真世紀エヴァンゲリオン Menthol Lesson6 決戦、第三新東京市 -11




「エヴァ初号機、発進準備良し」
「発進っ!!」
日向より全ての舞台が整ったとの報告が入り、ミサトが号令を発すると共に、初号機が凄まじいスピードで射出口固定台ごと打ち上げられた。
「初号機、062ラインを通過っ!!」
一拍の間の後、マヤから初号機があと1秒で地上に到達すると言う意味の報告があがる。
「日向君っ!!」
「了解っ!!」
すぐさまミサトは次なる指示を出し、人差し指をボタンへ置いて待っていた日向が、ミサトのお許しに人差し指へ力を込める。
シャコンッ!!シャコ、シャコ、シャコ、シャコ、シャコ、シャコ、シャコ、シャコ、シャコ、シャコンッ!!!
同時に初号機射出位置とは正反対の位置にある兵装ビル群の砲門が一斉に開き、使徒の正八面体中央ラインにある黒い溝が光輝き始めた。
「目標に高エネルギー反応っ!!」
「待ってましたっ!!」
予想通りの報告が青葉からあがり、ミサトが勝利を確信するのも束の間。
「いえ、これは・・・。目標、両端にですっ!!初号機を狙っていますっ!!!」
「なんですってっ!!初号機を下げてっ!!!」
予想外の信じられない報告を青葉が振り返り叫び、ミサトは驚愕に目を見開きながら即座にマヤへ指示を出す。
「間に合いませんっ!!初号機、地上に到達しますっ!!!」
「ダメっ!!シンジ君、避けてっ!!!」
だが、放たれた矢は既に戻らず、マヤが悲痛な叫び声をあげ、慌ててミサトは日向のコンソールからマイクを奪ってシンジへ呼びかけた。


ウィーーン・・・。ガシャンッ!!
道路に偽装されていたハッチが開き、台座に固定された初号機が地上へ勢い良く現れる。
『ダメっ!!シンジ君、避けてっ!!!』
キュインッ!!
それを前後して、ミサトよりシンジの元へ切羽詰まった叫び声が届き、初号機の目の前に眩いばかりの光が輝いた。
「っ!?」
シンジは眩きに目を瞑る事なく前方を見据え、初号機の左腕に強烈なオレンジ色の輝きを纏わせ、左腕を迫る青白い光線へ振り落とした次の瞬間。
また、初号機が左腕を勢い良く振り上げた際、左肩の拘束具が負荷に耐えかねて粉砕されている。
ガゴンッ!!
非常識な事に金属がぶつかり合う様な音が響き、青白い光線が初号機の目の前で直角に曲げられて大地に叩きつけられた。
「はっ!!」
ガゴッ!!
すぐさまシンジは気合い一発をかけて、初号機をその場で思いっ切り踏み切らせ、右肩の拘束具も破壊しつつ垂直に天空へと大ジャンブ。
チュドドドドドォォォォォーーーーーーンッ!!
その途端、ねじ曲げられていた青白い光線は軌道を戻し、初号機の固定台座を貫き融解させながら背後にあった道路へ一筋の傷を刻む。
「ニードルっ!!」
シャコンッ!!シュパパパパパパパパパパパパッ!!!
一方、ジャンプ頂点に達した初号機は、シンジの命に従って右肩の武装パックを開かせ、仕込んでいたニードル弾を更に天空へと放出。
「行けっ!!」
そして、初号機がMEソードで使徒を指さすと共に、放たれたニードル弾達が突如意志を持ったかの様に軌道を変えて使徒の元へと向かう。
カキィィィィィーーーーーーンッ!!
すると使徒は即座に攻撃から防御に切り替え、完全でないにしろ弱々しいATフィールドを輝かせ、ニードル弾達を簡単に弾き飛ばした。
「かかったっ!!」
ザクッ!!
だが、シンジは使徒の行動を不敵にニヤリと笑い、再び元いた位置へ初号機を着地させてMEソードを大地に突き刺した。
キュインッ!!
「さあ、仕切り直し・・・。」
再び使徒は防御から攻撃に切り替え、正八面体中央ラインにある黒い溝を光輝かせ、初号機が両掌を前方へ勢い良く突き出した直後。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
「・・・力比べだ」
使徒から初号機へ青白い光線が放たれ、初号機からは周囲に旋風を巻き起こしながら恐ろしく強大なATフィールドが解き放たれた。


「す、凄い・・・。」
初号機前面に具現化されたオレンジ色に輝く八角形の光の壁に見とれ、ミサトが一瞬前まで絶望に暮れていた事も忘れて思わず茫然と呟く。
「・・・っ!?初号機のATフィールド強度はっ!!?」
「は、はいっ!!す、推定で第3使徒の約14・・・。いや、15倍はありますっ!!!」
「じゅ、15倍ですって・・・。」
同様に茫然となっていたリツコは、知的好奇心を駆り立てられて慌てて我に帰るが、青葉から返ってきた報告に驚愕して再び茫然としてしまう。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おおっ!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
更に初号機は青白い光線をATフィールドで受け止めながら前進をゆっくりと始め、発令所の彼方此方で驚きと畏怖の混じったどよめきがわく。
「っ!?・・・日向君っ!!!最初の攻撃から何秒経ったっ!!!?」
「えっ!?あっ!!?はいっ!!!!16秒が経・・・。目標内部のエネルギー増加していますっ!!!!!」
だが、ふと重要な事を思い出したミサトが我に帰って叫び、モニターを魅入っていた日向が慌ててディスプレイへ視線を戻した次の瞬間。
ドゴォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーンッ!!
『くっ!!』
先の攻撃と防御から完全に立ち直った使徒の青白い光線が厚みと輝きが次第に増し始め、ATフィールドを支えるシンジが奥歯をギュッと噛む。
ちなみに、初撃で初号機の囮を担った兵装ビル達は使徒の攻撃によって既に沈黙していた。
ゴォォーーーッ!!
         ズズズズズズズ・・・。
ゴォォーーーッ!!
         ズズズズズズズ・・・。
ゴォォーーーッ!!
         ズズズズズズズ・・・。
ATフィールドで辛うじて防ぎきり続けるも、放出し続ける青白い光線の勢いに押され、初号機がそのままの体勢で後ずさりし始める。
ゴォォーーーッ!!
         ガリ・・・ガリガリ・。
ゴォォーーーッ!!
         ・・ガリガリガリ・・。
ゴォォーーーッ!!
         ガリ・・・・ガリガリ。
初号機は突き刺してあったMEソードを両逆手で握って踏ん張るが、MEソードは大地を少しづつ切り裂き、初号機の後ずさりは止まらない。
「ちっ・・・。まずいわね。日向君、兵装ビルから援護してっ!!」
「了解っ!!」
一進一退の攻防に陰りが見え、舌打ちするミサトが気休めでもシンジの助けになればと指示を出し、日向がミサトの指示に頷いたその時。
「目標内部のエネルギー、尚も増大っ!!」
キュインッ!!・・・カキィィーーーンッ!!!ドゴッ!!!!
日向の声に合わさって青葉が叫ぶと共に、使徒が放つ青白い光線の厚みと輝きが更に増し、ATフィールドを一気に貫いて初号機の胸を焼いた。
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
『ぬああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!』
エントリープラグ内のLCLは瞬時に沸騰して激しく気泡を立ち上らせ、目を最大に見開いたシンジの絶叫が発令所のスピーカーを震わす。
「マヤっ!!生命維持システム最大っ!!!LCLの緊急循環、冷却を急いでっ!!!!」
「は、はいっ!!」
「日向君、初号機後方の回収ハッチを開いて射出台を待機っ!!青葉君、初号機はあとどれだけ耐えられるのっ!!!」
「了解っ!!」
「約6秒・・・。ダメですっ!!回収ハッチへ到達する前に胸部装甲板を貫かれてしまいますっ!!!」
発令所に警報が幾つも重なり鳴り響いて指示が飛び交い、あらゆるディスプレイが『EMERGENCY』の赤い文字で次々と埋まってゆく。
「ふっ・・・。」
「・・・お、おい」
この絶体絶命の状況下、司令席のゲンドウは思わずニヤリと笑ってガッツポーズをとり、その脇で冬月はツッコみながら呆れて顔を引きつらせた。
ズササササササササササササササササササッ!!
『ぐぬうううううっ!!・・・てめえ、畜生っ!!!なめるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~っ!!!!』
青白い光線の勢いに上半身を先行する形で後方へ押され、両足を大地に引きずらせていた初号機だったが、シンジが凄まじい怒号をあげた途端。
カンッ!!
     カンッ!!
          カンッ!!
               カンッ!!
                    カンッ!!
                         カキィィィィィーーーーーーンッ!!!!!!
初号機の目の前に5層からなる強大なATフィールドが具現化され、青白い光線は3枚目まで貫いた後、4枚目のATフィールドで阻まれた。
また、良く見ると、青白い光線はATフィールドを1枚貫く毎に勢いを弱め、一段階づつ光線の厚みと輝きを減少させている。
「た、多重層のATフィールド・・・。こ、こんな事も出来るの?・・・・・・マヤ、退きなさいっ!!」
「えっ!?・・・キャっ!!?」
(フフ、今日こそはこの目でしっかりと見せて貰うわよ・・・。シンジ君、あなたの力をね)
信じがたい光景に科学者の血が燃えたぎり、マヤを突き飛ばして席を退かすと、リツコは自らオペレーター席に座った。
「せ、先輩・・・。ひ、酷いですぅぅ~~~・・・・・・。」
「マヤ、言ったはずよ。科学の発展には犠牲が付き物だと」
尻餅をついたマヤはぶつけて痛む腰をさすりながら口を尖らせるが、リツコは謝りもせずディスプレイを流れてゆくデーターに目を輝かせる。
((可哀想に・・・・・・って、おおっ!?))
その一部始終を見ていた日向と青葉は、マヤへ同情の視線を向けた後、尻餅ついてご披露されているマヤのスカートの中身に夢中で目を輝かす。
「シンジ君、大丈夫っ!!」
しかし、データーにも、マヤのスカートの中身にも興味がないミサトは、すぐさまシンジを心配して叫び呼びかけた。
『ええ、大丈夫です・・・って、しまったっ!!』
「どうしたのっ!?」
シンジはミサトを安心させようとニッコリと微笑むが、一瞬後に目をハッと見開いて表情を強ばらせ、ミサトが何事だと焦り問いかける。
『クールな僕とした事が「てめえ、畜生っ!!!」だなんて汚い言葉をっ!!うぬぬぬぬ・・・。僕は不愉快だっ!!!』
「あ、あのねぇぇ~~~・・・。じ、自分の命がかかっているんだから、形振りなんて構ってられないでしょ?」
応えてシンジは己の美学と反した言動に頭を左右に振って嘆き、ミサトは全身の力が抜けてゆくのを感じつつ心配して損したと顔を引きつらせた。
『そうは言ってもねぇ~~・・・。マヤさんはどう思いますか?』
「えっ!?う、うん・・・。ク、クールなシンジ君も良いけど、ワイルドなシンジ君も好きよ・・・って、キャっ!!!言っちゃったっ!!!!」
ならばとシンジがマヤへ同意を求めると、マヤは立ち上がりながら応えた後、紅く染まった顔を両手で隠して左右にイヤンイヤンと振りまくり。
「シンジ君っ!!真面目にやりなさいっ!!!」
『解ってますよ。でも、ミサトさんもとっくに気付いているでしょうけど・・・。このままだと打つ手がありませんよ?』
「ええ・・・。解っているわ」
ミサトは嫉妬心あらわにシンジを怒鳴りつけるが、表情を真剣な物へと変えたシンジの現状報告に表情を苦くさせた。
何故ならば、初期作戦は既に瓦解しており、使徒に対する初期分析もあっさりと覆され、裏目裏目に出た防戦一方が今の現状だからである。
その上、使徒は加粒子砲の火力に強弱をつけて隙を作らず、絶え間なく攻撃を続けている為、初号機が防御から攻撃に転ずるのはかなり至難の技。
実際、シンジがミサト達と会話している間も、使徒は初号機の5層のATフィールドを何とか破ろうと試みて攻撃をし続けている。
それ故、シンジは常に気を抜く事が出来ず、正にシンジが言った言葉通り、先にシンジと使徒のどちらが降参するかの力比べになっていた。
『解っているなら、どうして戦力を出し惜しみするんです?何故、起動実験に成功しているはずの零号機を使わないんです?
 今、ミサトさんも言いましたけど、形振りなんて構っている場合ではないはず・・・。僕の命どころか、人類滅亡がかかっているんでしょ?』
「そ、それは・・・。」
するとシンジはミサトがゲンドウへ言えなかった言葉を言い放ち、ミサトは言い淀みながら救いを求めて司令席を見上げる。
『それとも・・・。まさか、そんな事はないと思いますけど・・・。僕なら幾ら危険な目にあっても良いけど、綾波はダメとか?
 だとすると、1人矢面に立たされている僕は何なんでしょうね?ああ・・・。なんて、可哀想な僕・・・。父さん、酷いや・・・・・・。』
釣られる様に発令所全ての視線が司令席へ集まり、シンジは声を悲しそうに震わせて、誰も自分を見ていないのを良い事にニヤリと笑った。
「碇、まずいぞ・・・。このままでは司令部に対して不信が広がりかねん」
「・・・・・・・・・。」
集まった視線に危機感を感じ、冬月はゲンドウの耳へ口を寄せて行動を促すが、ゲンドウはゲンドウポーズをする腕を震わせて無言を貫き通す。
「いい加減にしろ。シンジ君の言う事の方が明らかに正しい・・・。それとも、お前は意地を張ってここで終わるつもりか?違うだろ?」
「くっ・・・。零号機、発進準備だ」
それでも、冬月に尚も説得され、ゲンドウは勝ち誇った様なシンジのニヤリ笑いを悔しく思いながら唇を噛んで苦々しく号令を出した。
「了解っ!!零号機、発進準備っ!!!マヤちゃん、じゃなくて・・・。リツコ、何秒かかるのっ!!!?」
「140秒でいけるわ」
すぐさまミサトは喜び顔を正面に戻して指示を出し、興味深そうに司令席を見上げていたリツコも振り向き戻り、零号機の発進準備を進めてゆく。
「シンジ君、聞いての通りよっ!!もう少しだけ頑張ってっ!!!」
『了解っ!!』
皆の視線が正面へ戻ると共にニヤリ笑いを消したシンジは、ミサトへ親指をニュッと立てて突き出した後、改めて使徒へ意識を集中させた。


(あと140秒、2分弱・・・。辛いね。我慢できるかな?)
ミサトへは元気の良い返事を返したシンジだったが、本音の内心ではちょっぴり焦っていた。
だが、その焦りは使徒の攻撃を2分弱ほど防ぎきる自信がないと言う理由ではない。
それは己自身にあり、ATフィールドを5層にして以来、体の奥底で静かに脈打ち、解放の時を今か今かと待つ本来の力がその焦る理由。
実を言うと、見た目にはかなりピンチに見えるシンジだが、これでも精一杯に力をセーブしていた。
もしシンジが本気を出せば、楽勝とはいかないにしても十分互角な戦いが出来るのだが、それではわざわざ茶番を演じている意味がない。
では、どうして茶番を演じているかと言えば、それは零号機出撃による戦術的勝利と初号機単独出撃による戦術的敗北にその目的があった。
こうする事により、ネルフはシンジと初号機だけを頼る事がなくなり、今後は戦いの際に複数のエヴァを用いた戦術を考えると言う事になる。
また、他にも後日に来日するアスカへ要らぬ敵愾心を抱かす事を省き、何よりもネルフを裏で操っている人類補完委員会へのアプローチがあった。
何故ならば、活躍が突出し過ぎると『出る杭打たれる』の諺通り、人類補完委員会によって初号機が危険視されて封印されかねない。
シンジはその為に綾波邸で暴発寸前だった若さを我慢してレイの期待を裏切り、レイが零号機起動実験へ必ず間に合うようさせたのである。
万が一、シンジがレイの期待に応えていれば、綾波邸で確実に小一時間ほど滞在する事となり、レイが零号機起動実験に遅刻してしまうのは確実。
そうなれば、必然的に零号機起動実験のスケジュールが遅れ、下手すると使徒襲来により実験自体が後日になってしまう可能性がなくもない。
そして、シンジは過去の経験により、レイが零号機起動実験に必ず成功する事も、零号機起動実験の日に使徒が襲来する事も知っていた。
「ミサトさん、あとどれくらいですか?」
『あと110秒よっ!!』
「げっ!?まだ、そんなにあるんですか?聞かなきゃ良かった・・・。」
シンジは体の奥底から湧き出てくる衝動を必死に耐え、辛抱たまらず作戦開始時間を問うが、ミサトから返ってきた応えに頭をガックリと垂らす。
『こちらでも、出来る限りの援護をするからっ!!・・・日向君、弾幕張ってっ!!!』
『了解っ!!』
ミサトは応援を送りながらもシンジの表情から辛さを知り、日向へ少しでもシンジの気休めになればと指示を飛ばす。
シュパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパッ!!
チュドチュドチュドチュドチュドォォォォォーーーーーーンッ!!
一拍の間の後、使徒の周囲にある兵装ビルが一斉に火を噴き、ミサイル群がノーガード状態の使徒に命中して激しい爆炎と爆煙を上げる。
(おやおや・・・。出来れば、あまり刺激して欲しくないんだけどな・・・・・・。)
しかし、使徒は兵装ビルなど眼中にないと言わんばかりに目標を初号機へ定めたまま攻撃を続け、シンジがその光景に表情を渋くさせた。
シュパパパパパッ!!
          チュドチュドォォーーーンッ!!
シュパパパパパッ!!
          チュドチュドォォーーーンッ!!
シュパパパパパッ!!
          チュドチュドォォーーーンッ!!
それでも、兵装ビルはミサトの命令を守って諦める事を知らず、使徒へただひたすら無意味に近い攻撃をし続ける。
シュパパパパパッ!!
          チュドチュドォォーーーンッ!!
シュパパパパパッ!!
          チュドチュドォォーーーンッ!!
シュパパパパパッ!!
          チュドチュドォォーーーンッ!!
しばらくすると、不意に使徒はクリスタル内部から光を放って表面を眩いばかりに輝かせ始め、その青い表面が光で真っ白に変わった次の瞬間。
パリィィィィィーーーーーーンッ!!
「ちっ・・・。」
ガラスが割れる様な音が響くと共に、使徒のクリスタル表面一層が砕け散って破片が辺りへ散らばり、シンジが忌々し気に舌打った。


「もしかして、やったの?・・・日向君、じゃんじゃん撃ち続けてっ!!」
表面一層とは言えども効果があると確信して、ミサトが声高らかに日向へ攻撃続行を指示したその時。
ピキピキピキピキピキィィィィィーーーーーーンッ!!
「・・・へっ!?」
砕け散った破片が8カ所へ集まって、それぞれが使徒をミニチュアにした正八面体を形作り、ミサトは何が起こったんだと思わず茫然と目が点。
キュインッ!!
       キュインッ!!
キュインッ!!
       キュインッ!!
キュインッ!!
       キュインッ!!
キュインッ!!
       キュインッ!!
その内の1つが初号機へ放たれている青白い光線の中へ飛び込み、青白い光線が小さなクリスタルを通過して8本の青白い光線へと拡散する。
チュドンッ!!
       チュドンッ!!
チュドンッ!!
       チュドンッ!!
チュドンッ!!
       チュドンッ!!
チュドンッ!!
       チュドンッ!!
そのまま1本は初号機へ向かい、残りの7本はそれぞれの小さなクリスタルで反射し、攻撃していた兵装ビルを目指して次々と破壊してゆく。
「・・・な、なんて、インチキ」
「ひ、非常識ね・・・。」
一瞬にして兵装ビル群は沈黙してしまい、ミサトはモニターの光景に茫然から立ち直れないまま呟き、リツコも茫然とミサトの意見を同意する。
「反射兵器、初号機周辺に取り付きましたっ!!」
「2時から攻・・・。いや、6時、8時っ!!ダメですっ!!!とても、動きを追いきれませんっ!!!!」
青葉と日向の報告と共に、使徒は再び初号機のみへ攻撃を向け、初号機周辺に配置した小さなクリスタルの反射を使ってオールレンジ攻撃を開始。
「リツコっ!!零号機はまだなのっ!!?」
「あと70秒・・・。いえ、55秒だけ待ってっ!!!」
ミサトはこの攻撃に焦りを隠せず怒鳴り声をあげ、リツコが作業を急いでキーボードを叩く高速キータッチを神速キータッチへと変える。
「先輩、頑張ってっ!!」
その後ろでは、リツコに立場を奪われたマヤが、本来の席である引出から取り出した白衣を纏ってリツコ気分を味わいながら応援を送っていた。


(これはまいったな・・・。)
初号機の両腕を左右に大きく広げさせ、使徒の攻撃をATフィールドの広域放出で防ぎながら、シンジは本格的に焦り始めていた。
何故ならば、先ほどまでの指向性の物とは違い、広域放出では方向性が全周囲に分散した為、壁の厚さが指向性のと比べて格段に薄いからである。
その上、使徒もそれが解っているらしく、現在攻撃中の青白い光線は本気時に比べて細く、初号機を一気に倒すべくエネルギーを溜めていた。
(予定が変わるけど仕方がない。少しだけ本気を出して・・・。あとはミサトさんに頑張って貰うとするか)
シンジもまた使徒の意図を正確に見抜き、シンジが素早く決断して左手で左目を覆い隠した次の瞬間。
「はっ!!」
初号機はATフィールドを解き放ち、バックステップで青白い光線を紙一重で避けながら回収ハッチ位置まで後退。
「・・・・・・・・・。」
すぐさま初号機はMEソードを右片手上段に構え、シンジの口が何か言葉を喋る様に声なく動き、左手の指の隙間から赤い光が淡く漏れた直後。
「食らえっ!!」
ブォンッ!!
初号機が刀身にオレンジ色の強烈な輝きを纏ったMEソードを振り落とし放ち、使徒へ目がけて勢い良く投げつけた。
キュインッ!!
初号機の思わぬ行動に、攻撃を一瞬だけ躊躇った様に止めるが、使徒は迫り来るMEソードごと初号機を撃破しようと極太の青白い光線を放つ。
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!
だが、MEソードの切っ先がその極太の青白い光線を左右に切り裂き、初号機の脇を2本の青白い光線が通り過ぎって行った。


『今だっ!!ハッチ、開いてっ!!!』
「えっ!?でも、零号機があと20秒で・・・。」
零号機の出撃準備が間もなく整うと言うのに、シンジから撤退要請がなされ、ミサトは戸惑いながらも援軍がすぐ届くとシンジへ告げようとする。
『状況は既に変わっているっ!!このまま策もなく出て行ってもやられるだけだっ!!解ったら、さっさと開けろっ!!!!ミサトっ!!!!!』
「は、はいっ!!シ、シンジ様っ!!!」
だが、シンジはミサトの言葉を遮って矢次早に怒鳴りつけ、ミサトが即座にシャキーンッと直立不動になってシンジの意見を採り入れた次の瞬間。
「「「シ、シンジ様ぁぁ~~~っ!?」」」
「・・・はっ!?」
リツコと日向と青葉がミサトへ驚きに見開いた視線を向け、ミサトは今さっき公衆の面前で言い放った自分の言葉に気付いて顔を真っ赤に染めた。
「シンジ様・・・。どういう意味?」
「シ、シンジ君っ!!と、年上に向かって呼び捨てはないでしょっ!!!そ、それに作戦指揮権は私にあるのよっ!!!!」
辺りがシーンと静まり返る中、首を傾げたマヤの不思議声だけが響き、焦ったミサトは声を上擦らせながらシンジを非難して誤魔化しを計る。
『何、やっているっ!!もう保たないぞっ!!!』
「は、はい、只今っ!!・・・ひゅ、日向君、何やってんのっ!!!は、早くハッチを開きなさいっ!!!!」
しかし、MEソードの効果が薄れ始め、青白い光線が2本から再び1本へなりつつある事に焦るシンジから叱られ、ミサトはあっさりと掌を返す。
「りょ、了解・・・。」
「・・・か、葛城さん。さ、作戦指揮に関わりますから・・・。そ、そういう趣味は持たない方が良いと思うっス」
「ミ、ミサト・・・。あ、あなた、やっぱり・・・・・・。」
「葛城さん、どうしたんですか?」
日向は何故か涙をルルルーと流して指示に従い、青葉とリツコは顔を引きつらせて大粒の汗をタラ~リと流し、マヤがミサトの態度に首を傾げる。
「(シ、シンジ様・・・。こ、これも、そうなんですか・・・。そ、そういう事は家だけでお願いします・・・・・。)ほふぅぅ~~~・・・。」
ミサトの心中は全くの謎だが、ミサトは皆の視線に後ずさって背を壁にぶつかると、紅く染まった顔を両手で隠した下で切なそうな溜息をついた。


ガシャンッ!!
ハッチが開き、初号機が射出台を待たずしてその穴へ飛び込むと、1本になった極太の青白い光線が初号機の頭上をかすめて通過していった。
チュドドドドドォォォォォーーーーーーンッ!!
青白い光線は道路の先にあったビルを貫き、背後のビル群をも融解してゆくが、使徒はその途中で青白い光線の放出を中断。
ファァ~~~ン・・・。
           ファァ~~~ン・・・。
ファァ~~~ン・・・。
           ファァ~~~ン・・・。
ファァ~~~ン・・・。
           ファァ~~~ン・・・。
一拍の間の後、使徒はその場に滞空したまま潜水艦のソーナー音の様な音波を発し始めた。
ファァ~~~ン・・・。
           ファァ~~~ン・・・。
ファァ~~~ン・・・。
           ファァ~~~ン・・・。
ファァ~~~ン・・・。
           ファァ~~~ン・・・。
しばらくすると、使徒はその音波を止め、静かに何かを目指して移動して行く。
ブゥゥゥゥゥゥ~~~~~~ン・・・。
ネルフ本部の真上、第三新東京市ゼロ地点と呼ばれる位置で正確に立ち止まり、使徒は下部よりドリルシールドを突出させて地面に突き立てる。
ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリッ!!
そして、避難勧告で人影はなく静寂が満ちる街中に、大地を掘削してドリルが回る音だけが響き渡り始めた。




真世紀エヴァンゲリオン
M E N T H O L

Lesson:6 決戦、第三新東京市





<ネルフ本部・総合作戦司令室発令所>

ブォォーーーン・・・。
無人のモーターボートに牽引され、初号機のバルーン・ダミー3体が芦ノ湖3方向より使徒へ接近して行くが、使徒からの反応は全くない。
キュインッ!!・・・バシュッ!!!
『敵、加粒子砲命中。ダミー、蒸発』
だが、3体の内の1体が本物のエヴァ用リボルバー銃を構えた途端、使徒から青白い光線が的確にその1体へ放たれ、ダミーが瞬時に蒸発する。
「ほほう・・・。次っ!!」
その様子をモニターで眺め、ミサトは腕を組んで何やらニヤリと笑い、次なる指示を出す。
ガッガッガッガッガッ・・・。
ウィィーーーン・・・。ガチャンッ!!
すると使徒から随分と離れた位置にある山裾のトンネルから独12式自走臼砲列車が現れ、砲身が使徒目がけて固定された一拍の間の後。
ドキュゥゥーーーンッ!!・・・・・・カキィィーーーンッ!!!
砲身が火を噴いて赤白い光線が使徒へ伸びるが、使徒の目前であっさりとATフィールドに弾かれ、空の彼方へと消えて行った。
キュインッ!!・・・・・・チュドォォーーーンッ!!!
『12式自走臼砲消滅』
そして、使徒はATフィールドを解除すると、返す刀で青白い光線を放ち、独12式自走臼砲列車が爆発炎上する。
「この距離で、あの出力だと防御してから攻撃か・・・。次っ!!」
ミサトは何やら確信して顎をさすりながら考え込み、次なる指示を出す。
ブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルッ!!
プシュ、プシュ、プシュ、プシュッ!!
山陰から8機の無人攻撃ヘリが散開して現れ、その内の4機が一斉に使徒へ対空ミサイルを放つ。
キュインッ!!・・・ドガドガドガドガァァーーーンッ!!!
『こちらの攻撃、全て防がれました』
その攻撃に使徒はATフィールドを用いず、小さなクリスタルを使って光線を4本に拡散させ、有る程度近づいた位置でミサイルのみを迎撃。
「・・・なるほどね」
ミサトは表情から険しさを消すと、笑みを漏らして満足そうに頷いた。


<ネルフ本部作戦課・第2分析室>

『これまで採取したデーターによりますと、目標は敵意を感じ取って一定範囲内の外敵を自動排除するものと推測されます。
 そして、恐らく使徒が微弱に発している音波の様な物が攻撃範囲と思われ・・・。この通り、現在は第三新東京市を完全に被っています』
床の巨大モニターの周囲を作戦部員達が立ち取り囲み、進行役の作戦部員がモニターの映像と共に書類のデーターをマイクで読み上げてゆく。
「エリア侵入と同時に加粒子砲で100%狙い撃ち。エヴァによる近接戦闘は危険すぎますね」
「・・・そうね」
ミサトの脇に立つ日向は副官としての意見を具申し、唯一上座の椅子に座っているミサトは足と腕を組んで表情を険しくさせていた。
『しかし、全く手がないとも言えません。こちらを御覧下さい。
 確かに単方向の加粒子砲の出力は強大な物ですが・・・。多方向、拡散した場合は明らかに出力が落ちています。
 ここから当初の推察通り、目標は一定エネルギー量しか放出できず、初号機へ最後に見せた出力が恐らく最大の物と考えられます』
「ですが、零号機のスペックとファーストチルドレンのシンクロ率を考えると・・・。初号機との連携は難しいですよ?」
「ええ・・・。オフェンスにしろ、バックアップにしろ、レイではちょっち荷が重いわね・・・・・・。ATフィールドは?」
『これもほぼ加粒子砲と同じ傾向が見られ、加粒子砲とATフィールドのエネルギー量も一定と考えられます。
 現に攻撃後にすぐ展開したATフィールドは弱く、ATフィールドを単独で展開した物は強力な物となっています』
「しかし、あのオールレンジ攻撃で対応されたら誘導火砲、爆撃などでは一溜まりもありませんね。こりゃ・・・。」
「攻守ともにパーペキ。まさに空中要塞ね・・・。で、問題のシールドは?」
進行役の作戦部員は何とか活路を見出そうとするが、日向に悉く却下され、ミサトも日向の意見に頷き、当面の危機を心配して報告を求める。
『現在、目標は我々の直上、第三新東京市0エリアに侵攻。
 直径17.5mの巨大シールドがジオフロント内のネルフ本部に向かって穿孔中です』
「敵はここ、ネルフ本部へ直接攻撃を仕掛けるつもりですね」
「しゃらくさいっ!!・・・で、到達予想時刻は?」
するとモニターがリアルタイム映像に切り替わり、相変わらず使徒がドリルシールドで大地を掘削している姿が映し出された。
「明朝、午前00時06分54秒。その時刻には22層全ての装甲防御を貫通して、ネルフ本部へ到達するものと思われます」
「あと10時間たらずか・・・。」
『敵シールド、第1装甲板に接触』
日向とミサトがその様子を眺めながら意見を交わしていると、順調に掘り進んでいたドリルシールドの動きが鈍り、発令所の青葉から報告が届く。
「お出でなすったわね・・・。んっ!?」
「・・・どうしました?」
「日向君、変だと思わない?何故、使徒は最初から本気で攻撃してこなかったのかしら?
 それどころか、こちらの動きに使徒は全て後手に回っているわ。
 それでいながら、その後はこちらの動きに攻撃手段を対応する様に次々と変えてきている。そう、まるで進化するみたいに・・・・・・。」
ミサトは不敵にニヤリと笑った後、眉をピクリと跳ねさせ、不思議顔を向けた日向へふと浮かんだ疑問を問いかけてみる。
『・・・進化?』
だが、その疑問に反応したのは、モニター隅の通信ウィンドウで作戦に参加していたリツコだった。


<ネルフ本部内・初号機ケイジ>

(進化・・・。進化・・・。進化・・・。進化・・・。進化・・・。つい最近、何処かで聞いた覚えがあるわ。いつだったかしら?)
管制室で初号機の胸部装甲板の取り外し作業を眺めていたリツコは、何かを必死に思い出そうと目を瞑って眉間へ皺を刻む。
『・・・。・・・コ。・・・ツコ。・・・リツコ。リツコ。リツコっ!!』
「はっ!?な、なにっ!!?」
だが、ミサトの呼び声に邪魔され、リツコは驚きながらも現世へすぐさま帰る。
『何じゃないわよ・・・。さっきから初号機の方はどうかって聞いているでしょ?』
「胸部第3装甲板まで見事に融解。機能中枢をやられなかったのは不幸中の幸いだわ」
ミサトは話を聞いていなかったリツコに溜息をつき、リツコは驚いた動揺を隠そうと右手に持っていたコーヒーカップを口に含む。
「あと3秒照射されていたらアウトでしたけど・・・。1時間半後には換装作業も終了予定です」
「・・・だそうよ」
リツコの隣に立つマヤはそんなリツコをフォローすべく追加説明を加え、リツコがコーヒーカップをコンソールへ下ろしたその時。
『了解。・・・で、使えるの?』
「再起動自体に問題はないけど、フィードバックに誤差が残るから近接戦闘の様な実戦は難しいわね。・・・っ!?」
ミサトが映る通信ウィンドウの後ろを大穴の空いた初号機の胸部装甲板が通り過ぎて行き、リツコの脳裏にある光景がフラッシュバックした。

《リツコ回想》

「やってくれるじゃないか・・・。っ!?」
攻撃を受けて倒れた初号機を起き上がらせ、シンジが使徒を睨もうとして驚きに目を見開く。
「ちっ・・・。自己進化したのか」
そして、それぞれの厚みと太さはなくなったが、第4使徒の左右にうねる6本になった光の鞭に舌打ち、シンジが忌々しそうに呟いた。 

(そうよっ!!あの時っ!!!・・・間違いない。確かにそう言ったわ・・・。何故、こんな重要な事を忘れていたの。私は・・・・・・。)
記憶の復活と共に先ほど解けなかった疑問が解け、リツコは悔しそうに右親指の爪を噛んで奥歯をギリギリと鳴らす。
「(私の考えが正しければ、彼は先ほどの戦いでも何らかの反応を見せていたはず。これは調べる必要があるわね・・・。)
 フッフッフッフッフッフッフッフッフッフッフッフッフッフッフッフッフッフッフッフッフッフッフッフッフッフッフッフッフッフッ・・・。」
(せ、先輩・・・。こ、怖いですぅぅ~~~・・・・・・。)
そうかと思ったら、リツコは初号機ケイジに怪しさ爆裂の含み笑い声を響かせ、恐怖したマヤは腰を引きながらリツコから後ずさった。


<ネルフ本部作戦課・第2分析室>

「初号機専属パイロットの心理面での影響は?」
初めての敗北にシンジが落ち込んでいるのではと心配して、ミサトは表情を険しくさせて日向へ問いかける。
「問題ありません。この通り、今もジオフロント湖にボートを浮かべて昼寝をしているくらいですから」
「暢気と言うか、剛胆と言うか・・・。まあ、この調子ならやれそうね」
だが、日向の報告とモニターに映し出されたシンジの様子に、ミサトは心配して損したと溜息をつきながらも安心して苦笑を浮かべた。
『敵、シールド到達まで、あと9時間55分』
「だけど、状況は芳しくないわね」
「白旗でもあげますか?」
それも束の間、発令所の青葉から報告が入ると、ミサトは再び表情を険しくさせ、日向はわざと戯けた口調で出来もしない選択をミサトへ勧める。
「その前にちょっちやってみたい事があるの。・・・シンジ君がその身を犠牲にして教えてくれた事があるからね」
応えてミサトはモニターのシンジへ優しく微笑み、その横顔に一瞬前の余裕をなくした日向は、何故か声を立てず涙をルルルーと流し始めた。


<ネルフ総司令官公務室>

「目標のレンジ外からの超々長距離直接射撃とは・・・。そんな事が可能なのかね?」
「はい・・・。使徒の特性を考えた結果、目標のATフィールドを中和せず、高エネルギー収束帯による一点突破しか方法はありません。
 これは先の戦いで使徒が初号機のATフィールドを破った事から、大出力の火力でならばATフィールドをも突破できると結論づけました」
ミサトの口から出た作戦に、司令席脇に立つ冬月が驚きと呆れを半々にした表情を浮かべるが、ミサトは怯まず自信満々な表情を冬月へ返す。
「MAGIはどう言っている?」
「スーパーコンピューターMAGIによる回答は賛成2、条件付き賛成1。勝算は17.4%ですが・・・。これが最も高い数値です」
「ふむ、それならば・・・。」
それでも不安の色を隠せない冬月に、ミサトは解りやすい数字の質草を提示し、冬月は顎に手を置いて唸りながらミサトの作戦に頷いた。
ちなみに、冬月とミサトの会話に出てきた『MAGI』とは、ネルフの大まかな運営を司っているメインコンピューターの事である。
「問題あり・・・。却下する」
「はい、ありがとうございます・・・って、ええっ!?」
そこでゲンドウはようやく口を開き、まさか反対されるとは思ってもみなかったミサトは、思わず礼を言った後にビックリ仰天。
「碇、どうしてだ?私は良い作戦だと思うがな」
「大まかな内容は問題ない・・・。しかし、レイがシンジの盾になるのが気にくわん。シンジをレイの盾にしろ」
冬月も驚いて見開いた目をゲンドウへ向けると、ゲンドウはゲンドウポーズで隠した口元をニヤリと歪ませ、ミサトへ作戦案の変更を求めた。
「しかし・・・。その場合だと作戦成功率は1.6%にまで落ちますが?」
「問題ない。レイなら努力と根性でカバーするだろう・・・。レイは頑張り屋さんだからな」
納得のいかないミサトは先ほど同様に解りやすい数字を提示して反対するが、ゲンドウは意味不明な根拠でミサトを畳みかける。
「・・・ど、努力と根性ですか?」
ゲンドウの口から出てきたとは思えない言葉に顔を引きつらせながら、ミサトはゲンドウが言う頑張り屋さんのレイを想像し始めた。

《ミサト想像》

「任せて下さいっ!!葛城三佐っ!!!使徒は私が必ず倒してみせますっ!!!!」
作戦前、緊張するミサトをリラックスさせようと、不敵な笑みを浮かべ、親指をニュッと立てて突き出して見せるレイ。
「1.6%の確率なら、その100回に1回を見せてあげるっ!!そうよ、この作戦には葛城三佐の魂が込められているんだからっ!!!」
いかに低い作戦成功率でも、一度使徒と対峙すれば勇猛果敢に立ち向かって行くレイ。
「えっ!?外したっ!!?・・・でも、見えるっ!!!!そこっ!!!!!零号機は伊達じゃないのよっ!!!!!!」
攻撃を外して致命的なミスをしてしまうも、不屈の闘志で諦める事を知らず立ち上がるレイ。 

「レ、レイにそれはちょっち無理だと思うんですけど・・・。」
「・・・い、碇、私も葛城三佐の意見が正しいと思うぞ?」
あまりに現実味のない想像に、ミサトは顔を引きつらせて大粒の汗をタラ~リと流し、似た様な想像をした冬月もミサトと同じ反応を見せる。
「問題ない・・・。それをカバーするのが努力と根性だ」
「だから、それが無理だと言っているのが解らんのか?」
しかし、ゲンドウは頑なに自分の考えを貫き、その強情さの下らない源を知り過ぎている冬月は、深い溜息をついてゲンドウを諭す。
「うるさいっ!!とにかく、司令命令だっ!!!解ったなっ!!!!葛城三佐っ!!!!!」
「は、はあ・・・。」
するとゲンドウは遂に強硬手段の勅命を発して冬月の説得をねじ伏せ、こうなっては悲しい宮仕えのミサトにはただただ頷く事しか出来なかった。


<ネルフ本部・エヴァンゲリオン武器庫>

「しかし、また無茶な作戦を立てたものね。葛城作戦部長さん」
「無茶とは、また失礼ね。残り9時間以内で実現可能、おまけに最も確実なものよ?」
ミサトの作戦に驚きを通り越して呆れるリツコに、ミサトが心外なと言わんばかりに口を尖らす。
「でも、このポジトロンライフルではそんな大出力に耐えられないわよ?・・・どうするの?」
「決まってるでしょう♪借りるのよ♪♪」
目の前に置かれたライフル銃『ポジトロンライフル』を目で指して、リツコが作戦の穴を指摘するが、ミサトはリツコへニヤリと笑い返した。
ちなみに、このポジトロンライフルは、バッテリーカートリッジ式弾装の陽電子を銃弾にする遠距離射撃武器である。
「借りるって・・・。あなた、まさかっ!?」
「そ♪戦自研のプロトタイプ♪♪」
一瞬だけミサトの言葉の意味が解らなかったが、リツコは解るや否や驚愕に目を見開き、ミサトはウインクしてリツコの考えを肯定した。
「呆れた。それで・・・。ATフィールドをも貫くエネルギー産出量の最低1億8千万キロワット。それだけの大電力を何処から集めてくるの?」
「もちろん♪日本中よ♪♪」
「・・・これで作戦が失敗したら、ネルフは確実に終わるわね」
リツコはこめかみへ人差し指を置いて深い溜息をつくが、更なる質問の答えをミサトから聞き、今度は頭痛に改めてこめかみへ人差し指を置く。
「あら、作戦が失敗した時は人類が終わるんだから、そんなのは気にしなくて良いのよ?・・・じゃ、ちょっち出かけてくるから」
そんなリツコに肩を竦めると、ミサトはピクニックにでも出かける様にリツコへ手をヒラヒラと振って武器庫を出て行った。


<戦略自衛隊・つくば技術研究本部・第4待機格納庫>

「以上の理由により、この自走陽電子砲は本日15時より特務機関ネルフが徴発します」
「かと言って・・・。しかし、そんな無茶な・・・・・・。」
「可能な限り、原型を留めて返却するよう努めますので・・・。では、ご協力感謝致します。良いわよっ!!シンジくぅぅ~~~んっ!!!」
徴発令状を突き付け、渋る戦自幹部を無視して話をドンドンと進め、ミサトは戦自幹部の返事を待たず外で待機しているシンジへ合図を送った。
「・・・あれ?」
「どうしたんでしょう?」
だが、幾ら待てどもシンジからのアクションは起こらず、ミサトは不思議そうに首を傾げ、日向も不思議顔をミサトへ向ける。
「あ、危ないっ!!」
「「「「「「「「「うわっ!!うわわわわっ!!!ふうぅぅ~~~・・・。」」」」」」」」」」
すると格納庫の外から何人もの騒がしい声が聞こえ、ミサトと日向が不思議顔を見合わす。
「騒がしいわね。何かしら・・・って、シ、シンジ君っ!?あ、あなた、何をやってんのっ!!?」
そして、ミサトは何事かと格納庫から出て行き、外に居る者達全員が揃いも揃って視線を集めている場所へ視線を移してビックリ仰天。
何故ならば、格納庫脇に立つ初号機の角の上、強風が吹き荒れる地上数十メートルの位置に、シンジが腕を組んで立っていたからである。
「あ、危ないでしょっ!!は、早く降りてきなさいっ!!!」
ミサトは叫んでシンジへ注意を呼びかけるが、シンジは無視して何かを探す様に辺りをキョロキョロと見渡していた。


「あれがネルフのロボットか・・・。」
「・・・何か鬼みたいで悪役っぽいね」
「でも、何しに来たんだろう?」
第4待機格納庫より数百メートルほど離れた森の中にある秘密地下格納庫区画の地上出入口。
そこに戦自敷地内では相応しくないシンジと同じ年齢くらいの作業つなぎ姿の少年少女3人の姿があった。
1人は『ムサシ・リー・ストラスバーグ』、短髪で肌が浅黒く東洋系の顔立ちで勝ち気そうな少年。
1人は『浅利ケイタ』、スポーツ刈りで可もなく不可もなくの弱気っぽい顔立ちをした少年。
1人は『霧島マナ』、ショートカットでタレ目がチャームポイントの活発そうな少女。
実を言うと、この3人は名前こそ持ってはいるが家族はなく、セカンドインパクトの混迷期に捨てられ、戦自に少年兵として育てられていた者達。
無論、国際法で少年兵は禁止されている為、3人同様の少年少女達が他に何人もいるのだが、その存在は全て戦自のトップシークレット。
また、その特性を生かして戦自のとある極秘プロジェクトに携わっており、少年少女達は秘密ロボット兵器のパイロットとして訓練を受けていた。
だからなのか、戦自内で噂の初号機がやってきたとの報を受け、3人は訓練をサボってまで一目見ようと初号機見物へやってきたのである。
(・・・見つけた)
「っ!?」
突如、マナの頭の中で見知らぬ男の子の声が響き、マナは驚いて体をビクッと震わす。
「どうしたんだ?マナ」
「う、うん・・・。な、何でもない」
それに気付いたムサシがマナへ視線を向けると、マナは不思議そうに首を傾げた後、空耳だと結論付けて再び初号機へ視線を向けた。
(マナ・・・。久しぶりだね・・・・・・。)
「っ!?」
だが、すぐにまた頭の中で声が響き、マナはやはり空耳ではないと感じ、誰が呼んでいるのだろうと辺りをキョロキョロと見渡し始める。
「どうした?・・・んっ!?ああ、なるほどな・・・。だから、俺があれほど言っただろ?」
「へっ!?・・・なにが?」
「久々の肉だからってガツガツと食うからだ。便所なら、この道を真っ直ぐ行って、右に曲が・・・。」
ムサシは不思議に思ってマナへ再び問いかけながら、マナの様子にトイレへ行きたいのだと確信して、トイレへの道順を教えようとした次の瞬間。
バギッ!!
「ぶべらっ!!」
マナの放った鉄拳が言葉途中でムサシのテンプルを襲い、数メートルほど見事に吹き飛んだムサシは、脳震盪を起こして大地へ沈黙。
「そんなんじゃないわよっ!!」
(デ、デリカシーのない奴・・・。)
マナは顔を真っ赤に染めて白目を剥いているムサシへ怒鳴り、ケイタは初号機からムサシへ覗いている双眼鏡を向け、大粒の汗をタラ~リと流す。
余談だが、マナ達はこの基地にたまたま1週間ほど前から秘密ロボットの機体調整の為に滞在しているだけであり、本来は別の基地の所属である。
そのマナ達と同じ少年少女達が所属する基地の食事事情はあまり誉めた物ではなく、この基地の普通の食事でもマナ達にとってはご馳走同然。
おかげで、ついつい食が進み、マナは本日昼食の焼き肉定食に狂喜乱舞して5人前ほど平らげている。
それ故、実はマナのお腹事情はムサシの指摘通りであり、誘われて初号機見物へ来たが、マナは先ほどからトイレへ行きたくて仕方がなかった。
(フフ、相変わらずだね。マナ)
「っ!?」
「・・・あれ?角みたいな所に誰かが立っているよ」
頭の中でクスクスと笑う声が響き、マナが再び辺りを見渡し始め、ケイタが改めて双眼鏡を初号機へ向け、角の上に立つシンジに気付いたその時。
「えっ!?・・・ケ、ケイタ、ちょっと貸してっ!!!」
「うわっ!?な、何すんだよっ!!?マ、マナっ!!!?」
マナは自分で何故そう思ったのかは解らなかったが、何かを確信して無理矢理ケイタから双眼鏡を奪い取った。
「っ!?」
「・・・って、どうしたの?」
そして、双眼鏡をシンジに合わせるなりニッコリと微笑まれ、マナは双眼鏡を下ろして驚愕に目を見開き、ケイタが怪訝そうな目をマナへ向ける。
「や、やっぱり・・・。そ、そうなの?」
「・・・何が?」
マナは更に辺りを見渡した上に後ろも振り返り、完全に何かを確信して再び双眼鏡を覗き込むが、傍目のケイタには何が何だかさっぱり解らない。
(それじゃあ、第三新東京市で待っているから・・・。またね)
「それって、どういう意味・・・。あっ!?ちょっと待ってよっ!!!ねえっ!!!!ねえったらっ!!!!!・・・もうっ!!!!!!」
すると双眼鏡の中のシンジは笑顔で手を振り、マナの制止を叫ぶ必死の声も聞かず、角から下りてエントリープラグへ姿を消してしまった。
「・・・誰と話しているの?」
「はい・・・。返す」
「・・・マナ?」
一拍の間の後、マナは双眼鏡を下ろして首を傾げているケイタへ返し、ケイタはそこにあったマナの紅く染まっている顔に不思議顔を深める。
(何だろう・・・。凄くドキドキしている。こんなの初めて・・・。
 ・・・って、それよりも、今はトイレ、トイレ、トイレ、トイレ、トイレぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~~~っ!!)
しばらく、マナは何やらドキドキと高鳴る胸を押さえていたが、壮絶にジンジンと響く痛みに負け、お腹を押さえてトイレへ駈け急いだ。


<日本各地>

『本日、午後11時30分より明日未明にかけて全国で大規模な停電があります。
 皆様のご協力をよろしくお願いいたします。・・・繰り返し、お伝えいたします。
 本日、午後11時30分より明日未明にかけて全国で大規模な停電があります。皆様のご協力をよろしくお願いいたします』
ネルフより日本政府を通じて、そのニュースはあらゆる手段、メディアを通じて日本全国各地へ伝えられた。


<ネルフ本部・総合作戦司令室発令所>

「敵シールド、第7装甲板を突破」
発令所の巨大モニターが幾つも分割表示され、各所の作戦進行状況が発令所に集められていた。
「エネルギーシステムの見通しは?」
青葉の報告にそろそろ時間的余裕がなくなってきた事を知り、ミサトは分割されたモニターの1つへ視線を向け、張りのある声で報告を求めた。


<神奈川県新小田原市>

「現在、予定より3.2%ほど遅れていますが、本日23時10分には何とか出来ます」
国道を徐行速度で走る特殊車両の後方より数十本の太い赤と青の配線が道路へ送り出され、とある山を目指して配線が急ピッチで伸ばされてゆく。


<ネルフ本部・総合作戦司令室発令所>

「ポジトロンライフルはどう?」
返ってきた報告を満足そうに頷き、ミサトは今報告を求めた状況モニターの隣へ視線を移して次なる報告を求める。


<ネルフ本部・技術局第3課電磁光波火器担当>

「技術開発部第3課の意地に賭けても、あと3時間で形にしてみせますよっ!!」
初号機によって戦自から運ばれてきたポジトロンライフルが、技術部員達の手によって戦自では不可能だった技術を用いて組み上げられてゆく。


<ネルフ本部・総合作戦司令室発令所>

「防御手段は?」
返ってきた報告を満足そうに頷き、ミサトは今報告を求めた状況モニターの隣へ視線を移して次なる報告を求める。


<ネルフ本部・第8格納庫>

「それは、もう盾で防ぐしかないわね」
「これが・・・。盾ですか?」
リツコはミサトの要求に苦笑で応え、マヤは目の前にある無骨でいかにも間に合わせな盾に心配そうな表情を浮かべる。
「そう、SSTOのお下がり・・・。
 見た目は酷くとも、元々底部は超電磁コーティングされている機種だし、あの砲撃にも17秒は保つわ。2課の保証付きよ」
そんなマヤの心配を取り除こうとスペックを解説するが、リツコも内心ではマヤと同じ様な心境を抱いていた。
ちなみに、SSTOとはシングル・ステージ・トゥ・オービットの略であり、成層圏の高々度を飛行できる大型旅客機の事である。
「たった17秒ですか?」
「ええ、それだけ保てば大した物よ・・・。それに今回の作戦は元々最初から防御を構想に入れていないから、あくまで念の為の保険なのよ」
あまりに短い防御有効時間に驚くマヤだが、リツコは取りあえずの仕事は終わったと言わんばかりにコーヒーを飲んで一息入れた。


<ネルフ本部・総合作戦司令室発令所>

「結構・・・。狙撃地点は?」
一通りの報告を聞き終わり、ミサトが次なる報告を求めると、分割モニターが全て切り替わって第三新東京市周辺の平面図が映し出された。
「目標との距離、地形、手頃な変電設備を考えると・・・。やはりここです」
「ん~~~・・・。やっぱりね」
応えて日向はキーボードを叩き、とある山の山頂にカーソルを光らせ、ミサトは力強く頷いて目を瞑り、腕を組んで一呼吸を肺に溜める。
「当初の予定通り、狙撃地点は二子山山頂っ!!作戦開始時刻は明朝0時っ!!!以後、本作戦を『ヤシマ作戦』と呼称しますっ!!!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
一拍の間の後、ミサトが目をクワッと見開いて発令所と各所へ檄を飛ばすと、発令所と各所から士気高い声が一斉にミサトの元へ返ってきた。


<ジオフロント湖のほとり>

「・・・綾波かい?」
1人静かに釣りをしていたシンジは、夕陽に伸びる影が背中へ差した事に気付き、その影が振り返らず誰だか解って呼びかけた。
「明日午前0時より発動するヤシマ作戦のスケジュールを伝えます。
 碇、綾波の両パイロットは本日1730、ケイジに集合。
 1800、初号機、及び零号機、起動。
 1805、発進。同30、二子山仮設基地到着。以降は別命あるまで待機。明朝日付変更と同時に作戦行動開始」
レイは返事をせず、スカートのポケットから生徒手帳を取り出し、シンジがサボって出席しなかった作戦会議の内容を淡々と読み上げる。
ヒュンッ!!・・・ポチャンッ!!!
「ねえ、綾波・・・。」
「・・・なに?」
「君は僕に何を望むの?」
シンジは最初から餌の付いていない針を戻して再び湖へ竿を振り、いつになく真剣な口調でレイへ問いかけた。
(私が碇君に望む事・・・。碇君と1つになりたい。心も体も1つになりたい・・・。
 な、何を言わすのよ・・・。はっ!?ま、まさか、碇君はここで凄い事を・・・。で、でも、一昨日読んだ本で予習したから平気・・・。
 だ、だけど、ここはダメ・・・。い、岩場だから背中が痛いの・・・。い、碇君、あそこに草が生えているから、あそこで・・・・・・。)
レイはその問いに妄想力を高めて、頬をポポポポポッと紅く染めて俯き、落ち着きなく身をモジモジ、ソワソワと切なそうにくねらす。
ちなみに、レイがどんな本で何を予習したかは全くの謎だが、それは例によって黒いカバーで包まれた文庫本である事は確か。
更に余談だが、その本のタイトルは『今日はお外で散歩』と言い、レイは本屋で購入時にレジ打ちアルバイトの純情男子高生を驚愕させた。
「僕は解っていたつもりでいたけど、時々解らなくなる事が今でもあるんだ。
 こうして、草も木も、虫も魚も鳥も、ちゃんと存在してそこで生きているのに、僕は本当に生きているのかなってね・・・。
 そして、これが本当は夢で・・・。目が醒めたら、あの赤い海で・・・。僕は世界にたった1人ぼっちなのかなって思うんだ・・・・・・。」
だが、シンジはレイの様子に全く気付かず、夕陽に乱反射して赤く染まったジオフロント湖へ虚ろな瞳を向け、感情のこもらない声で語りかける。
「・・・碇君」
寂しさと重みのあるシンジの声に妄想世界から戻り、レイは何と声をかけて良いか解らず、やっとの思いでシンジの名だけを呼ぶ。
「ごめん・・・。変な事を言っちゃったね。忘れてくれないかな?」
するとシンジもハッと我に帰り、今さっきの自分に自虐的な笑みを浮かべて後ろへ振り返った。
「・・・って、どうしたの?」
「お願い・・・。こうさせて・・・・・・。」
向けられたシンジの儚げな透明な笑みに己の姿を見出し、レイは目を背ける様にシンジの背中へ衝動的に抱きついてシンジの髪へ顔を埋める。
「ああ・・・。良いよ・・・・・・。」
「・・・・・・碇君」
その後、携帯電話が鳴ってミサトから集合の声がかかるまで、シンジとレイはただただ黙って静かにずっとそうしていた。



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