!!」
「えっ!?・・・だって、外は雨だよ?」
するとアキは焦った感じでいきなり不思議な提案を持ちかけ、シンジは窓の外へ視線を向け、降りしきる雨の景色を眺めて更に首を傾げる。
「い、良いじゃないですかっ!!あ、雨の中を歩くのもなかなか良いものですよっ!!!」
「う~~~ん・・・。そうだね。じゃあ、何処へ出かける?」
「そ、それは碇さんの好きな所で・・・。」
しかし、何やら必死に頼むアキの気持ちを汲み、シンジがニッコリと微笑んで同意し、アキは胸をホッと撫で下ろす。
「本当に僕の好きな所で良いのかなぁ~~?」
「えっ!?・・・あっ!!?そ、それは・・・。そ、その・・・。え、えっと・・・。は、はい、良いです」
いきなりシンジがクスクスと笑い始め、一瞬だけ何の事だか解らなかったが、アキは自分が言った大胆発言に気付いて顔を真っ赤に染めて俯く。
「それじゃあ、まずは映画でも見に行こうか?」
「は、はい・・・。」
2人が何処へ行ったのかは全くの謎だが、偶然にもシンジとアキの2人がそれぞれの家へ帰ったのは翌日の夕方の事だった。


「・・・どうだった?」
ケンスケはマンガから顔を上げて、部屋へ戻ってきたトウジに尋ねるが、トウジは何も応えない。
「なんや・・・。このナイフ、偽物やないか」
「当たり前だろ。サバイバル・ゲームに使う時の物だからな。良く出来ているけど、刃はゴムで出来ているんだよ」
いきなりトウジは部屋に飾ってあるナイフを手に取って品定めを始め、ケンスケは眼鏡を押し上げて自分の得意分野の知識を得意気に披露する。
ガチャッ・・・。
「そうか・・・。そしたら、ここにある鉄砲で1番威力がある奴はどれなんや?」
するとトウジは勝手知ったる棚を開け、今度は棚に列んでいる数丁のマシンガンライフルの品定めを始めた。
「それなら、間違いなくこれだね。これは戦自が採用しているレプリカなんだけど・・・。こいつは凄いぜぇぇ~~~。
 あまり大きな声じゃ言えないんだが・・・。少し違法改造してあってな。スイカ程度なら数秒で粉々にする事が出来るんだ」
ケンスケは中からマシンガンライフル1丁を取り出し、遂にトウジも自分の趣味に興味を持ってくれたかと感激して銃の性能を喜々と説明する。
「ちょっと、ええか?」
「おうっ!!・・・って、おいおい、聞いてなかったのか?人に向けるなよ」
トウジはケンスケからそのマシンガンライフルを借り受けると、銃口をケンスケへ向け、慌ててケンスケが手で銃口を下ろさせた。
「おお、すまん、すまん。・・・で、どれで狙いを付けるんや?」
「ほら・・・。こことここ、それとここに3つの照準が有るだろ?その3つの窪みに目標を合わせるんだ」
しかし、積極的に質問をしてくるトウジに怒る事はなく、ケンスケはご機嫌にマシンガンライフルのいろはを伝授。
「なるほどな・・・。そしたら、これ借りるで?」
「・・・はっ!?」
「わしは解ったんや。どうせ、殺られるなら・・・。殺られる前に殺れっちゅう事になっ!!」
「・・・お、おいっ!?な、何があったんだよっ!!?」
一瞬、トウジの言いたい事が解らなかったが、ケンスケはトウジのギラつく瞳に交渉が失敗に終わった事を知り、慌ててトウジを止めようとする。
「ケンスケ、そいじゃあのっ!!待っとれよっ!!!転校生ぇぇ~~~っ!!!!」
だが、それよりも早くトウジは部屋を駈け出て行き、すぐさまケンスケはトウジの後を追いかける。
「待てっ!!トウジっ!!!トウジぃぃ~~っ!!!!」
それでも玄関で追いつくと算段するが、予想外にもトウジは傘をささず裸足のまま外へ駈け出て行き、仕方なしにケンスケもそのまま後を追う。
「死して屍拾う者なしっ!!死して屍拾う者なしっ!!!どうせ、死ぬなら咲かせて見せましょうっ!!!!この命っ!!!!!
 いざ、鎌倉っ!!敵は本能寺にありっ!!!目指すは吉良邸っ!!!!白き雪を赤で染め上げ、今宵こそ討ち入りの時っ!!!!!」
「トウジっ!!待つんだっ!!!考え直せっ!!!!トウジぃぃ~~~っ!!!!!」
その後、シンジの家を知らないトウジは闇雲に街を駈け回って、警察官に捕まり、違法改造がバレたケンスケと共に留置所で一夜を明かした。


余談だが、今回の戦闘で許可のない民間人をエントリープラグへ入れた件に関して、技術部から正式なミサトへの責任追及がなされた。
「まあ、勝ったのだから良いだろう。我々の目的は何よりも使徒に勝つ事だからな」
だが、以上の冬月の言により、ミサトへの処罰は軽い訓告のみで済まされる事となる。
それどころか、冬月から今回の戦闘の功労として、ミサトの好きな『エビチュビール1年分』がミサトへ贈られる事となった。
これに関して、ミサトは非常に戸惑いながらも喜んで受け取り、これ以後のミサトは冬月へ絶対な信頼を置く様になる。
但し、この異例な処置による付加効果として、作戦部と技術部の間に深い溝が出来てしまった事は言うまでもない。




- 次回予告 -雨・・・。雨は良いねぇ~~。雨の音はささくれた心を癒してくれる。

・・・っと、誰かが言ったかどうかは知らないけど。        

そうだよ。人類存亡なんて重圧、耐えられないよね         

なら、逃げても良いじゃないか。どうして、逃げちゃダメなの?   

そう・・・。たまには1人静かに考える事も必要だよ。       

でも、きっと帰ってくる。                    

だって、帰る所はここしか無いのだから・・・。          


Next Lesson

「雨、 逃げ出した後」

さぁ~~て、この次はマヤさんで大サービスっ!!

注意:この予告と実際のお話と内容が違う場合があります。


後書き

原作では小学2年生、エヴァGでは小学6年生のアキですが・・・。
物語の都合上、さすがに小学生はヤバいだろうと思い、中学1年生にしました(笑)
まあ、もっとも中学生でも十分にヤバいんですけどね(爆)
あとシャムシェルを倒す際にシンジが五芒星を描いていますが・・・。
これは魔法とかそういう類の物ではありません。
ただ単にイメージとして格好良いなと思っただけで使いました(^^;)
ええ、多分深い意味はないと思います(謎)

感想はこちらAnneまで、、、。

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